大学院先進理⼯系科学研究科 児⽟ 愛梨 さん

取材日:2026年2月24日

先進理⼯系科学研究科の児⽟愛梨さんにお話を伺いました。
児玉さんは、令和6年7月に広島大学女性科学技術フェローシップ制度の理工系女性M2奨学生に採用され、令和7年度からは理工系女性リサーチフェローとして支援を受けています。また、令和8年度からは、日本学術振興会の特別研究員に内定しています。
今回は、児玉さんに、博士課程後期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)

博士課程後期の研究内容について 

児玉さんの研究内容について教えてください!

私の所属している研究室は、宇宙の始まりに手を伸ばせるようなテーマを扱っていて、その中で私は「2つの高強度パルスレーザーを用いた未知粒子探索」を研究テーマとしています。
宇宙に存在する天体や生物、身の回りの物質は素粒子と呼ばれるとても小さな粒子で構成されています。しかし、既知の素粒子では宇宙全体のエネルギー密度収支の約5%しか満たせず、その約5倍は、暗黒物質という未知粒子が満たしていることが示唆されています。暗黒物質というのは、現状では既知素粒子で説明できない宇宙の重力現象を説明する仮説上の物質です。今いるこの空間も宇宙ですので、この辺りに約5倍は何か存在していると思うのですが、暗黒物質は光と反応することがほとんどないために、見ることができず、見つかっていないのです。私たちが探索しているアクシオンと呼ばれる粒子はこの暗黒物質の最有力候補の一つです。元々、アクシオンは暗黒物質とは独立の測定からその存在が予言されていました。アクシオンはほんの少し光に反応すると予言されていて、高強度外部磁場を印加することで光子に変換して、その光子を検出するという手法で探索されています。アクシオンと類似した特徴を持つアクシオン様粒子(Axion-like particle, ALP)も同様に探索できます。
私は、高強度電磁場としてパルスレーザーを真空中に集光し、光からALPを生成して光に崩壊させるという手法でALPを探索しています。2光子の重心系衝突エネルギーがALP質量と一致する時にALPが生成されます。同時に別の色のパルスレーザーを入射することでALPから光子への変換を促して、この光子を信号光として検出します。この事象を誘導共鳴光子散乱と呼んでいます。2色のパルスレーザーを用いることで信号光は入射レーザーとは違う色になります。ALPと光の反応は微弱ですが、高強度パルスレーザーの集光により、高光子密度状態を作りだし、信号光の検出確率を上げることができます。
研究は擬似信号光(背景光)との戦いです。微弱な信号光の発生確率を上げるためにパルスエネルギーを増強すると、背景光量も増加します。博士課程前期では、先行探索実験で支配的だったレーザーを伝搬させるのに使用するミラー等から発生する背景光の伝搬空間分布特性を利用して検出前に劇的に除去する方法を実装しました。そこで、より高強度なエネルギーを利用し、より短パルスな光源を実装して探索実験を行い、新しい背景光特性を調査しています。考え得る背景光の可能性を排除しても信号光が検出される時が、ALPの発見です。
私の研究では共同研究先の京都大学化学研究所で管理運用されている高強度パルスレーザーを使用していて、3~4ヶ月単位で京都に出張しています。

このテーマを選ばれた背景を教えてください。

学部3年次にこの研究室の先生の授業を受けたことで、素粒子というものに興味を抱きました。研究室配属の際には、研究テーマについての知識もありませんでしたが、興味を感じた全てのテーマについて教員とその指導学生である先輩に話を聞き、研究指導方針との相性なども考慮し、今の研究テーマを選びました。大型のコラボレーションが多い素粒子実験分野において、私たちは少数精鋭的に一人ひとりが実験系の設計、調整、データ取得、解析などをこなします。少しずつできることが増えて自信もついてきたので、楽しく研究ができています。

研究の面白さ、苦労について教えてください。

実験装置を組むことから、周辺機器の整備、データ取得や解析まで全てを自分でこなすため、全体の流れも仕組みも全て分かっている状態で研究ができるというのが、楽しいところです。反面、全てを網羅するがゆえに、不得意な分野もカバーする必要があり、そこには苦労を感じます。私自身、ハードウェアの内部に関する知識が不足しており、回路の設計やプログラミングは得意ではないので、先輩や同期に教えてもらいながらなんとか対応しています。
また、京都との2拠点生活になるので、移動も含めて苦労は多いです。指導教員に研究の進捗状況を報告するのもオンラインになってしまい、伝わりにくいと感じることもあります。

