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国立大学法人広島大学、国立研究開発法人情報通信研究機構、パナソニック株式会社は共同で、シリコンCMOS集積回路により、300GHz帯単一チャネルで毎秒105ギガビットという、光ファイバに匹敵する(※)性能のテラヘルツ送信機の開発に世界で初めて成功しました。
(※)イーサネットにおける「100GbE」規格相当
本研究成果は、International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)2017(2月5日〜2月9日、サンフランシスコ)で発表されます[1]。また、同学会で伝送実験のデモンストレーションが行われます。
開発の背景
テラヘルツ帯は、これからの高速無線通信への利用が期待されている新しい周波数資源です。研究グループは、290GHz〜315GHzの周波数帯域を用いて毎秒105ギガビットの通信速度を実現する送信器を開発しました。この周波数範囲は、国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)の世界無線通信会議(WRC)2019で議論される予定の275GHzから450GHzの周波数範囲に含まれています。
300GHz帯CMOS送信回路のチップ写真
開発のポイント
昨年、300GHz帯で直交振幅変調(QAM)を用いることにより、CMOS無線送信器の通信速度が大幅に向上することを実証しました[2]。今回の研究成果は、チャネルあたりの通信速度を昨年の6倍にする技術を開発したことで、世界で初めて1チャネルあたり毎秒100ギガビットを超える送信速度を達成したものです。毎秒100ギガビットは、現在のスマートフォンと比較して100~1000倍高速で、DVD1枚分の情報を約0.5秒で伝送できる速度です。これを現在情報通信機器等で広く用いられているシリコンCMOS集積回路で実現したことにより、将来的に安価に電器製品等に搭載して普及できる可能性が高くなりました。
毎秒105ギガビット送信時の出力スペクトルとコンステレーション
今後の展開
今回の研究成果により、テラヘルツ帯の高速無線通信が、情報通信ネットワークなどのインフラに使用される光ファイバに匹敵する毎秒テラビットの通信能力に近づいたことが示されました。光ファイバは、遠く離れた通信衛星とのリンクを実現できませんが、テラヘルツ無線なら、通信衛星への超高速リンクも可能です。これにより、例えば、飛行機のWi-Fi接続を大幅にスピードアップできるようになります。
また、情報サーバから携帯端末へのコンテンツ高速ダウンロードやモバイルネットワークの基地局間通信等にテラヘルツ無線を用いることが期待できます。
さらに、テラヘルツ無線の新しい可能性の1つは、高速で遅延の小さな通信技術の提供です。ガラス製の光ファイバを伝搬する光の速度は大気中よりも遅くなります。そのため、リアルタイム応答を必要とするアプリケーションに光ファイバは向いていません。テラヘルツ無線は、大気中を光と同じ速度で伝わるため、リアルタイム応答を必要とするアプリケーションでの利用も期待されます。
テラヘルツ通信の宇宙応用例
テラヘルツ通信は光通信よりも低遅延
本研究成果は、総務省「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発-300GHz帯シリコン半導体CMOSトランシーバ技術-」の研究開発の一環です。
参考文献
[1]K. Takano, S. Amakawa, K. Katayama, S. Hara, R. Dong, A. Kasamatsu, I. Hosako, K. Mizuno, K. Takahashi, T. Yoshida, M. Fujishima, “A 105Gb/s 300GHz CMOS Transmitter,” International Solid-State Circuits Conference (ISSCC) 2017.
[2]K. Katayama, K. Takano, S. Amakawa, S. Hara, A. Kasamatsu, K. Mizuno, K. Takahashi, T. Yoshida, M. Fujishima, “A 300GHz 40nm CMOS Transmitter with 32-QAM 17.5Gb/s/ch Capability over 6 Channels,” International Solid-State Circuits Conference (ISSCC) 2016.
広島大学大学院先端物質科学研究科 教授 藤島 実