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【研究成果】抗がん剤であるトポイソメラーゼ1阻害剤の治療効果を決定する重要な分子機構を発見〜がん治療発展への期待〜

本研究成果のポイント

  • トポイソメラーゼ1(TOP1)*1を標的とする抗がん剤(TOP1阻害剤)は、今日のがん治療に広く用いられています。しかし、その治療効果は、がん細胞によって異なり十分ではありません。
  • TOP1阻害剤が作る特殊なDNA損傷の修復に、チロシル-DNAホスホジエステラーゼ2(TDP2)*2が大きく貢献していることを明らかにしました。さらに、TDP2による、前述のDNA損傷の修復機構を世界で初めて解明しました(図参照)。TDP2によるDNA修復を阻害する医薬品とTOP1阻害剤を併用することで、従来の治療法より高い治療効果を得られる可能性があります。
  • 新たに解明したTDP2によるDNA修復機構は、ヌクレオシドアナログタイプの抗がん剤*3の治療効果にも大きく関与していることを発見しました。
  • 本研究成果は、TOP1阻害剤やヌクレオシドアナログタイプの抗がん剤を用いたがん治療の発展につながると期待されます。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科の清水直登助教、井出博名誉教授と国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部の津田雅貴室長らのグループは、TOP1阻害剤の治療効果にTDP2が重要であることを発見し、その分子機構を詳細に解明しました。この知見は、がん治療の発展に大きく貢献すると期待されます。
本研究成果は、国際学術雑誌『Journal of Biological Chemistry』オンライン版に6月29日に掲載されました。

発表論文

論文名:Repair of topoisomerase 1-induced DNA damage by tyrosyl-DNA phosphodiesterase 2 (TDP2) is dependent on its magnesium binding
著者名:Naoto Shimizu1, Yusaku Hamada1, Ryosuke Morozumi1, Junpei Yamamoto3, Shigenori Iwai3, Kei-ichi Sugiyama2, Hiroshi Ide1*, Masataka Tsuda1, 2*
1:広島大学大学院統合生命科学研究科
2:国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部
3:大阪大学大学院基礎工学研究科
*:責任著者
掲載雑誌名:Journal of Biological Chemistry
DOI:10.1016/j.jbc.2023.104988

背景

 トポイソメラーゼ1(TOP1)は、複製や転写の際に生じるDNAのからまりをほどく酵素です。TOP1阻害剤であるカンプトテシンは、TOP1をDNAに捕捉し、細胞死を誘導するDNA損傷を引き起こします。この作用機序を利用した抗がん剤は、今日のがん治療に広く用いられています。これまでに行われた研究から、チロシル-DNAホスホジエステラーゼ1(TDP1)は、カンプトテシンが誘発するDNA損傷を修復することが示されています。2020年に、我々は新たにチロシル-DNAホスホジエステラーゼ2(TDP2)という酵素も、カンプトテシンが誘発するDNA損傷を修復することを明らかにし、この仕組みを利用した新たながん治療法の可能性を示しました。しかし、TDP2による、前述のDNA損傷の修復機構は不明であったため、TDP2の適切な標的部位を狙った抗がん剤の開発は困難でした。

研究成果の内容

 本研究では、TDP2がカンプトテシンによって誘発されたDNA損傷を修復する際に、TDP2の152番目のグルタミン酸(E152)を介してMg2+とDNAの3’末端が結合し、262番目のアスパラギン酸(D262)によって活性化された水分子が、DNAの3’末端を修復するための加水分解に関与することを明らかにしました(図B参照)。また、これまでにヌクレオシドアナログタイプの抗がん剤がDNAに取り込まれると、DNA複製が阻害され、がん細胞は死滅することが知られていました。本研究では、TDP2がDNAに取り込まれたヌクレオシドアナログの除去にも貢献していることを示しました。これらの知見は、TDP2-Mg2+結合が様々なDNA損傷の修復に重要であることを意味しています。

今後の展開

 本研究が明らかにしたTDP2によるDNA修復機構は、新たながん治療法開発の糸口になります。今後、抗がん剤の開発を行うにあたって、TDP2とMg2+の結合箇所は非常に良い標的になると考えられます。本研究の成果は、新しい医療や医薬品開発などの応用に結びつけられると期待できます。

図:本研究が明らかにしたTDP2による新たなDNA修復機構
A:3’末端に生じたDNA損傷
B:TDP2とMg2+を介した修復機構
C:3’末端に生じたDNA損傷の除去完了

用語説明

*1. トポイソメラーゼ1(TOP1):複製や転写の際に生じるDNAのからまりをほどく酵素。DNAの3’末端に一過的に結合して、DNAのからまりをほどく。
*2. チロシル-DNAホスホジエステラーゼ2(TDP2):DNAに結合したトポイソメラーゼ2をDNAから剥ぎ取る酵素。
*3. ヌクレオシドアナログタイプの抗がん剤:ヌクレオシドに似た構造をとり、複製の際に取り込まれると、DNA複製ポリメラーゼを阻害して、新生DNA鎖の伸長を止め、細胞死を引き起こす。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院 統合生命科学研究科 数理生命科学プログラム
助教:清水直登
TEL:082-424-7458
E-mail:naotos*hiroshima-u.ac.jp

国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 第三室
室長:津田雅貴
TEL:044-270-6679
E-mail:tsudam*nihs.go.jp

<報道に関すること>
広島大学 広報室
TEL:082-424-3749
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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