【IR報告】博士課程学生の教育スキルの自己評価:本学の大学教員養成への示唆

 教育学習支援センターの教学IRワーキンググループは、2023年度に博士課程後期学生の能力開発経験を把握するための調査を実施しました。本調査の概要は公開されており、本記事ではその一部データを用いて、博士課程後期学生が学部課程で教える立場を想定した際に、どの程度教育活動が可能であると考えているかを、いくつかの教育スキルごとに分析した結果を報告します(有効回答数125名)。本調査結果は、「大学教員養成講座基礎」のシラバス内容検討に資するものです。

 今回の調査では、以下の6つの教育スキルについて、どの程度可能であると認識しているかを測定しました(Connolly, M. R., & Lee, Y. G. (2015) の指標を日本語訳して使用)。

 1.学習成果の評価: 学生の学習目標達成度を判断し、フィードバックを提供し、学習改善を促進する能力。
 2.専門知識の習得: 教育分野における深い理解と知識を保持する能力。
 3.学生との交流: 教室内外でのコミュニケーションを通じて学生の学習意欲を高める能力。
 4.効果的な教育技能: 教育目標達成に向けた戦略や技法を選択し授業を進行する能力。
 5.学習環境の創出: 学生が集中し積極的に参加できる環境を整える能力。
 6.コース計画の立案: 教育目標達成に向けたカリキュラム設計および授業構成能力。

 記述統計結果(下図参照)によれば、本学、博士課程の学生は全体的に自身の教育スキルに対して高い自信を示しており、各項目の平均値は4.97から5.43(1-7の指標)に収まっています。6つの項目間で大きな差は見られず、特定スキルへの極端な自信や不安は確認されませんでした。

表:6つの指標の平均値の結果

表:6つの教育スキル指標の平均値の結果

 最も高い自己評価は「専門知識の習得」(平均値5.43)であり、博士課程学生が自身の専門分野知識に強い自信を持っていることが示唆されます。一方、「学生との交流」(平均値4.97)が最も低く、教室でのコミュニケーションや関わりに関して相対的な不安が見られました。

 これら結果からいくつかの示唆が得られます。まず、多くが大学で教育経験がないにもかかわらず高い自信を示している点について留意する必要があります(調査対象者の60%が大学での授業担当経験がないことがわかっています)。実際に教育現場で困難に直面した際、自信喪失や責任転嫁といった問題が生じる可能性があります。そのため、実践的な教育経験や若手教員の経験共有を取り入れた「大学教員養成講座基礎」の構築が重要かもしれません。また、「学生との交流」への自信不足については、「大学教員養成講座基礎」で、不安要因や具体的な場面に意識を向けさせることが有効かもしれません。これら対応策により、将来的な教育活動への適応力向上が期待されます。

 今回の報告は、収集したデータの一部です。引き続き、本学博士課程後期の学生の能力開発や教育スキルなどに関わる分析を進めてまいります。

 

参考文献

Connolly, M. R., & Lee, Y. G. (2015). The effects of doctoral teaching development on early-career STEM scholars' college-teaching self-efficacy. WCER Working Paper No. 2015-1. Wisconsin Center for Education Research.
 

【問い合わせ先】

教育学習支援センター

e-mail:capr@hiroshima-u.ac.jp
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