児玉さんが研究を行う様子

*右側の写真は、ELI-NP(ルーマニア)での実験準備の様子です。左側が児玉さんです。

博士課程後期の生活について 

毎日のスケジュールについて教えてください。

朝は9時〜10時に来て、21時くらいまで研究をしています。これは東広島でも京都でも変わりません。京都大学でレーザー装置を使う場合は、電源を入れてから実際に使用できるまでに約2時間必要なので、午後から実験を始めるというのが通常のスケジュールになります。ただ、レーザー装置は占有して使えるわけではないので、他の人の使用状況によっては、夜間に実験を始めることもあり、そうした際は日を跨ぐこともあります。レーザー装置を使っていない時は、他の装置の不具合に対処したり、ミラーや光学装置の設計をしたりしています。

休日はどのように過ごしていますか?

休日は、実験をしに来る人がいないと考えて、あえてレーザー装置の予約を取って実験をすることもあります。研究が趣味とまでは言いませんが、大部分を占めていて、予定がない日や装置の予約が取れていない日でも、研究に関して「来週何をするべきか」「どうするとうまくいきそうか」など考えてしまいます。それでも、動画を見たり、ショッピングに行ったりすることはあります。最近は運動も兼ねて図書館に行くようになりました。

忙しい研究生活の中で意識的に大切にしている時間はありますか?

睡眠時間はしっかり確保するようにしています。睡眠不足になると、若干思考が働いていないなと感じることがあり、そういう状態だと研究も進まないからです。
あとは、誰かと話す時間は必ず設けようと思っています。こちらでも京都でも、ランチを皆でいっしょに食べることが多く、こちらの研究室だと、同期と好きなアニメやゲームの話をしたり、京都の研究室だと、助教の先生や技術職員の方と研究に関する情報交換をしたりしています。自分の性格上、積極的に話しかけていくのはあまり得意ではないので、そのような時間は大切にしています。

研究室の雰囲気はどんな感じですか?

構成としては教員が5人、博士課程後期が10人、博士課程前期2年が5人、1年が4人、学部4年が8人と比較的大所帯な研究室です。
年の半分以上は京都にいて、こちらの研究室で過ごす時間はそこまで多くはありませんが、学年ごとの壁もなく、とても良い雰囲気だと思っています。

研究で海外に行かれることはありますか?

博士課程前期2年の5月半ばから7月初めにかけて、ルーマニアの高強度レーザー施設に出張して国際共同実験に参画していました。
ルーマニアのブカレストにある極限レーザー核物理研究所(ELI-NP)には、京都大学で利用できるレーザーの10倍以上の最高出力のパルスレーザー装置があります。ビーム使用申請が採択された1か月の間に、国内の実験系に導入した背景光除去系を実装してデータ取得を行うために現地に赴きました。私と現地の日本人研究者一人が実験装置や内容に詳しい状態で、辿々しい英語のコミュニケーションでルーマニア人の研究者とともに実験を進めました。巨大化した装置の操作、オンラインモニタリングシステムや自動調整機構の実装など国際共同実験のスケールを体験できました。

研究活動での英語の使用について教えてください。

以前は研究室に留学生がいたので、ミーティングの資料は英語で作成していました。その後も研究に関する英単語には常に触れておきたいという思いがあって、英語での資料作りは継続しています。
それでも書くことと会話することはやはり別で、英語で発表する場では苦労しています。国際学会やシンポジウム前には想定質問と答えを用意し、発表練習をして頭を英語に切り替える努力をして臨んでいます。
最近、京都大学の留学生と英語でコミュニケーションをとるようになったので、そのような機会も活用して、少しずつ英語力を高めていきたいと思っています。

博士課程後期への進学について

博士課程後期への進学を決めたきっかけを教えてください。

博士課程後期まで進学したいなという気持ちは、大学入学時から漠然とはありましたが、当時は研究室に配属されて実情を把握してから、博士課程後期進学を検討しようと考えていました。きっかけという明確な出来事はありませんが、研究室の先輩や同期の影響がいちばん大きいと思います。卒論のテーマが、当時博士課程後期2年の先輩が担当されていた探索実験の背景光特性の研究で、ともに研究を進める中で楽しそうに取り組んでおられる姿を見ていました。さらに、研究室の同期6人中5人が博士課程後期に進学しました。私だけだったとしても進学したとは思いますが、同期の存在がより後押しになったことは事実です。

進学について、不安はありましたか?

