【研究成果】非線形確率モデルの安定性理論〜機械学習と自動化技術の橋渡し〜

本研究成果のポイント

  • 機械学習によるモデル化技術を自動化技術に利活用するための数理基盤
  • 多種多様な機械学習手法に対応
  • 車の自動運転などにおける安全性や快適性の向上に期待

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の河野佑准教授と京都大学大学院工学研究科の細江陽平講師からなる研究グループは、機械学習によるモデル化技術を自動化技術に利活用するための大きなブレイクスルーを実現しました。機械学習は幅広い対象・現象を数式化できますが、非線形確率モデル(※1)と呼ばれる非常に一般的なものが得られ、それを自動化技術に直接用いることは困難でした。本研究では、この抜本的な問題を解決するために「確率Contraction理論」と呼ばれる新たな安定性理論を創出しました。提案理論を基礎として、機械学習で得られるモデルに基づいた自動化技術の開発が可能になると期待できます。
 本研究成果は、IEEE Transactions on Automatic Controlのオンライン版に2023年6月7日付で掲載されました。

 

背景

 自動運転やスマート工場(※2)など自動化技術が近年注目されています。自動化技術の鍵は自動車や工場などの対象の挙動を数式化することです。作成された数式は数理モデルと呼ばれ、これを用いて様々な自動化技術が日々開発されています。扱う対象・現象が複雑になると数理モデルの作成が難しくなりますが、近年では機械学習の発展と普及に伴い、そのような問題が解決されつつあります。
 機械学習を用いると、詳細な(非線形な)数理モデルを作成できるだけでなく、その不正確さも確率的に表現できます。自動化技術を学問とするシステム制御分野の専門用語を用いると、非線形確率モデルが得られます。非線形確率モデルは幅広い対象を表現できますが、従来よりも一般的すぎる数理モデルですので、これが扱えるように自動化技術を発展させる必要があります。しかしながら、これは数学的に非常に難しい問題として知られています。

図1:研究背景

研究成果の内容

 非線形確率モデルを扱える新たな安定性理論として「確率Contraction理論」を創出しました。これは、非線形確率モデルを扱う自動化技術の基礎ができたことを意味します。実は、用いる機械学習技術によって不正確さの表現方法が異なるのですが、提案理論は多種多様な場合をカバーできる極めて一般的なものです。既存の様々な結果も特殊ケースとして含みます。他方、非線形モデルの安定性理論は計算機との相性が悪い(専門的には非線形偏微分方程式を扱わないといけない)ことが知られていましたが、Contraction理論と呼ばれる最先端の技術を用いることで、この問題も部分的に解決できました。

今後の展開

 非線形確率モデルに対して、性能を理論保証できる自動化技術の開発へと取り組めるようになります。例えば、自動運転において、速度の加減速に伴って生じる非線形性や確率的に生じる車両間の情報通信遅延を厳密に扱えるようになり、これらを考慮した制御アルゴリズムを実装することで、安全性を理論保証しつつ、快適性と高燃費性(※3)の向上が期待できます。

掲載論文

  • 著者:Yu Kawano, Yohei Hosoe
  • タイトル:Contraction analysis of discrete-time stochastic systems
  • 掲載誌:IEEE Transactions on Automatic Control
  • DOI:10.1109/TAC.2023.3283678

プロジェクトについて

 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ(JPMJPR2127)、および日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(基盤研究(A):21H04875、基盤研究(B):23H01433、若手研究:21K14185)の支援により行われました。

用語説明

(※1)非線形確率モデル:注目する対象の動きや現象の変化を数式で模倣した数理モデルの一つ。動きや変化の複雑さを非線形性として、曖昧さを確率的に捉えたもの。様々な物理現象は非線形性と確率性の相互作用によって表現できる。
(※2)スマート工場:工場内の機器や生産設備、生産管理システムがネットワークでつながり、工場内のオペレーションが最適化されている工場のこと。
(※3)高燃費性:燃費性能が良いこと。つまり燃費が良いこと。

 

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>

 広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授 河野 佑

 Tel:082-424-7582

 E-mail:ykawano*hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>

 広島大学 広報室

 Tel:082-424-3749

 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 京都大学 渉外部広報課国際広報室

 Tel:075-753-5729 FAX:075-753-2094

 E-mail:comms*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

  (注: *は半角@に置き換えてください)


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