JST戦略的創造研究推進事業において、広島大学大学院統合生命科学研究科の李聖林准教授と落合博講師らは、夜行性の哺乳類の桿体細胞(※1)が持つクロマチンの空間構造形成に細胞核の動的変形が重要に関わることを解明しました。
夜行性の哺乳類であるマウスの桿体細胞が持つクロマチンの空間構造形成は昼行性の哺乳類の桿体細胞が持つクロマチンの空間構造から再構築(リモデリング)されることが知られていましたが、その仕組みは大きな謎として残っていました。その謎を、新しい数理モデリングアプローチ手法を用いて理論で提案し、生体内外の実験でその仮説を証明することに成功しました。
本研究では、非常に複雑な仕組みに基づいていると考えられてきたクロマチン構造のリモデリング現象が、細胞の自然な物理的現象とも言える細胞の動的挙動に由来する細胞核のランダムな動的変形が関与していることを見出しました。
本研究は、名古屋大学の小坂田文隆准教授と共同で行いました。
本研究成果は、科学誌「PLOS Computational Biology」のオンライン版で公開されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
- 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
- 研究領域:「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働」
(研究総括:國府 寛司 京都大学 大学院理学研究科 教授)
- 研究課題名:「動的変形空間による細胞機能決定機構の解明及びIn vitro実験への検証」
- 研究者:李 聖林(広島大学 大学院理学研究科 准教授)
- 研究実施場所:広島大学
- 研究期間:平成28年10月~令和2年3月
上記研究課題では、空間(ドメイン)の動的変形が遺伝子あるいは生体分子の空間パターン形成を制御することを明らかにし、細胞の物理・幾何学的性質により細胞機能が制御できる可能性を提示することを目指します。遺伝子あるいは生体分子の動態をそれらが置かれている環境(細胞核または細胞)との関連性に注目していく本研究は、遺伝子操作を使わずに細胞機能を制御可能にする新しい枠組みを数学的手法から提案し、In vitro実験で検証していきます。
(※1) 桿体細胞(かんたいさいぼう)は、視細胞の一種である。眼球の網膜上に存在し、光の強弱に応じた明暗の認識に関わり、色覚にはほとんど関与しない。
Phase-filed法の数理モデルを用いた細胞核の動的変形による核構造の再編成過程のシミュレーション