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【研究成果】免疫調節物質であるGalectin-3が早産の発症に中心的役割を果たすことを解明

本研究成果のポイント

  • 本研究により、口腔から感染した歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis(P.g.)(注1)は胎盤に到達し、胎盤細胞によるGalectin-3(免疫物質)(注2)の産生を介して、早産(注3)を引き起こすことを明らかにしました。
  • Galectin-3を対象とした早産の早期診断や新しい治療の可能性を示しました。

概要

早産の主な原因は妊娠中の母体の炎症であるとされていますが、そのメカニズムの詳細についてはほとんど明らかになっていません。歯周炎(注4)に罹患した母親が早産になる危険性は、歯周炎でない母親の約7倍高いと報告されていますので、歯周炎が早産を誘導するメカニズムを明らかにし、早産を予測/制御することは女性の健康増進ならびに新生児のQOLの向上においてとても重要です。

広島大学大学院医歯薬保健学研究科口腔顎顔面病理病態学研究室(髙田 隆教授)の宮内睦美准教授を中心とした研究チームは、歯周病原細菌(P.g.)歯性感染マウスモデルを用い、口腔から感染させた歯周病原細菌が胎盤に感染し、胎盤に傷害を与えるとともに、胎盤における出産関連因子(TNF-α(注5)、IL-8、COX-2(注6))の産生促進や胎盤細胞の接着に必要なCD66aの発現抑制を誘導し、早産が発症すること、これらの胎盤の変化には胎盤細胞から産生される免疫調節物質;Galectin-3が中心的な役割を果たすことを明らかにしました。Galectin-3は羊水や母体の血清中でも 有意に上昇しており、新しい早産の予測/診断のマーカーとなる可能性が示唆されました。また、Galectin-3を対象とした感染/炎症による早産の治療の可能性も考えられます。

本研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

【用語解説】
(注1)Porphyromonas gingivalis
歯周病の原因菌として有名な細菌であり、歯周病原性細菌と呼ばれている。この細菌は歯周病局所ばかりでなく動脈硬化症病変などからも見つかっており、動脈硬化、早産や糖尿病などの全身疾患にも関与していると考えられている。

(注2)Galectin-3
β-ガラクトシドに親和性を持つ糖認識ドメインを有するガレクチンファミリーの1つであり、白血球の機能調整機能などを有する免疫調節因子として感染や炎症に関わるほか、癌細胞に血管新生を誘導し、腫瘍細胞のアポトーシスを制御することが報告されている。

(注3)早産
在胎週数(真の妊娠期間+2週)が22週 - 36週で出産することをいう。22週以前のものは流産という。

(注4)歯周炎
細菌の感染によって引き起こされる歯周組織の炎症性疾患です。歯肉溝部に多くの細菌が停滞し(歯垢)歯肉の辺縁が炎症を起こし、発赤や腫脹が現れる。進行すると歯根膜や歯槽骨が破壊され、最終的に歯が抜け落ちる。

(注5)TNF-α
炎症性サイトカインで、出産関連因子でもある。TNF-αはコラゲナーゼの産生を誘導し、子宮口の熟化に関与する。

(注6)COX-2
誘導型プロスタグランジン合成酵素で、炎症や腫瘍形成などの病態に関係する。プロスタグランジン合成は出産に伴い増加し、子宮平滑筋を収縮させる。

Galectin-3と早産の関係

Galectin-3と早産の関係

宮内睦美准教授からのコメント

私たちはGalectin-3が早産の予測や診断のマーカーとなると考え、現在、妊婦さんの血清の解析を進めています。また、Galectin-3を抑制することで早産を防ぐ可能性も期待できます。これらの研究を通し、早産に伴う新生児の死亡や合併症の発生を防ぐことができればと願っています。

論文情報

  • 掲載雑誌: Scientific Reports
  • 論文題目: Galectin-3 Plays an Important Role in Preterm Birth Caused by Dental Infection of Porphyromonas gingivalis
  • 著者: Mutsumi Miyauchi*, Min Ao, Hisako Furusho, Chanbora Chea, Atsuhiro Nagasaki, Shinnichi Sakamoto, Toshinori Ando, Toshihiro Inubushi, Katsuyuki Kozai and Takashi Takata*
    *Corresponding author(責任著者)
  • DOI番号:doi: 10.1038/s41598-018-21072-y 
【お問い合わせ先】

広島大学大学院医歯薬保健学研究科
歯学講座 口腔顎顔面病理病態学研究室
准教授 宮内 睦美

TEL: 082-257-5632
E-mail: mmiya*hiroshima-u.ac.jp(*は半角@に置き換えてください) 


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