【研究成果】色素を欠損したアルビノウニの系統作製に成功~ウニ研究へ分子遺伝学導入の試み~

本研究成果のポイント

  • 狙った遺伝子を破壊(ノックアウト)したウニの系統(※1)を世界で初めて作製しました。
  • ウニは世代交代周期が長いため、ノックアウト系統の作製は現実的でないとされてきましたが、世代交代周期の短い種類を選び当て、使用したことで系統の作製に成功しました。
  • ウニを用いた生命科学研究分野に、分子遺伝学の手法を新たに導入することが可能になり、より正確な遺伝子機能解析やゲノム構造解析の推進につながる成果です。

概要

筑波大学生命環境系(下田臨海実験センター)の谷口俊介准教授、谷口順子研究員、大学院生命環境科学研究科博士課程後期2年鈴木智佳(日本学術振興会特別研究員)は、国立遺伝学研究所遺伝情報分析研究室の池尾一穂准教授、金城その子研究員、お茶の水女子大学基幹研究院の清本正人教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授との共同研究により、ハリサンショウウニ(Temnopleurus reevesii)を用いて、ノックアウトウニの系統作製に成功しました。
ウニは採集しやすく、卵や精子といった配偶子も取得が容易なので、発生生物学や細胞生物学、進化学の優れた研究材料として長く生命科学の現場で使われてきました。しかし、世代交代周期が1〜2年と長いため、遺伝子変異系統などを利用して正確な遺伝子機能の解析を試みる遺伝学の導入が見送られていました。本研究では、ウニ研究に導入可能な遺伝学的手法を模索する過程で、ハリサンショウウニが約半年という比較的短い期間で世代を回せることを発見し、その性質を利用してノックアウトウニを作製しました。
具体的には、ゲノム編集技術のCRISPR-Cas9システム(※2)を用い、体の色素合成に必要なポリケチド合成酵素(Polyketide Synthase; Pks1)の遺伝子領域に欠損を誘導し、色素を失ったハリサンショウウニのアルビノ個体を作製しました。さらに、それらの子孫を掛け合わせることで、ホモ接合型(※3)ノックアウトウニを作製することに成功しました。これにより、ウニを用いた研究に、分子遺伝学の手法を導入することが可能であることが証明されました。今後、より正確な遺伝子の機能解析や発現調節解析等が進むことが期待されます。
本研究の成果は、米国の学術誌「Current Biology」で公開される予定です。
※本研究はJSTさきがけ(多細胞)、日本学術振興会科学研究費若手研究(2019-21)と特別研究員奨励費(17-19及び19-21年度)、AMED創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム (2017)、東レ科学技術研究助成金(2018)、武田科学振興財団ライフサイエンス研究奨励(2015)によって実施されました。

F2世代の正常型(左)とPks1ホモ接合型変異体(右)

用語解説

(※1) 系統
交配や継代を繰り返して遺伝形質が均質になったグループを本来は指す。ここでは、ある程度継代を続けたウニに対し、ゲノム編集を加え2世代飼育したものを便宜的に系統としている。

(※2) CRISPR-Cas9システム
ゲノムDNAの一部に相補的な塩基配列を持つガイドRNA(sgRNA)とCas9ヌクレアーゼを細胞や卵内に導入することで、sgRNAの標的部位に二重鎖切断を引き起こします。この切断部位が生物本来の性質により修復される過程で、欠損や挿入などの変異を生じます。この性質を利用してゲノムDNAの標的領域に人為的に編集を加える技術です。

(※3) ホモ接合型変異体、ヘテロ接合型変異体、野生型ある遺伝子座が同じ対立遺伝子からなる状態をホモ接合体と呼ぶ。一方、異なる対立遺伝子からなる状態をヘテロ接合体と呼ぶ。ここでは、1対あるPks1遺伝子の両方に変異の入った状態がホモ接合体変異体、片方のみに変異の入った状態をヘテロ接合型変異体、どちらも変異の入っていない状態を野生型としている。

論文情報

  • 掲載誌: Current Biology
  • 論文タイトル: Establishment of homozygous knock-out sea urchins (ホモ接合型ノックアウトウニの確立)
  • 著者名: Shunsuke Yaguchi, Junko Yaguchi, Haruka Suzuki, Sonoko Kinjo, Masato Kiyomoto, Kazuho Ikeo, Takashi Yamamoto
  • DOI: 10.1016/j.cub.2020.03.057
【お問い合わせ先】

(研究に関すること)
広島大学大学院統合生命科学研究科
教授 山本 卓
TEL: 082-424-7446
E-mail:tybig*hiroshima-u.ac.jp
(注:*は半角@に置き換えてください) 

筑波大学 生命環境系 下田臨海実験センター
准教授 谷口 俊介
TEL: 0558-22-1317
E-mail: yag*shimoda.tsukuba.ac.jp
(注:*は半角@に置き換えてください) 

(報道に関すること)
国立大学法人広島大学 財務・総務室広報部広報グループ
Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp


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