【研究成果】ノンコーディングRNAの制御による遺伝子再活性化~新たな治療法開発への可能性~(動画あり)

本研究成果のポイント

  • 「生物学における暗黒物質」と呼ばれ、謎の多いノンコーディングRNA(※1)の一つが、発生段階に伴うヘモグロビン切り替えにおける役割を持っていることを報告しました。
  • ヘモグロビン構成タンパク質の遺伝子のうち、胎児型のものが発現しているヒトの細胞において、CCDC26-RNA(※2)を抑制すると、発生段階を遡って胚型の遺伝子に発現パターンが切り替わりました。
  • ノンコーディングRNAを制御することで、細胞の中で眠っている遺伝子の発現を呼び起こし、病気の治療に役立てることができるかもしれません。

概要

広島大学大学院統合生命科学研究科の平野哲男助教らのグループは、白血病と関係のあるノンコーディングRNAであるCCDC26-RNAの赤血球細胞の分化における新しい役割を提唱しました。また、この成果のヘモグロビン異常症の治療への応用の可能性を指摘しました。ヒト骨髄性白血病細胞のK562を赤血球へ分化誘導する際、CCDC26-RNA発現を抑制しておくと、本来は眠っているはずの胚型(ε-およびζ-)グロビンの発現が著しく上昇しました。対照的に、この細胞でもともと高い発現を示していた胎児型(γ-)グロビンの発現と弱く発現している成体型(α-およびβ-)グロビンの発現は抑えられました。これらの結果は、CCDC26-RNAが赤血球細胞の分化におけるグロビン遺伝子の転写を切り替える役割を持っていることを示しています。また、このCCDC26-RNAによる遺伝子制御機構の一端を明らかにしました。

CCDC26-RNAが、発生段階に伴うヘモグロビン切り替えに働いていることは全く予想されなかった発見です。発生の一時期にだけ必要とされ、その後は眠りについた遺伝子を呼び起こせるとすれば、疾患の治療に応用できるかもしれません。

本研究の成果は、オランダの科学誌Biochemica et Biophysica Acta-Molecular Cell Research (Elsevier)オンライン版に掲載されました。

CCDC26はFOG2を介してβ型グロビンクラスター遺伝子内の胎児型(γG, γA)グロビン遺伝子の選択的な発現を制御している。CCDC26が抑制されると胚型(ε)の発現が増強されるとともにグロビン遺伝子全体の発現も上昇する。成人型(δ、β)のグロビン遺伝子の発現も抑制される。

用語解説

(※1) ノンコーディングRNA
遺伝子から転写されるが、タンパク質のアミノ酸配列をコードしておらず、それ自身が何らかの生理的機能を持っていると考えられるRNA。
マイクロRNAや小分子核RNAなど鎖長200塩基未満の短いノンコーディングRNAと鎖長200塩基以上の長鎖ノンコーディングRNAがある。

(※2) CCDC26-RNA
長鎖ノンコーディングRNAのひとつ。当初、骨髄性白血病との関連が示されたが、その後、脳腫瘍をはじめ、いくつかの悪性腫瘍との関連が明らかになっている。

【お問い合わせ先】

<研究内容について>
大学院統合生命科学研究科
助教 平野 哲男
TEL: 082-424-6562
E-mail:thirano*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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