【研究成果】石灰藻サンゴモの代表種「ヒライボ」の分類学的再検討により新種を発見

概要

石灰藻サンゴモは、サンゴ礁から極域において、石灰質の地形を形成して、様々な生物に生息地を提供し、ウニやアワビなどの水産重要種を含む海産無脊椎動物の幼生の着底・変態を誘引するなど、重要な役割を果たしています。「ヒライボ」は、このサンゴモの1種で、日本産の標本をもとに20世紀の初めに命名され、インド洋から太平洋に広く分布すると考えられてきました。広島大学の加藤亜記准教授と海洋生物環境研究所の馬場将輔博士を中心に、イタリア、フランス、スペイン、イギリスの研究者からなる国際共同研究グループは、「ヒライボ」には、最初に種として命名された「真のヒライボ」と新種「Lithophyllum neo-okamurae」の、少なくとも2種が含まれることを明らかにしました。
この研究成果は、2022年1月7日、国際藻類学会誌「Phycologia」にオンライン掲載されました。

本研究成果のポイント

  • サンゴモ(石灰藻)は、世界の沿岸域において、サンゴ礁などの石灰質の海岸地形を作り、他の生物に生育場所を与える重要な役割を果たしています。
  • 「ヒライボ」は、日本沿岸では最も一般的なサンゴモの1つです。
  • 本研究では、インド洋から太平洋で「ヒライボ」とされている種のうち、「真のヒライボ」を明らかにしました。
  • さらに、「真のヒライボ」とは別に1新種を発見し、「Lithophyllum neo-okamurae」と命名しました。

研究成果の内容

  • 「ヒライボ」とされてきた種の分類

「ヒライボ」は、体に炭酸カルシウムを固く沈着する紅藻サンゴモ類の1種で、短い突起を持ち、潮間帯下部やタイドプールなど、比較的人目につきやすい場所に生育します。そのため、一般向けの海岸生物や海藻類の図鑑に掲載されることが多いです。
「ヒライボ」は、海藻学者の遠藤吉三郎が現在の神奈川県三浦市(タイプ産地)で1899年に採集した標本をもとに、ノルウェーの Mikael FoslieがLithophyllum okamuraeとして記載した種です。Foslieはその後の数年間で、遠藤のタイプ産地の標本をもとに2品種を記載しましたが、「真のヒライボ」に相当する品種の指定が不明確でした。
そこで、「真のヒライボ」を明らかにするため、ノルウェーのNorwegian University of Science and Technologyの標本庫に収蔵されている、この2品種のタイプ標本を含む遠藤の標本について、遺伝子解析と組織の形態観察を行い、この2品種はともに「真のヒライボ」であることを明らかにしました。また、新たに日本沿岸から採集した標本についても研究を進めたところ、「真のヒライボ」は日本沿岸に広く分布していました。さらに、台湾やカリフォルニア湾にも、「真のヒライボ」と遺伝的に同種が分布していることが確認できました。
一方、解析した遠藤の標本には、この種とは別の種が含まれており、新種「Lithophyllum neo-okamurae」と命名しました。この種は、日本沿岸では「真のヒライボ」と同所的に分布していました。

ヒライボ Lithophyllum okamurae
左)門歯状の突起をもつ標本(新潟県寺泊町山田 2008年11月13日採集)
右)丸い突起をもつ標本(熊本県苓北町四季咲岬 2012年3月10日採集)

新種 Lithophyllum neo-okamurae
(愛媛県宇和島市横島 2014年7月30日採集)

  • 「ヒライボ」の和名の由来

海藻図鑑などに掲載されている「ヒライボ」は、おおむね丸い突起をもっていますが、和名は平たいイボの意味です。実際、この和名の由来は、「門歯ノ如キ疣ヲ有スルコト此種ノ外貌ニ於ケル特徴ナリ」と説明されています(岡村 1902)。本研究により、「真のヒライボ」は、形態変異に富み、丸から扁平まで様々な突起を持っていることが明らかになりました。
    

  • 今後の展望

近年、サンゴモは海洋酸性化や地球温暖化に対して脆弱であることが明らかになり、こうした環境変化が、サンゴモと共存する生物群集にも負の影響を及ぼす可能性が懸念されています。一方で、形態分類により種の定義や分布が報告されている優占種も多く、サンゴモの環境ストレスへの応答を検証し、研究の再現性を保証するためには、分類学的に確かな名前の適用と、正確な分布域の把握が不可欠です。
「ヒライボ」には、これまでに7品種が記載されていますが、この中の5品種が現在の分類体系で「ヒライボ」と同じイシゴロモ属です。このうち、本研究を含む3品種の分類学的再検討が終了しており、現在、スリランカで発見された2品種について、加藤准教授らが研究を継続しています。

岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙. 276 pp. 敬業社, 東京.

論文情報

  • 掲載誌:  Phycologia
  • 論文タイトル:  Morphological and molecular assessment of Lithophyllum okamurae with the description of L. neo-okamurae sp. nov. (Corallinales, Rhodophyta) 
  • 著者名:  Kato, A, Basso, D, Caragnano, A, Rodondi, G, Le Gall, L, Peña, V, Hall-Spencer, J. M & Baba, M
  • DOI: 10.1080/00318884.2021.2005330 
【お問い合わせ先】

大学院統合生命科学研究科
附属瀬戸内圏フィールド科学教育研究センター 竹原ステーション(水産実験所)
准教授 加藤 亜記
E-mail: katoa*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


up