【IR報告】博士課程学生のTA資格取得が映す教育スキル自己認識の実態調査

 本調査は、広島大学教育学習支援センターが2023年度に実施し、博士後期課程学生の能力開発経験を把握することを目的として行われました。本報告は、博士後期課程学生のTA資格(Qualified Teaching AssistantQTATeaching FellowTF)の取得有無と、教育スキルに関する自己評価との関連を検討することに主眼を置いています。調査対象は本学大学院博士後期課程在籍の108名であり、QTAおよびTF資格の有無によって、六つの教育スキルに関する自己評価に差があるかを分析しました。評価対象は「コース計画の立案(Course planning)」「学習環境の創出(Creating learning environment)」「効果的な教育技能(Teaching method)」「学習成果の評価(Assessing student learning)」「学生との交流(Interacting with students)」「専門知識の習得(Mastering subject knowledge)」の項目で、各項目は1点から7点の自己評価によって測定しました。

図:TA資格の種類および有無による教育スキル自己評価の差異

表:TA資格の種類および有無による教育スキル自己評価の差異

 特に「学習成果の評価(Assessing student learning)」においては、TF保有者の平均値が4.67点であり、TA資格非保有者の5.41点よりも有意に低い結果を示しました(TF vs 非保有:p = 0.039)。この背景を推測すると、TF保有者は実際に答案の採点や個別フィードバックを担う過程で自らのコメントが学習者の理解を本当に深めているのかを深く省察するため、控えめな自己評価につながった可能性が考えられるかもしれません。または、TA資格の非保有者が高い自己評価を示した要因としては、教育経験が乏しいため評価行為の困難さを十分に認識していないことによる過信、あるいは、既に高度な教育スキルを持つという自信があるがゆえに、本学のTA資格のような形式的な資格取得を必要としないという、二つの相反する可能性、またはそれらの混在が想定されます。すなわち、資格非保有者には「教育活動の複雑性を知らないゆえの楽観」と「すでに高い教育能力を確信し資格取得を不要とみなす自立性」という両極の要因が潜在している、あるいは両者が併存している可能性があると考えられます。これを検証するためには、保有者と非保有者の教育経験を比較することが妥当性確認の一助となるかもしれません。

他の五つのスキルについても、TA資格の非保有者が最も高い平均値を示し、次いでQTA保有者、TF保有者の順となりましたが、統計的には有意差を確認できませんでした(有意水準5%)。たとえば「学習環境の創出(Creating learning environment)」では、非保有者が5.52点、QTA保有者が5.32点、TF保有者が5.01点を示し、グループディスカッションや発表を通じた教室活性化の教育実施スキルの自己認識に大きな違いは認められませんでした。

以上の結果から、TA資格の段階に応じて博士後期課程学生の教育スキル自己評価には一定の傾向がうかがえますが、その理由については本調査のみでは十分に解明できません。推察される解釈としては、資格保有者は自己評価を相対的に控えめに行う傾向にある一方、非保有者は教育行為の難しさを実感していないため過信に陥っている、あるいは資格取得を不要とするような自信や経験をすでに有しているという可能性が推測できると考えています。

本調査の結果は、博士後期課程学生の教育スキル自己評価が、TA資格の保有状況と一定の関連の可能性があることを示しつつも、その背景には多様で複雑な要因が存在することを示唆しています。教育経験の質や量、資格取得に対する価値観の違いが自己評価の差異に影響していると考えられ、これらを解明するにはさらなる調査と分析が必要です。今後は、教育経験の具体的な内容や学習機会との関連を精査することで、博士後期課程学生の教育能力開発をより的確に支援する方策を検討していくことが考えられます。

【問い合わせ先】

教育学習支援センター

e-mail:capr@hiroshima-u.ac.jp
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