メールマガジン No.67(2015年6月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.67(2015年6月号)
2015/6/12 広島大学大学院文学研究科・文学部
  
□□目次□□
1.新任教員挨拶
2.本多俊和先生の特別講義
3.「オリエンテーションキャンプ」から読み解く広島大学
4.文学研究科(文学部)ニュース
5.広報・社会連携委員会より
    
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【1.新任教員挨拶】

○欧米文学語学・言語学講座准教授 今道 晴彦

 4月1日付けでドイツ文学語学講座に着任しました今道晴彦と申します。
研究分野はコーパス言語学で,言語データの集積であるコーパスから母語話者や学習者の使用傾向を抽出し,その知見をドイツ語教育に,とりわけ辞書を含む教材開発に応用することを目指しています。

 コーパス言語学を研究するようになったのは大学院を修了してからで,博士前期まではLudwigWittgensteinの心的概念を巡る言語論が研究テーマでした。その後,類似の問題が言語学の分野でも心理述語文における人称制限というテーマで議論されていることを知り,言語形式に関心が傾くようになりました。心理述語文は,ゲルマン語の場合,非人称構文と人称構文の二つの形式を取ります。話し手の今の体験に関しては非人称構文が選択され,虚辞を伴うことが知られています。ドイツ語は,この虚辞が義務的に要求,あるいは省略されるのみならず,随意的に実現されるという点で特異な振る舞いを示します。博士後期では,存在構文を手掛かりに,名詞の具象性/抽象性という観点からこの虚辞の出没現象を考察しました。

 コーパス言語学を志すようになったのは,このときにコーパスを使用したことが関係していますが,大学院の最終年度にコーパス言語学の手ほどきを受け,非母語話者であっても,教材開発などで社会に貢献できる可能性があることを知ったためです。以降,当該分野を先導する英語コーパス言語学を後追いしつつ,文法項目のバリエーション研究,基礎語彙選定,習熟度に基づくコロケーションの抽出,類義語の分類,文系学術論文の語彙文体研究,学習者の要約文の自動判定などの研究に取り組んでおります。ドイツ語では,分析環境がまだ十分ではないため,創意工夫しながら研究することが求められますが,しっかりとした目標を設定することがなによりも重要であることを痛感する毎日です。

 今後,広島大学の発展に少しでも寄与することができますよう,研究と教育に精進させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

○欧米文学語学・言語学講座准教授 上野 貴史

 2015年4月1日付で広島大学文学研究科欧米文学語学・言語学講座(言語学)に着任いたしました上野貴史と申します。これまでは、大阪の短期大学で二十数年間、語学教育に携わって参りましたが、古巣である広島大学文学研究科で言語学教育ができることになりましたことを大変光栄に思っております。何とぞよろしくお願いいたします。
   
 私の専門は、言語学・イタリア語学であり、特に、「語形成の生成過程」、「言語形式の通時的変化」、「非対格構造における統語現象」ということをテーマとして研究を行っております。

 イタリア語学では、近代イタリア語成立期におけるレオパルディ(Giacomo Leopardi: 1798-1837)の作品を資料体とし、現代イタリア語との通時的研究を大学院時代から行って参りました。通時的変化が少ないと考えられがちなイタリア語ではありますが、機能語においてはかなりの形態変化が見られます。そこで、最近ではイタリア語史全般における機能語(定冠詞・冠詞前置詞・人称代名詞など)の形態変化について、文学コーパスを用いて通時的推移を計量したりしております。

 言語学では、「生産的なゲルマン語と非生産的なロマンス語の複合語」ということに着眼し、英語・イタリア語における複合語の対照研究や、生成文法を用いたイタリア語の語形成の分析を行って参りました。このような形態論として語形成を研究している中で、「過去分詞の「完了」と「受動」が屈折と派生という生成過程の違いにあるのではないか」という考えを発展する方向性で、現在、非対格構造における統語論に取り組んでいるところです。

 今後は一層の研鑽を重ね、伝統ある広島大学言語学講座の発展に寄与できるよう、教育・研究に邁進して参りたいと考えております。

○欧米文学語学・言語学講座助教 松本 舞

 2015年3月1日に着任しました、松本 舞と申します。
文部科学省平成26年度 科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業(次世代研究者育成プログラム)未来を拓く地方協奏プラットフォームのプログラムでお世話になります。

