【研究成果】疾患における酸化ストレスに応答する新規候補遺伝子の探索手法を開発

本研究成果のポイント

  •  酸化ストレス(OS)は活性酸素*1種の体内での上昇に伴い発生する生命現象であり、さまざまな疾患との関わりが報告されている。そのなかでも、本研究ではOSとパーキンソン病(PD)との関連性に着目した。
  • OS及びPDのメカニズム解明やPD治療法開発のためには、「関連が推測される未研究遺伝子」の研究を進めていくことが1つの手段であると考えられる。
  • 本研究では、PD研究分野において十分に研究されていない遺伝子であり、かつPDとOSに応答する遺伝子を探索した。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科の鈴木貴之大学院生と坊農秀雅教授は、公共データベースに蓄積されたデータを利用し、疾患におけるOSに関わる新規候補遺伝子を探索する方法を提案する。

 本手法(参考資料に概要図あり)は大きく3つのパートに分けられる。パートでは、遺伝子発現およびTWAS*2の公共データを利活用することでPD及びOSに応答する遺伝子を同定する。パート2では、「遺伝子 vs 疾患」の関連性を登録している複数の公共データベースにアクセスし、PDとの関連性の報告がない遺伝子に絞り込む。パート3では、遺伝子発現及びTWASデータを再参照することでその中からより重要と考えられる遺伝子に絞り込みを行う。

 本手法により、PD及びOSに応答する、かつPD研究分野において十分に研究されていない遺伝子を絞り込み、12遺伝子を同定した。さらに、文献調査によって2つの遺伝子についてPDへの関連性を示唆する記述を発見した。
 

論文情報

  • 著者: Takayuki Suzuki1) and Hidemasa Bono1)2)3)*
    *Corresponding author(責任著者)
    1) 広島大学大学院統合生命科学研究科
    2) 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター
    3) 情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 ライフサイエンス統合データベースセンター
  • 論文タイトル: A systematic exploration of unexploited genes for oxidative stress in Parkinson’s disease
  • 掲載誌: npj Parkinson’s disease
  • DOI: https://doi.org/10.1038/s41531-024-00776-1

背景

 生命現象のメカニズム解明や、疾患治療に向けた新規可能性を模索するためには、「未研究遺伝子」の機能を解き明かしていくことが1つの手段であると考えられる。しかし近年の情報過多時代では、「未研究遺伝子」を発見することがハードルとなることがある。本研究では、私たちがこれまで研究してきた酸化ストレスと関連疾患であるパーキンソン病を例題とし、「未研究遺伝子」であり、かつ「研究価値のある遺伝子」を探索する方法を模索した。

研究成果の内容/今後の展開

 本研究で同定した12の遺伝子は、PD及びOSに応答する、かつPD研究分野において十分に研究されていない遺伝子である。OSやPDのメカニズム解明、新規治療法開発に繋がる研究の対象遺伝子となる可能性を秘めている。
 さらに、12遺伝子について文献調査を行なったところ、12遺伝子のうちの2つの遺伝子について機能面での関連性を示唆する記述を発見した。このことから、本手法を使うとデータベースでは抜け漏れているが、論文内ではすでに議論のあるような遺伝子の発見につながる、ということを本論文で示した。
 また、本研究で提案する手法を使うことで、別の関連疾患のOSにおける候補遺伝子を絞り込むことも可能となっている。OS及びさまざまな疾患の研究促進につながることが期待される。
 

参考資料

遺伝子絞り込みの概要図

用語解説

*1 活性酸素: 活性酸素とは、呼吸によって体内に取り込んだ酸素の一部が通常よりも活性化した状態のことを指す。免疫機能や感染防御などの重要な役割を担う一方で、過剰な産生は、細胞を傷つけ、動脈硬化、肝障害、パーキンソン病など、さまざまな疾患をもたらす要因となる。
*2 TWAS: Transcriptome-wide association studyの略。ある形質における遺伝子変異と遺伝子発現変動を関連付ける研究。これにより、形質に影響を与える可能性のある遺伝子を特定することができる。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院統合生命科学研究科  教授  坊農 秀雅
Tel:082-424-4013
E-mail : bonohu*hiroshima-u.ac.jp
 (*は半角@に置き換えてください)
 


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