【研究成果】有用微細藻類実用化のためのバイオセーフティ技術を開発 ~遺伝子組換え藻類の安全な利用に貢献~

本研究成果のポイント

  • 微細藻類は温室効果ガスであるCO2を吸収してバイオ燃料などに変換できることから、今後の低炭素化社会の構築に貢献する技術として期待されています。
  • 様々な有用遺伝子組換え藻類が開発されていますが、実用化のためには生物多様性への影響がないように、自然環境中における増殖を制限したり、培養施設外では生存できないようにしたりする仕組みを導入することが強く求められます。
  • 今回の研究により、研究グループがこれまでに開発していた亜リン酸注1)を利用したバイオセーフティ技術が微細藻類のモデルである藍藻に有用であることが実証されました。
  • 本手法の拡張性が実証されたことにより、実用化が期待されている他の微細藻類や、現在盛んに開発が進められているスマートセル注2)など様々な組換え微生物の安全性を高めるために利用されることが期待されます。

概要

広島大学大学院先端物質科学研究科の廣田隆一准教授、黒田章夫教授、本村圭研究員、東京農業大学バイオサイエンス学科の渡辺智准教授らの研究グループは、遺伝子組換え藻類の増殖を制限し、安全性を高めるバイオセーフティ技術を開発しました。

バイオ燃料や有用な化合物を作ることを目的として、様々な遺伝子組換えが施された微細藻類が作られていますが、実用化の課題として組換え体が生物多様性へ与える影響への懸念があります。この対策として、2017年3月、廣田准教授らは、亜リン酸というリン化合物に微生物の増殖を完全に依存させ、組換え微生物の生存をコントロールする生物学的封じ込め技術注3)を開発しました。この方法は、非常に高い効果を示す他、大規模な培養にも対応できる経済性も兼ね備えているため、微細藻類への適用が期待されてきました。

今回の研究では、実際にこの封じ込め技術が微細藻類のモデルである藍藻に適用可能であることを実証しました。本成果は、微細藻類以外にも現在国際的に開発が激化しているスマートセルへの適用も可能であり、医療、農業、環境分野など遺伝子組換え微生物の新しい産業利用の形態を生み出すことが期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)、JSPS科研費16K14889の一環で行われました。

本研究成果は、米国科学誌「ACS Synthetic Biology」のオンライン速報版で公開されました。

2018年9月18日、本件について、キャンパス・イノベーションセンターにおいて記者説明会を行いました。

[用語解説]
注1) 亜リン酸
化学式H3PO3で表される+3価の無機リン化合物。自然環境中では検出限界値以下であり、常温常圧では酸化されやすくリン酸となる。

注2) スマートセル
遺伝子組換え、ゲノム編集などにより、機能発現力を高めた細胞。スマートセルが関係する世界市場(発酵関連分野)は約2.5兆円(2013年、経産省調べ)。国内外でスマートセルの開発と産業利用への展開が急速に進展しており、経済・社会の新たな可能性を創造するバイオテクノロジーの基本システムとして注目されている。

注3) 生物学的封じ込め
遺伝子組換え生物が環境中に拡散することを防止するために採られる手法の1つ。特定の栄養源に依存する性質を遺伝的に与え、その物質が得られないと増殖できないようにする受動的なものや、特定の条件になると毒素を作り出し死滅するような能動的な封じ込め手法がある。組換え体を物理的に容器や設備内に閉じ込める物理的封じ込めとともに、安全性を確保するための手段として用いられる。

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図1:リン代謝経路の改変による藍藻封じ込め株の作製

亜リン酸依存性の付与には、(1)亜リン酸酸化酵素(PtxD)遺伝子の発現、(2)亜リン酸特異的輸送体HtxBCDEの機能的発現、(3)宿主の内在性リン酸輸送体の同定と破壊が必要となる(左図)。藍藻Synechococcus elongatus PCC 7942に本手法を適用した封じ込め株(写真右)は、環境中で得られるリン源であるリン酸は利用できず、亜リン酸添加時にのみ増殖が可能となった。

説明を行う廣田准教授

論文情報

  • 掲載雑誌: ACS Synthetic Biology
  • 論文題目: “Synthetic Phosphorus Metabolic Pathway for Biosafety and Contamination Management of Cyanobacterial Cultivation”(リン代謝経路の改変による藍藻のバイオセーフティ技術と雑菌混入抑制) 
  • 著者: Kei Motomura, Kosuke Sano, Satoru Watanabe, Akihiro Kanbara,  Abdel-Hady Gamal Nasser, Takeshi Ikeda, Takenori Ishida, Hisakage Funabashi, Akio Kuroda, and Ryuichi Hirota
  • DOI: 10.1021/acssynbio.8b00199
【お問い合わせ先】

広島大学大学院先端物質科学研究科
准教授 廣田 隆一

TEL: 082-424-7749

FAX: 082-424-7047

E-mail: hirota*hiroshima-u.ac.jp  (*を半角@に変換してください)


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