ロールモデルはあなたです。

仁科 陽江 副学長(ダイバーシティ担当)

研究者の皆さんへ

 私は海外の大学から広島大学に赴任して2年目から全学の女性研究活動委員会の委員長と教育研究評議会評議員を務め、その3年後にダイバーシティ担当の副学長を拝命しました。

 ダイバーシティとは、人間社会での多様性、つまり男女の性差、性指向や性自認、年齢、国籍、人種、宗教、障害の有無などの違いを認め合う意味で用いられています。多様性を重んじるということは、多様な考え方と向き合うということでもあります。私自身がこのことに対峙せざるを得なかったのは、やはり異なる文化圏で生活した時でした。

 ハイコンテクスト文化の典型である同質的な日本社会では、直接的な表現を避けて文脈から互いに相手の意図を汲み取ることが良しとされてきましたが、ローコンテクスト文化は、前提となる文脈や共通の価値観が少ないため、言語化して伝え合うことが必要とされます。世界で最もハイコンテクストなのが日本、最もローコンテクストなのがドイツ語圏スイスとドイツであると言われています。
そのドイツで長く暮らした私は、「以心伝心」とか「沈黙は金」とか言っておられず、謙虚さや協調性は自分の意見を持たないことだと否定的にさえ捉えられ、ものを言う、ということを随所で求められたものです。

 日本もまた在住外国人が増え、異文化との共生社会になってきています。研究者の活動の場は国際社会となり、世界に向かって発信することが問われる中で、考え方や価値観など、異質のものにぶつかることも多々あることでしょう。ヘーゲルの弁証法では、テーゼに相反するアンチテーゼがあることで、より高みに結実したジンテーゼに至ります。この原理によって、多様性の理解は、より広い視野や柔軟な思考による創造性を得ることになると言えます。

 長い海外生活を終えて帰国した私は、むしろ自分の国でアンチカルチャーショックを受けた浦島花子でした。日本の大学のことはまるでわかりませんでしたが、大学の仕事を通して、おかげさまでたくさんのことを学ばせていただいています。そして、皆が幸せになれる大学や社会の未来について考えています。

 大学にいらっしゃるみなさんは研究が好きで教育にやりがいを感じていらっしゃることと思います。さらに大学運営にも携わる機会があれば、異なった視点を得られるので、積極的に参画していただきたいと思います。女性研究者の環境整備のための制度づくりや男性も含めた意識啓発などを広島大学は推進していますが、皆さんの声をぜひお届けください。ダイバーシティという人材マネジメントによって業績が上がり働きやすくなったという職場がたくさんあります。そのような場を共に作っていきましょう。ロールモデルはあなたです。
 

(2022年3月掲載)
*所属・職名等は掲載時点のものです。


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