【研究成果】ツチガエルが持つ、世界に類を見ない性染色体進化の全体像を解明しました

本研究成果のポイント

  • 日本のツチガエルの2つの祖先集団において、それぞれ異なる性染色体を同定した。
  • 2種類の異なる性染色体を持つ集団が交雑することによって、別の第3の性染色体の進化を誘導する、という新しい性染色体の進化機構が明らかになった。
  • 性染色体の取り替えにおける染色体選択の必然性が示唆された。
  • 高度に保存されてきたヒトの性染色体とは対照的に、カエルにおける性染色体進化の著しく多様な全体像が明らかとなった。

概要

 広島大学、京都大学、産業技術総合研究所、横浜市繁殖センター、北里大学およびキャンベラ大学とローザンヌ大学の国際共同研究チームは、網羅的ゲノム解析とバイオインフォマティックスを用いて、日本のツチガエルの2つの祖先集団(西日本と東日本集団)がそれぞれ異なる性染色体1)を持つことを明らかにしました。本種が持つ13対(2n=26本)の染色体のうち、第1と第3番染色体に相当します。一方、この2つの祖先集団から過去の交雑によって進化した新しい集団では、性染色体は第7番染色体であることがすでに知られています。
 以上のことから、異なる2種類の性染色体をもつ集団の交雑によって、さらに別の性染色体の進化が誘導されるという、これまでとは異なる、全く新しい性染色体の進化様式が明らかとなりました。特に、この3種類の性染色体は、別のカエルにおいて相互に融合して6本の性染色体を進化させていることから、性染色体選択の必然性を強く示唆します。さらに、今回の発見により、ツチガエルが持つ、世界に類を見ない性染色体進化の全体像が解明されました(性染色体の取り替えが少なくとも2回、XY型からZW型への変換、そして性染色体が同形2)から異形3)への進化)。
 本研究成果は、ロンドン時間の2022年6月12日23時(日本時間:2022年6月13日午前7時)「Molecular Ecology」オンライン版に掲載されました。 

用語解説

1)性染色体
 性決定遺伝子を含む染色体のことを示す。それ以外の染色体は常染色体と呼ぶ。

2)3)異形(同形)の性染色体
 XとY染色体、あるいはZとW染色体の形が相互に異なる性染色体を異形の性染色体という。これに対し、両者が形態的に区別がつかない場合を同形の性染色体という。哺乳類や鳥類はほぼ全ての種が異形の性染色体を持つが、爬虫類から魚類ではいずれのタイプも存在する。

4)1塩基多型
 ゲノムのDNA配列において塩基が1つだけ異なる短い配列をいう。個体間のDNA配列の違いを多数検出することができる。

論文情報

  • 掲載誌: Molecular Ecology
  • 論文タイトル: Identification of ancestral sex chromosomes in the frog Glandirana rugosa bearing XX-XY and ZZ-ZW sex-determining systems
  • 著者名: 三浦郁夫1, 2*, Foyez Shams2, Daniel Lee Jeffries3, 桂有加子4, 回渕修治5, Nicolas Perrin3, 伊藤道彦6、尾形光昭7 & Tariq Ezaz2
    1
    広島大学両生類研究センター
    2キャンベラ大学(豪州)
    3ローザンヌ大学(スイス)
    4京都大学
    5産業技術総合研究所
    6北里大学
    7横浜市繁殖センター 
    責任著者
  • DOI:  https://doi.org/10.1111/mec.16551
【お問い合わせ先】

<本研究に関すること>
広島大学両生類研究センター
准教授 三浦 郁夫
Tel:082-424-7323
FAX:082-424-0739
E-mail:imiura*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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