【研究成果】環境の変化に植物が素早く応答し適応するためのホルモン生成制御

アブシシン酸(ABA)は、種子の休眠や乾燥などのストレスに対する応答を制御し、陸上に進出した植物の生存に必須の植物ホルモンです。それゆえABAはストレスホルモンの異名をもち、ストレスにさらされた植物で速やかに生成されますが、そのメカニズムの詳細はわかっていません。モデル実験植物シロイヌナズナにおいて、ABAは多段階の酵素反応を経て生合成(新規合成)されるほか、グルコースと結合しホルモン作用を持たない貯蔵体(配糖体)から一段階の加水分解反応(脱配糖化反応)によっても生成することが、これまでに報告されています。

広島大学大学院統合生命科学研究科(数理生命科学)の 坂本 敦 教授のグループらは、脱配糖化反応を担う酵素が局在する小胞体系に観察されるストレス遭遇時の形態変化に着目し、この反応が新規合成に先立ちABAを生成すること、また、この迅速なABA生成は小胞体系のダイナミックなストレス応答が引き金となり活性化されることを示しました。

ストレスに応答したオルガネラの動態変化によって、植物ホルモンの生成が制御されるという報告はこれまでになく、本研究は当該分野の研究に新しい視点を提供したといえます。また、乾燥などのストレスに対する植物細胞の初期応答メカニズムを解明する足がかりとなり、ストレス耐性を増強した植物の作出につながることが期待されます。

本研究成果は、「Journal of Experimental Botany」の71巻6号(令和2年3月25日)に掲載されるとともに、巻頭のInsightで特にエキサイティングな研究論文として取り上げられ、解説されています(Insightを含まないオンラインの速報版としては、令和元年11月25日にオープンアクセス公開)。

論文情報

  • 掲載誌:Journal of Experimental Botany
  • 論文題目:Dynamics of the leaf endoplasmic reticulum modulate ß-glucosidase-mediated stress-activated ABA production from its glucosyl ester
  • 著者:Yiping Han1, Shunsuke Watanabe2, Hiroshi Shimada1,3 and Atsushi Sakamoto1,3*
    1. 広島大学 大学院理学研究科
    2. 理化学研究所 環境資源科学センター
    3. 広島大学 大学院統合生命科学研究科
    * Corresponding author(責任著者)
  • DOI:10.1093/jxb/erz528(Insight 記事のDOI:10.1093/jxb/eraa026)
【お問い合わせ先】

広島大学大学院統合生命科学研究科 数理生命科学プログラム
教授 坂本 敦

TEL: 082-424-7449
E-mail: ahkkao*hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


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