大学院統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム 植物生理化学研究室 深澤 壽太郎
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広島大学大学院統合生命科学研究科基礎生物学プログラムの深澤壽太郎助教、高橋陽介教授、瀬尾光範教授(当時・理化学研究所、現・琉球大学)からなる研究グループは、外敵からの攻撃時に植物が生産する植物ホルモン・ジャスモン酸が、植物の成長ホルモン・ジベレリンの生合成を抑制し、不活性化を促進、さらには、フィードバック制御を阻害することで効率的に植物の成長を抑制することを明らかにしました。植物の防御応答と成長抑制はトレードオフの関係にありますが、近い将来、病害応答にも強く、成長も阻害されないような植物の創出の基盤になる可能性があります。
本研究成果は、2023年8月11日(日本時間)、Plant Physiology 誌にAdvance Articleとしてオンライン掲載されました。
ジベレリン(GA)は、植物の発芽、伸長成長、花成、花芽形成を促進する植物ホルモンです。GAは、植物体内で6段階の酵素反応を経て、活性型GAが合成されます。GA内生量は、厳密に制御されており、GA量が低下するとフィードバック制御により生合成遺伝子の発現量を増加させ、元に戻そうとします。一方、ジャスモン酸(JA)は、外敵ストレス時に合成される植物ホルモンで、植物の成長を止め防御応答を促進します。GAとJAは、植物の成長において拮抗的なはたらきをしますが、JAによるGA内生量制御機構についての詳細は明らかにされていませんでした。
本研究では、GA信号伝達の抑制因子であるDELLAタンパク質が、GA量低下時核に蓄積しますが、JA処理時にも核に蓄積することを発見しました(図1)。さらに、JA処理により蓄積したDELLAタンパク質は、GA依存的に分解されることから、JA処理した植物体では、GA内生量が低下する可能性が考えられました。そこで、GA内生量を定量するとJA処理した植物では、活性型GAの量が低下していることが明らかとなりました。活性型GA量の低下の原因を探る為、GA生合成酵素遺伝子やGA不活性化酵素遺伝子の発現量を調べた結果、JA処理により複数のGA生合成酵素遺伝子の発現量が低下しており、また、GA不活性化酵素遺伝子GA2oxの発現量は増加していました。一方、JA処理した植物では、活性型GAの量が低下するため、GAフィードバック制御によりGA生合成遺伝子GA3ox1の発現量は増加すると考えられましたが、実際にはむしろ減少していました。この結果より、JAはGA3ox1のmRNAの分解を促進している可能性が考えられました。本研究において、JAによって発現が誘導される新奇miRNAを発見し、このmiRNAが積極的にGA3ox1のmRNAを分解することで、JA処理した植物では、活性型GA量が低下するにも関わらず、フィードバック制御が阻害されることを明らかにしました。(図2)。
図1 DELLA-GFP(蛍光タンパク質)融合タンパク質を発現する根の蛍光観察。GA合成阻害剤PAC処理と同様に、JA処理によってもDELLAタンパク質が蓄積する。
図2 JAによる3段階のGA内生量調節のモデル図
虫や、病原体などのストレスを受けた植物はJAを合成し防御応答を引き起こすが、同時に植物の成長は抑制される。この時、JAは、GA生合成遺伝子の発現を抑制し、かつGA不活性化酵素遺伝子の発現を増加させることでGA内生量を低下させることを見出した。さらに、JA誘導性のmiRNAがGA量低下時のGAフィードバック制御によるGA生合成遺伝子GA3ox1の発現量増加を阻害する。JAは、GA生合成の抑制、活性型GAの不活性化の促進、フィードバック制御の阻害の3段階で、効果的にGA内生量を低下させる。
本研究により、植物が外敵からのストレス応答時に合成するJAが、いかにしてGA内生量を制御し植物の成長を阻害するのかの一端が明らかとなりました。DELLAタンパク質は、多くの信号伝達因子と相互作用することで、成長を抑制することが知られています。GAは、DELLAタンパク質の分解を促進することや、DELLAを介したJAの信号伝達とのクロストークが報告されており、植物の防御応答と成長はトレードオフの関係にありますが、詳細なメカニズムを明らかにすることによって、病害に強く、成長が抑制されないような植物の生育システムの構築につながることが期待されます。
※1転写因子:遺伝子の転写やその調節に関わるタンパク質群
※2ジベレリン(GA):植物の発芽、伸長成長、花成などを促進する植物ホルモン。黒澤英一により馬鹿苗病を引き起こす病原菌がつくる病因物質として発見され、薮田貞次郎により単離、命名された。種無しぶどうの作製にも使用される植物ホルモン
※3 ジャスモン酸(JA):食害などのストレスに晒されると植物体内で合成される植物ホルモン、植物の成長を抑制するが、代わりに防御応答を促進する。
※4 DELLAタンパク質:ジベレリン信号伝達の抑制因子 ジベレリン存在下では速やかに分解される。
※5 miRNA:microRNA、多段階の生成過程を経て合成される20~25塩基長のRNA、相同性の高いmRNAを標的とし分解を促進する。
本研究は、以下のサポートを受けて実施されました。
科学研究費補助金:20K06688、23K05818、住友財団基礎科学研究助成、内藤記念科学奨励金・研究助成
大学院統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム 植物生理化学研究室 深澤 壽太郎
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掲載日 : 2023年08月22日
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