 広島大学に赴任する以前は、広島大学文学研究科の博士課程でお世話になっております。2012年から3年間、島根大学教育学部で特任講師を勤めました。これまでの研究においては、ヘンリー・ヴォーンを研究対象にしてきました。科学技術が発達する以前の人々の思考に興味があり、特に死後の世界や魂の行方、死者の復活、最後の審判の思想などの描写に注目し、形而上詩を研究しています。また、科学の原点となった錬金術の思想や、医学思想、哲学の分野からのアプローチを試みています。

 また、初期近代の英文学の中には、現代の日本の文化の原点となる部分も多くみられ、サブカルチャーの源流を探る研究を行っています。例えば、ジョン・ミルトンが『失楽園』の中で描いた世界は、現代の日本のゲームやアニメの中に登場する悪魔や天使の描写の原点となっています。初期近代の文学作品の中には現代の文化や娯楽に活用される要素が多く眠っており、それらを発掘する研究も進めていきたいと思っています。

 文学を研究することは、作家が作品に託した声を聞くことであると考えています。文学作品を精読することで作家という死者たちの声に寄り添い、それを現代の研究者、学生たちの声に重ねることで、死者の声を復活させていきたいと思っています。また、詩というジャンルは、地域に根付いた文学でもあります。詩を詠むということは、その土地の、木、花、鳥といった自然を詩人の視線で切り取るということにもなります。イギリスの詩だけではなく、日本の詩にも目を向け、広島を始め中四国に根付いた作品の詩人たちの声を世界へと発信していく手伝いができれば、と思っております。

 広島大学を拠点としてイギリス文学と詩の発展に貢献できるよう尽力する所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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【2.本多俊和先生の特別講義  総合人間学講座教授 高永 茂】

 集中講義「総合人間学」では毎回特別講義(公開講演)を開いています。今回は、本多俊和先生(放送大学教授)を講師にお迎えして、「博物館展示を通して世界を覗く-共鳴する社会を築く-」という題目で講義を行っていただきました。

 講義は、少数・先住民族の展示がいわゆる「伝統」中心であることへの問題提起や、沖縄「ひめゆり平和祈念資料館」の展示と政治介入の話題から始まりました。その後、博物館の役割や歴史について本多先生独自の立場からさまざまな考察がなされました。アイヌ民族の展示や外国の先住民族の事例から、博物館が抱えている種々の問題が浮かび上がってきました。日本国内ならびに海外の博物館をめぐった本多先生自身の経験を交えた語りは、ぐいぐいと聴く者を惹きつけていきました。

 講義のまとめとして、異文化を奇異とするのではなく文化は多様であるとする認識が必要なこと、グローバリズムに隠れている民族の独自性に気づくこと、おとずれる博物館の設立理念を知るべきであることなどが指摘されました。120名を越える聴衆にむかってマイクを使わずに生の声で語りかけるスタイルで、学生たちと対話しながら授業は進められました。一方通行の講義や講演は望まないという姿勢で授業を展開なさったので、本多先生と学生たちのやり取りも活発なものになりました。日頃は博物館の展示について真剣に考える機会は少ないと思います。本多先生の講義を聴いて、集中講義に参加した学生諸君が新たな視点を獲得してくれることを期待しています。

 なお、本多俊和先生はスチュアート ヘンリというペンネームをお持ちです。ぜひWeb上で検索してみてください。

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【3.「オリエンテーションキャンプ」から読み解く広島大学 就学相談室長 井内太郎】  

 文学部には「新入生オリエンテーションキャンプ」、通称「オリキャン」と呼ばれるオリエンテーション行事があります。今年も新入生と迎える側の2/3/年生さらに教職員、総勢300名ちかくが、山口県の「徳地青少年自然の家」に集い、スタンツ、キャンプファイア、オリエンテーリングなどを通じて、親睦を深めました。私も学生生活にかかわる仕事をしているとはいえ、今回で連続5回目の参加となりました。

 「オリキャン」について執筆依頼を受けたとき、さて、何について書こうか思案していたのですが、よく考えてみると「オリキャン」はいつ頃始まったのだろうかという素朴な疑問が沸いてきました。歴史家としての虫がうずいたのかもしれません。そこで「オリキャン」の歴史を振り返りながら広島大学について考えてみたいと思います。

