八木 隆多 准教授

いつの間にか、コラムを書くというのが決まってしまったようですね。私の番はずっと先かと思ったら、すぐに回ってきて驚いております。
さあ、何を書こうか?
誰かすでにチョット書いていますが、やっぱり、まずはパソコンの進歩に感慨深いものがありますので、それからはじめます。
今から、30年ほど前、大学生くらいだったと思いますが、その頃8bitZ80(ご存知でしょうか)のパソコンが10-20万円したものでした。パソコンの値段は今と大して変わらないようです。
今ではオタクってやつですか?アキハバラに行くのは。
アキハバラに毎週行って、「この部品は!」、とか言って、使う予定はないけど、取りあえず買ってみる。はんだ付けして拡張バスにインターフェースを作ることなんかを、勉強そっちのけで熱心にやっておりました。もちろん自宅で。(それは、学部で習うことがそれほど面白いと思えないからなのでした。実際、こんなコムズカシイことやって何のためになるんだと思っていました。今では必要性を理解しています。)
アセンブラでCP/Mのバイオスを書いて、ドライバなんかも自作して自己満足しておりました。パソコンのフロッピー起動はあたりまえ、下手したら、プログラムをテープレコーダーで読み込む時代です。(CP/MはMSDOSの前にはやったOSです。)
ちょうどそのくらいの時期ですが、東大航空宇宙研究所にいらした桑原邦彦先生が流体力学の講義にいらっしゃいました。
ご自宅に招待されて伺ったところビックリ。自宅にスーパーコンピュータがあるのでした。
この記憶装置の容量は1ギガバイト、フロッピーが1000枚入ると先生がおっしゃる。腰を抜かすほど驚いたものです。電気代もひと月1000万円位?だといっていたような気がします。たぶん四捨五入すれば正解です。
えらく裕福なご家庭で、当時は食べたこともないようなごちそうをお屋敷でふるまっていただきました。(ローストビーフなるものを初めて食べたと思います。そのおかげで、計算流体力学をやろうと心に誓いました。が、すぐに別のものに目がうつりました。高温超電導フィーバーで、YBCOをこねることになります。半年だけ。)
今、こうして単なるワープロとして作動しているパソコンはそのスパコンをはるかにしのいでしまっています。動画や写真などは明らかに滞りなくうごくようになりましたね。チョット前にはjpgの展開に30秒くらいかかっていましたから。
ワープロとして使っているのであれば、昔も今もあまり操作性は変わらないような気がします。
でも、科学技術計算をすると、技術進歩のありがたみを実感できます。最近は、うちのグループの実験結果の解析のために多層ディラック電子の磁場中エネルギースペクトルの計算とかしているのですが、ものすごい大きな複素配列の固有値をすぐに求めることができて重宝しております。研究のスタイルも様変わりですよね。電気抵抗測定ですごく細かい電子状態までわかってしまうのですから。
今の学生さんは、はんだ付けして拡張バスにインターフェースを作ることなんかをやっている人は非常に少ないし、そうすることを無駄だと思うかもしれません。
しかし、それは違います。
昔やったそうした経験は、物理の実験装置を作るのにすべて応用できます。
なんでも熱心にやれば、あとで生かすことができるはずですし、生かさなければなりません。(ただ、すでにある実験装置でルーティンワークをしているだけでは生かせませんけどね。)
学生さん、研究でしている試行錯誤は(たとえ結果がどうであろうと)いい経験になっているはずですよ。たぶん。
最後に、一言だけ。
がんばろう広島大学、
がんばろう日本。
(2016年6月10日掲載)