大学院統合生命科学研究科 教授 矢中規之
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本研究成果のポイント
- コーヒーやみかんなどに含まれるポリフェノール(※1)の腸内細菌由来代謝物であるHMPA(※2)をマウスに与えたところ、アデニン食(※3)により誘導される腎臓病を予防する効果を示しました。
- HMPAには、腎臓の炎症や機能低下を抑える働きがあることが分かりました。
- 将来的に、腎臓の健康維持に役立つ機能性食品の開発につながる可能性があります。
概要
近年、食品成分の摂取時の腸内細菌による代謝産物の機能性が注目されていますが、広島大学大学院統合生命科学研究科の矢中規之教授と丸善製薬株式会社の研究グループは、ポリフェノールを豊富に含む食品素材の摂取後の腸内細菌の代謝物(※4)として3-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl) propionic acid(以下、HMPA)に着目しました。adenine腎炎マウスにHMPAを摂取させたところ、腎症の予防効果が示されました。HMPA は植物に豊富に含まれているクロロゲン酸やヘスペリジンなどが腸内細菌による変換によって生成される代謝物であり、その機能性が注目されていました。腸内細菌代謝物であるHMPAを腎臓保護効果を有する新たな機能性食品成分(※5)として利用される可能性が示されました。
本研究成果は2026年7月1日に科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
発表論文
雑誌名:Scientific Reports
論文掲載日:7月1日
タイトル:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl) propionic acid prevents renal fibrosis and inflammation in CKD mice induced by adenine.
著者名:Haruka Osedo, Kurumi Ei, Mikoto Oda, Ayane Kudo, Susumu Yoshino, Takashi Tagawa, Hiroshige Kuwahara, Nobuo Yamaguchi, Siyi Chen, Rahmawati Aisyah, Hidemasa Bono, Thanutchaporn Kumrungsee, Noriyuki Yanaka (責任著者).
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-60395-z
背景
ポリフェノール類は食品の機能性研究の大きなターゲットとなっていますが、その機能性のメカニズムについては未だ不明な点が多いのが現状です。近年、食品成分の摂取時の腸内細菌による代謝産物の機能性が注目されており、ポリフェノールが豊富な食品素材の摂取後の腸内代謝物として3-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl) propionic acid(以下、HMPA)が報告されました。HMPA はコーヒーや柑橘などに含まれるクロロゲン酸やヘスペリジンが腸内細菌によって代謝されることで生成する成分でもあり、その機能性が注目されていました。
HMPAを用いた臨床試験では、ブドウ糖を飲み、その後の血糖値の変化を調べる検査である糖負荷試験2時間後の血糖値の低下や腹部内臓脂肪面積の有意な低値が示されており、ポリフェノール類由来の腸内細菌代謝産物であるHMPAの機能性食品成分としての有用性が示されています。一方、腎臓病が悪化した後の人工透析患者数は30万人に達し、重大な社会問題となっていますが、腎臓病は初期に自覚症状がないまま進行する危険な病気であることから、発症予防や腎症の軽減を実現する食品機能性などが強く求められています。ポリフェノールなどの身近な食品成分の摂取後に腸内細菌によって生成するHMPAの機能性に着目し、マウスの腎臓病の発症に与える影響を検証しました。
研究成果の内容
研究チームは、マウスにアデニン食を与えることで腎炎を誘導し、その際に HMPAを食餌に添加することで腎炎の発症に与える影響を検討しました。HMPAの摂取により、腎機能マーカーである血中尿素窒素(BUN)、およびクレアチニン濃度の上昇が有意に抑制されました(参考資料)。HMPAを摂取させたマウスでは腎臓でのフィブロネクチンやコラーゲン遺伝子などの組織の線維化に関連する遺伝子や炎症に関連する遺伝子の発現量が有意に低下していました。マウスにアデニン食を与えると、体内でアデニンが2、8-DHAに変換され、尿路結石を形成することで腎障害を引き起こしますが、HMPAを摂取させることで、2、8-DHAの産生を抑制していました。以上の研究成果から、HMPAはアデニン食による尿細管障害、および腎炎の発症を予防しました。
今後の展開
腎炎の発症の予防や軽減を指向した新しい機能性食品素材の探索に利用されます。また、多様な炎症性疾患が社会問題となっている現代において、他の炎症性疾患にも利用されうると考えられます。さらに、HMPAは尿酸の生成にも抑制効果を示す研究成果であることから、痛風(高尿酸血症)にも効果を示すことが期待されます。
参考資料
A、左は正常のマウスの腎臓.アデニン食を与えたマウスの腎臓は白色化など外観に異常が認められますが(中央)、HMPA を一緒に与えることで腎臓の形態は正常な外観を示します(右).
B、左は血中尿素窒素(BUN)、右は血中クレアチニン(CRE)濃度です。正常のマウスと比較して、アデニン食を与えたマウスでは高値を示しますが(Adenine)、HMPAを一緒に与えることで各濃度は正常値を示しています(HMPA)
ポンチ絵
用語解説
(※1) ポリフェノール
植物に多く含まれる成分の総称です。コーヒー、緑茶、果物、野菜などに含まれ、健康との関係が研究されています。
(※2) HMPA
ポリフェノールの効果を発揮する活性本体の一つと考えられています。コーヒーに含まれるクロロゲン酸、ミカンなど柑橘類に含まれるヘスペリジン、お米などに含まれるフェルラ酸、ウコンに含まれるクルクミンなど、多くのポリフェノールなどは腸内細菌によってHMPAへ代謝され、体内に吸収されることが報告されています。
(※3) アデニン食
実験動物(主にマウスやラット)の餌にアデニンという物質を加えた特別な飼料のことです。
(※4) 腸内細菌の代謝物
腸内細菌が食品成分などを分解・変換して作る物質です。食品成分が体の中で働くうえで重要な役割を持つことがあります。
(※5) 機能性食品成分
健康の維持や病気の予防に役立つ働きが期待される食品中の成分です。今回の研究では、HMPAが腎臓を守る機能性食品成分として利用できる可能性が示されました。

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