• ホームHome
  • 大学院統合生命科学研究科
  • 【研究成果】陸上植物に共通する生殖成長期移行のための分子スイッチを解明 ~コケ植物から種子植物まで・短いRNAが制御する成長期移行~

【研究成果】陸上植物に共通する生殖成長期移行のための分子スイッチを解明 ~コケ植物から種子植物まで・短いRNAが制御する成長期移行~

本研究成果のポイント

  • コケ植物ゼニゴケ(注1)において、マイクロRNAの一種(注2)による標的転写因子(注3)の発現制御が生殖成長期への移行を決定していることを明らかにしました。
  • この制御メカニズムが生殖成長期移行のための分子スイッチとして、コケ植物から種子植物まで共通であることが確かめられました。
  • この成果は環境変動下での農産物やバイオマスとなる作物生産の安定化などにつながることが期待されます。

用語解説

(注1) ゼニゴケ
タイ類に属するコケ植物。進化の中で陸上に上がった最初の植物の面影を、現存植物の中で一番色濃く残していると考えられる。2017年にゲノム配列が解読され、分子生物学的なツールが整備され、新たなモデル植物として注目されている。

(注2) マイクロRNA
遺伝子発現を抑制する調節性小分子RNAの一種で、真核生物に広く保存されている。ゲノムDNAにコードされており、一度転写されたのちにプロセシングという過程を経て、21塩基ほどの長さとなって機能する。自身と相補的な塩基配列を持った標的遺伝子mRNAの発現を転写後レベルで抑制し、miR156/529cはオフのスイッチを担う。

(注3) 転写因子
染色体DNA上の遺伝子を発現する上で重要な調節領域に結合し、時期や環境に応じてその遺伝子からmRNAの転写を調節する機能を持ったタンパク質の総称。SPL2タンパク質はその一種で、オンのスイッチを担う。

概要

マイクロRNAの1種であるmiR156/529ファミリーは、コケ植物から種子植物まで共有されています。種子植物の花はその中にオス、メスに相当する器官を作り、受精を成立させます。種子植物を用いたこれまでの研究から、SPLと呼ばれる標的転写因子の発現がmiR156/529ファミリーによって抑えられなくなることが、花を咲かせるスイッチとなることがわかっていました。一方、花は咲かせないコケ植物でもオス、メスそれぞれの生殖器官を作り、受精を成立させますが、そのメカニズムが使われているかは不明でした。

東京大学大学院総合文化研究科の都筑正行助教、渡邊雄一郎教授、岡山理科大学理学部の濱田隆宏准教授(研究当時東京大学大学院総合文化研究科助教)らのグループは、京都大学大学院生命科学研究科の荒木崇教授、河内孝之教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の嶋村正樹准教授のグループと共に、コケ植物ゼニゴケにおいても通常の栄養成長期ではmiR156/529ファミリーがSPL2転写因子の発現を抑制していること、その抑制が環境刺激などによって解かれるとオスとメスの生殖器官を作る有性生殖成長期への移行が促進されることを明らかにしました(図1)。これは陸上植物で共通する、生殖成長期移行のための分子スイッチを発見したといえます。

本研究による成果は、陸上植物の生活環を共通原理から理解することに繋がり、また陸上植物の生活環制御技術の開発に繋がると考えられます。

陸上植物間で共有されたマイクロRNAを介した成長期移行制御メカニズム

図1: 陸上植物間で共有されたマイクロRNAを介した成長期移行制御メカニズム
本研究は、コケ植物ゼニゴケにおいてmiR529cがMpSPL2転写因子の発現を抑制することで、栄養成長期から有性生殖成長期への移行を抑制していることを明らかにした。種子植物シロイヌナズナにおいては、8遺伝子座から発現するmiR156が9つのSPL転写因子ファミリーの発現を抑制して花成時期を遅らせる。シロイヌナズナでは内在性・環境シグナルがmiR156の発現を抑制することで花成を誘導するが、コケ植物では遠赤色光のシグナルがmiR529cの発現を抑制することで有性生殖器官の発生を誘導する。コケ植物と種子植物は生活環や形態が大きく異なるが、同様のスイッチを用いて生殖成長期への移行を制御している事を示している(図はCurrent Biologyに掲載されるGraphical Abstractを日本語に翻訳したもの)。

論文情報

  • 掲載雑誌: Current Biology
  • 論文題目: An early arising role of the microRNA156/529-SPL module in reproductive development revealed by the liverwort Marchantia polymorpha.
  • 著者: Masayuki Tsuzuki, Kazutaka Futagami, Masaki Shimamura, Chikako Inoue, Kan Kunimoto, Takashi Oogami, Yuki Tomita, Keisuke Inoue, Takayuki Kohchi, Shohei Yamaoka, Takashi Araki, Takahiro Hamada, Yuichiro Watanabe
  • DOI番号: 10.1016/j.cub.2019.07.084
【お問い合わせ先】

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻
教授 渡邊 雄一郎
TEL: 03-5454-6729
E-mail: solan*bio.c.u-tokyo.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)

岡山理科大学理学部
准教授 濱田 隆宏
TEL: 086-256-9678
E-mail: hama.micro*dbc.ous.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)

京都大学大学院生命科学研究科
教授 荒木 崇
TEL: 075-753-6140
E-mail: taraqui*lif.kyoto-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)

広島大学大学院統合生命科学研究科
准教授 嶋村 正樹
TEL: 082-424-7452
E-mail: mshima*hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


up