【研究成果】大腸腫瘍に対するアルコールの J-カーブ効果を実証

本研究成果のポイント

  • 大腸がんモデルラットを使った実験で、少量アルコール摂取の抗腫瘍効果を明らかにし、アルコールのJ-カーブ効果仮説を支持する結果となりました。
  • 抗腫瘍効果が最も顕著であったラットのエタノール摂取量をヒトに換算すると適量とされるアルコール量に近い値となりました。
  • 少量アルコールの大腸腫瘍抑制効果と腸内フローラとの関連性を示す証拠も見出されました。

概要

目的

これまで多くの疫学的調査により少量(適量)のアルコールを飲んでいる人はアルコールを全く飲まない人や多量のアルコールを摂取する人と比べて死亡率が低いことが報告され、アルコールのJ-カーブ効果として提唱されています(Marmot 1991年)。しかしながら、疫学的調査ではアルコールの効果が直接的な影響によるものかを判断することは困難です。そのため、動物実験でアルコールの効果を検証する必要があります。そこで、本研究では、大腸腫瘍の発症に対する少量エタノール摂取の効果について発がん剤投与ラットを使って実験を行いました。

方法と結果

本研究では、大腸の発がん剤(1,2-dimethylhydrazine)を注射した雄ラットにエタノールを含む飲料水(0%、0.5%、1%、あるいは2%[v/v])を28週間摂取させました。大腸の腫瘍を病理学的に調べた結果、大腸がんの進展が1%エタノール摂取群で最も抑制されており、しかもアルコールのJ-カーブ効果を支持する結果となりました。

腫瘍の病理学的解析で特に大きな変化が見られたのが高度異型腺腫 (がん化しやすい良性腫瘍)で、その発症率は対照群(エタノール非投与群)で78%であったのに対して、1%エタノール群で13%となり、六分の一まで減少しました(図1)。また、悪性腫瘍(がん)の発症率は、対照群が89%であるのに対して、1%エタノール群の発症率は50%で最も低い値となりました。

1%エタノール摂取をヒト(男性)に換算すると一日約10gとなり、ヒトで適量とされている10-20g/日(疫学的調査結果)に近い値となりました。

さらに腸内フローラも解析したところ、近年、免疫抑制作用が報告されているClostridium leptumの菌数が1%エタノール群で最も低い値を示しました。そのため、1%エタノール摂取がC. leptumの減少を介して免疫能を増大させ、大腸がんの進展を抑制している可能性が出てきました。

本研究のインパクト

本研究において、大腸腫瘍の発症に対するアルコールのJ-カーブ効果を動物実験ではじめて示しました(Yang他  2019年)。これまで、我々は高脂肪食摂取ラットの肝機能や老化促進マウスの老化の進展に対するアルコールのJ-カーブ効果も明らかにしてきました(Osaki他、2014年、Kimoto他、 2017年)。そのため、アルコールのJ-カーブ効果仮説を支持する複数の実験的証拠が揃ったことになり、様々な疾病に対するアルコールのJ-カーブ効果の可能性が高まったと云えます。さらに、アルコールのJ-カーブ効果が動物実験で実証されたことは、そのメカニズムの解明への道も開かれたことになります。そのメカニズムの一端として腸内フローラの関与も示唆され、少量アルコールが腸内フローラに影響する重要な環境因子であることも明らかとなりました。

論文情報

  • 掲載雑誌: Journal of Nutritional Science and Vitaminology 65巻, pp. 443-450 (2019年)
  • 論文題目: Consumption of low-dose of ethanol suppresses colon tumorigenesis in 1,2-dimethylhydrazine-treated rats
  • 著者: Yang Y, Kan Takahara, Thanutchaporn Kumrungsee, Akiko Kimoto, Fumio Shimamoto, Norihisa Kato
  • DOI: 10.3177/jnsv.65.443

報道発表

中国新聞 10日24日

【お問い合わせ先】

広島大学 名誉教授 加藤範久
TEL: 082-426-0774
E-mail:nkato*hiroshima-u.ac.jp
(注:*は半角@に置き換えてください)


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