【研究成果】単一遺伝子ライブセルイメージングにより、高次ゲノム構造と転写制御の関連性を解明

本研究成果のポイント

  • 1分子ライブイメージング技術から、転写調節因子が、そのDNA/クロマチン結合部位を介して、活性化遺伝子領域近傍にクラスターを形成することを発見。
  • 活性化遺伝子領域近傍の転写調節因子クラスターに遠位エンハンサーが高頻度に共局在している。
  • これらエンハンサークラスターは、クラスター化されたRFが標的遺伝子を活性化する微小環境を作り出し、ゲノム構造、転写調節因子の局所蓄積、転写活性化を関連付けるための構造的枠組みを提供している。

概要

広島大学大学院統合生命科学研究科・ゲノム編集イノベーションセンターの山本 卓教授、落合 博講師のグループは、スローンケタリング記念がんセンターのAlexandros Pertsinidi博士との共同研究により、生細胞内の特定内在遺伝子の転写と関連タンパク質の同時1分子イメージングから、高次ゲノム構造と転写制御の関連性を明らかにしました。本研究成果は、「Nature Structural & Molecular Biology」オンライン版に掲載されました。

特定遺伝子が特定の細胞の特定の時期に発現するためには、当該遺伝子のプロモーターと特定の転写調節領域(エンハンサー)が相互作用することが必要です。多くのエンハンサーはプロモーターから離れた位置(>10 kb)に存在しており、ここではこれらを遠位エンハンサーと呼びます。遠位エンハンサーとプロモーターの相互作用が特定遺伝子の転写活性化に重要であることはわかっているものの、相互作用の有無の単純な二択なのか、より複雑な構造をとり得るのか、どのようにして長距離の遺伝子発現制御が物理的に達成されるのかは、いまだに解明されていません。近年の超解像イメージング技術の進歩により、重要な発生制御遺伝子におけるプロモーターの動態と転写調節因子(RF)の100~200 nmサイズのクラスターとの間の定量的な関連が明らかになってきました(※1)。本研究では、RFのクラスター化と転写活性化のメカニズムをさらに詳細に解析しました。その結果、RFのクラスター化には、RF同士の相互作用を促進するタンパク質ドメインは重要ではなく、DNA/クロマチン結合部位の特異的な分子認識が関与していることを見出しました。このことは、RFのクラスター化によって標的遺伝子の近傍にRFが結合するエンハンサー等が集積していることを示唆しています。さらに、生細胞内で特定ゲノム領域のライブイメージングから、遠位エンハンサーがRFクラスター内の標的遺伝子に高頻度に近接していることが明らかになりました。これらの高頻度な相互作用は、クラスター化されたRFが標的遺伝子を活性化する微小環境を作り出し、ゲノム構造、RFの局所蓄積、転写活性化を関連付けるための構造的枠組みを提供していると考えられます。

(図) 転写活性化遺伝子周辺に形成されたRFクラスターと遠位エンハンサーの相互作用。RF: 転写調節因子。

参考文献

※1: Jieru Li, Ankun Dong, Kamola Saydaminova, Hill Chang, Guanshi Wang, Hiroshi Ochiai, Takashi Yamamoto, and Alexandros Pertsinidis, Single-Molecule Nanoscopy Elucidates RNA Polymerase II Transcription at Single Genes in Live Cells, Cell, 178(2), 491-506, 2019

論文情報

  • 掲載誌: Nature Structural & Molecular Biology
  • 論文タイトル: Single-gene imaging links genome topology, promoter–enhancer communication and
            transcription control
  • 著者名: Jieru Li1, Angela Hsu1,2, Yujing Hua1, Guanshi Wang1, Lingling Cheng1, Hiroshi Ochiai3,4,
               Takashi Yamamoto3,4, Alexandros   Pertsinidis1*
    1. Structural Biology Program, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA
    2. Department of Molecular, Cellular, and Developmental Biology, University of Michigan,
        Ann Arbor, MI, USA
    3. 広島大学大学院統合生命科学研究科
    4. ゲノム編集イノベーションセンター
  • DOI: 10.1038/s41594-020-0493-6
【お問い合わせ先】

<研究内容について>
広島大学 大学院統合生命科学研究科 ゲノム編集イノベーションセンター
教授 山本 卓
講師 落合 博
TEL: 082-424-7446/4008
E-mail: tybig*hiroshima-u.ac.jp, ochiai*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)


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