 「オリキャン」は広島大学体育会10周年記念行事のひとつとして昭和48(1973)年から実施された行事です。運営は体育会に所属する学生を中心に進められ、学生部が全面的に支援する形をとっていました。驚くべきことに、当初は全学部が一同に会して行われていたことです(実は、恥ずかしながら小生も、いたいけな新入生の時に参加いたしました)。たとえば平成2年にはバス・フェリーをチャーターし、宮島の包ケ浦キャンプ場に、全学部から新入生と在校生ならびに教職員からなる総勢2,457名におよぶ参加者があったと記されています(『広島大学の50年』より引用)。準備する側の学生・教職員の労力は相当なものであったことでしょう。また当時、この企画は全国的に見ても意義深い全学的行事として高い評価を受けており、文部省(現在の文部科学省)から、予算について特別補助を受けることになりました。

 また「オリキャン」企画の目的も実に興味深い。当時の資料によれば、「大学紛争の反省に立って教官と学生との相互理解を深める場を提供し、新入生が陥りやすい「五月病」を防ぎ、学生間の交流を図ること」にあったと記されています。昭和43~44年の広大紛争時に、大学正門が封鎖されて「広島解放大学」の看板が掲げられ、広大全共闘と当時の飯島学長との間で、昼夜を問わず「ダンコウ(団交)」が繰り返されていたことなど、現在の広大生は知る由もないでしょう。この紛争の終結時に「オリキャン」が誕生したわけで、「オリキャン」は、広大の歴史のまさに転換点に誕生したといってよいでしょう。

 しかしながら、その後学生と教員の交流の場としての役割が希薄化するにつれ、学内から批判が生じ、全学的規模の「オリキャン」は平成4(1992)年をもって終了しました。平成5年からは学部ごとにオリエンテーション行事が行われるようになります。今ではかつての「オリキャン」の精神を大切に継承しつつ、キャンプ形式のオリエンテーションを行っているのは、文学部だけとなってしまいました。

 現代の若者は、インターネットやラインでつながり、そうしたヴァーチャルリアリティの世界の中に自分を位置づけようとする傾向が少なからずあり、それが彼らの対人関係の構築やコミュニケーション能力の低下を招いているとよく言われます。だからこそ、実際に人と向き合って、自分の目・耳・口でコミュニケーションをはかり、自分の気持ちや意見をぶつけ合えるような学生交流の場の必要性が増しているように思います。また、こうした団体生活や活動を行うことは、学生間で規範意識を高める良い機会ともなっています。 私は「オリキャン」に参加し、学生たちを遠くから見守りながら、こうした貴重な経験を通じて彼らが文学部の学生としてのアイデンティティを共有し、人間性豊かで個性的な学生に育ってくれることを願っているのです。 
 
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【4. 文学研究科(文学部)ニュース】

○内海文化研究施設 第33回 季例会 ・公開講演会を開催します
【日時】7月6日(月) 13時30分~15時30分
【場所】大学院文学研究科(文学部) 1階 大会議室
詳しくは、文学研究科HPをご覧ください。

○第13回「文藝学校」講演会を開催します
【日時】7月19日(日)午前10時30分~午後5時
【場所】鳥取県米子市 「本の学校」今井ブックセンター 2階 多目的ホール
詳しくは、文学研究科HPをご覧ください。

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【5.広報・社会連携委員会より  広報・社会連携委員長 吉中孝志】

 ついに梅雨に突入しましたが、いかがお過ごしでしょうか?昔のこの時期の雨はもっと「しとしと」と降っていたように思います。個人的見解ですが、やたらと強い雨足に悪意さえ感じる今日この頃です。

 この6月号のメルマガにお忙しい中、執筆して下さった方々に感謝いたします。新任の先生方には、ますます人文系の研究者が削減されるこの迷妄の時代に光となってくださいますように祈念しております。また、総合人間学講座の特別講義の報告も「オリキャン」の歴史も、本学部、本研究科の活動内容の一端とその意義を再認識させてくれる記事だと思います。

 最後にお知らせをもう一つ。これまで「リテラ・コンサート」として開催してきた文化事業をらに拡充させた形で行うため今年度から「リテラ芸術鑑賞会」と名称を改めました。音楽好きの方々からコンサートの楽しみを奪うのではなく、音楽だけではなく、さらに文学部、文学研究科らしさを求めつつ、さまざまな文化事業を展開していければ、と願っています。今年度は、来年の2月14日に京都から狂言団を招き、「バレンタイン狂言会」を開催する予定です。本学日本文学分野の教授による高校生向けの古典の言葉に関するミニ講義も付け加えることになっています。近日中にチラシ、ポスターが出来上がりますので、ご期待ください。                              

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長 勝部 眞人
編集長:広報・社会連携委員長 吉中 孝志
発行:広報・社会連携委員会

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FAX(082)424−0315
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