 博士課程後期は、通常3年間でカリキュラムが終わり、卒業要件を満たしたら博士号を取得して修了だと思いますが、卒業要件を満たせず、オーバードクターになってしまうことに対する不安はありました。あと、自分自身が本当に研究を好きかどうかということも悩んでいて、博士課程前期と後期では求められる研究のレベルが明らかに違うのも分かっていましたので、その中で自分は研究を好きで続けていけるのかという不安もありました。
それでも進学しようと思ったのは、先ほど言ったように、先輩や同期の存在が大きかったと感じています。

将来のキャリアパスについて

将来はどのようなキャリアパスを考えていますか?

今の研究内容が好きなので、大学や研究所で研究を続けていきたいです。博士課程に進学して研究を続けているうちに、ある程度責任ある立場になり、一つひとつの決断に重みを感じつつも、重圧になることもなく継続できているので、自分は研究者に向いているのではないかと思っています。

女性科学技術フェローシップ制度について

女性科学技術フェローシップ制度に採択されるまでの準備について教えてください。

この制度については、研究室の先輩が採択され、同じようにインタビューを受けられていたこともあり、以前から知っていました。
私が応募した年は、学振と申請時期が同じタイミングだったので、双方の申請書を同じように書いていました。申請書を書くにあたっては、3年間でのゴールを明確に設定する必要があるので、指導教員のアドバイスを受けながら準備しました。その過程で、自分が思いのほか不透明な状態で研究を捉えていたことを再認識しました。それまでは少し先のタスクを主に見ていましたが、もっと先の未来を考えることで優先順位が明らかになりました。大まかではあっても申請を通じてゴールへの道筋が分かってきたように思います。
(注:児玉さんが女性科学技術フェローシップに応募された時の応募締切は、博士課程前期2年の5月でした。)

理工系に進学する女性を増やすために思うことはありますか?

私自身は女性であることと理系に進むことを繋げて考えたことがないので、上手くコメントできないのですが、例えば「研究者」というイメージ像に対して男女のどちらも思い浮かぶ状態になれば、若い世代の女性が理系への進学を考えやすいかもしれません。そのためにも、女性の研究者を増やすことへの取り組みは必要だと思います。

博士課程後期を目指す学生へのメッセージ 

もし学部生の自分にアドバイスができるとしたら、どんなことを伝えますか?

学部生の頃から「時間がない」と言って勉強を疎かにすることがあったのですが、今考えれば、学部生は大学院生に比べ時間はあると思うので、「時間がない」と言い訳をせず、必要なことはやるべきだと伝えたいです。それは勉強だけでなく、遊びについても同じだと思います。

最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!

博士課程後期は研究者の仲間入りで、研究方針なども自分で考えるため責任も伴ってきますが、それほど怖がる必要はありません。私は自身が研究に向いているかどうか不安を抱えて進学しましたが、教員からの指導を受けながら研究を進めることができています。
博士課程で得られるのは、計画力や説明力など、どの社会でも通用するスキルも含まれ、それを鍛える手段として研究を進めるという面があると思っています。もちろん研究が好きであることは必要かもしれないですが、研究を進める力があるか分からない、という理由で諦めるのはもったいないと思います。

取材者感想

「児玉さんは、宇宙の始まりに迫る素粒子や暗黒物質の解明を目指し、アクシオン探索に取り組まれています。今すぐ答えが出るとは限らないテーマであっても、「もしかしたら届くかもしれない」という可能性を信じて研究を続けられている姿勢がとても印象的でした。少数精鋭の環境で装置の仕組みから自ら理解し関わることに面白さを感じている点や、分からないことに少しでも近づこうとする探究心から、研究そのものを楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきました。」(総合科学部総合科学科2年・迫田莉子さん)

「児玉さんが取り組んでおられる「素粒子」についての研究はかなり専門的でしたが、ご自身も入学時は素粒子のことを全然知らなかったとのことでした。宇宙という未知の世界について研究することは、面白さと同時に、ゴールが見えないゆえの不安もあるのではないかと思いましたが、児玉さんにとっては「知らない」ということ自体が魅力だと語られる姿が印象的でした。また宇宙がテーマということで、興味本位で地球外生命体について質問したところ、この分野では、「無い」ということの証明が難しいと仰っていて、そういった逆転の発想も面白いなと感じました。暗黒物質という未知の存在の研究に果敢に挑まれる児玉さんから話を伺い、既に存在している正解に近づこうとするだけでなく、手探りで研究していくことにも挑戦してみたいと思いました。」(総合科学部総合科学科1年・小林芽衣さん)

左から小林さん、児玉さん、迫田さん


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