メールマガジン No.85(2018年5月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.85(2018年 5月号) 2018/5/22   

□□目次□□
1.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ
2.集中講義「総合人間学」レポート
3.文学部オリエンテーションキャンプレポート
4.文学研究科(文学部)ニュース
5.広報・社会連携委員会より

1.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ

 文学研究科には昨年度2月にお二人の助教の先生が着任されました。今回のメルマガでは、お二人の先生の自己紹介をお届けいたします。

○応用哲学・古典学講座 倫理学分野助教 岡本慎平

 このたび文学研究科の倫理学研究室に着任しました助教の岡本慎平です。イギリス哲学史から倫理学理論、ロボットや宇宙開発などの先端テクノロジーの倫理問題まで、倫理学を多面的に研究しています。

 趣味もいろいろあるのですが、最近は1980年代から90年代のコンピュータゲームを集めています。ファミコンやメガドライブなどのゲームコンソール用ソフトであれば実機も互換機も容易に手に入るのでプレイしやすいのですが、問題はパソコンソフト、特にその記録メディアです。3.5インチのフロッピーディスクであれば3モードFDDさえあれば普通に読めるのでいいのですが、5インチFDやカセットテープになるとデータを再生するだけで一苦労です。たとえデータをうまく読み取れても、ゲームを起動するにはもうひと手間かかったりします(例えばバッチファイルを作ったり)。

 それに対して、当時の「ゲーム雑誌」は現物を入手するだけで内容を読めるので気が楽です。磁気ディスクのような「破損してデータが読み取れなくなるのでは…」という恐怖も(ないとは言いませんが)少ないですからね。こういうとき、現物さえあれば読める「書物」というものが、いかに頑強なメディアだったのかと実感します。

 とはいえ、最近は書物の電子化も進んでいます。かつては海外にある大図書館の奥深くに潜らないと拝むことすら出来なかった数百年前の印刷物が、googleで簡単に検索するだけで読めるようになりました。新刊本についても、私自身、漫画や新書はkindleでしか購入しなくなって久しいです。とはいえ、レトロゲームの起動に四苦八苦する私と同じように電子書籍に苦しむ人が将来現れるのではないか、と懸念を抱く時があります。数十年後・数百年後の趣味人が「くそっ、このファイルに読みたい情報が入っているのに、開くための技術が失われていて読めない!」と嘆かなくても済むような、そんな技術発展であってほしいと願っています。

○総合人間学講座 比較日本文化学分野助教 劉 金鵬

 2月に文学研究科総合人間学講座に着任しました。劉金鵬(リュウキンホウ)と申します。お世話になります。

 私の出身地は、中国東北の吉林省にある「樺甸」という小さい町です。SARSが流行した2003年ころに大学入試を経験し、北京でもあんまりキャンパス所在地が知られていない外交学院に進学しました。大学卒業後広島大学へ留学を決意し、数えれば11年目の広島生活になりました。

 比較日本文化学を専攻し、専門分野の違いにとらわれない環境で研究を続けてきました。多くの留学生と同様に、日本に来た最初の頃は、はっきりとした研究目標を持っていませんでした。いまの研究対象である竹内好と出会ったのも、授業のテキストでした。一つの偶然でもありますが、繰り返して読んでもなかなか意味が分からなかった竹内好の文章はなぜか魅力的に感じました。

 大学院に進学した2007年ころには、竹内好(たけうちよしみ)研究の一つのブームがありました。中国社会科学院の孫歌先生の研究がブームの火付け役となり、日本と中国、またドイツでも竹内好に関するシンポジウムが開かれました。中国で竹内好が注目されたのは、「火中の栗を拾う」という竹内好の思想家としての姿勢が解明され、またその思想の根源は魯迅文学にあるとされたからであります。また、脱構築の視点から、西洋近代に対する敗北へ抵抗することによって近代化の主体性を獲得できるという竹内好の論説も再検討されました。一方、東アジア共同体論の台頭も、竹内好が議論される一つのきっかけであり、戦後においてはじめてアジア主義の問題を提起した彼の考え方は重要視されました。私は「心情としてのアジア」をキーワードとして竹内好のアジア論を検討し、戦後日本知識人のアジア論を考察しています。

 今後もさらに研究を磨き上げ、竹内好の世界を解明するとともに、東アジアにおける「アジア的心情」の意味を広島大学から発信していきたいと願っています。どうぞよろしくお願いします。

2.集中講義「総合人間学」レポート

 大学院博士課程前期の最初の講義は集中講義「総合人間学」です。
今年度は4月7・8日の両日、八人の講師による「東アジアから人文学を考える」という共通のテーマで集中講義が行われました。受講生の中から二人の学生の感想を掲載いたします。

■「総合人間学」を受けて 思想文化学講座倫理学専攻 多賀谷 誠

 この集中講義は、文学研究科で伝統的に行われているもので、文学研究科の先生方の講義を受講し討論が行われ、その後自身の指導教員以外のグループへ参加し報告を行うというものです。講義の狙いは、他専攻の教員及び院生と交流し学問に対し、広い視野を持つこと、また関心を持つことにありました。日本人院生に対し留学生(この語がいつまで適切であるかはわかりませんが)が圧倒的に多い中で、日本語を用いた一連の集中講義では、学問が国籍、国境を越えて行われることを再確認できました。今年度は呉叡人先生の講演が行われましたが、先生と国籍を同じくする台湾の方がいない中で、あの90分間は非常に刺激的であり、受講生が共有した時間は非常に価値あるもの、と感じました。

■「総合人間学」体験記 歴史文化学講座日本史学専攻 邊見聖

 一度に多くの分野の研究について触れたのは今回の「総合人間学」が初めてであった。情報の整理が追いつかなくなることもあったが、非常に刺激的な機会であった。そのなかで感じたのは、他分野の研究を知ることは自身の見方を深めることになる、ということである。各分野で内容はもちろん研究の手法など異なる点は多いが、専門以外の研究について知っていれば、一つの課題に対し多様なアプローチを可能としてくれ、また、それは研究以外の、たとえば自分が社会に出たときに活きる力なのではないかと考えている。そのためにも、今後も他分野との交流を継続したいと感じた授業であった。

集中講義「総合人間学」
集中講義「総合人間学」

 

 

 4月24日には「総合人間学」特別講義“呉叡人さん講演会”が開催されました。総合人間学講座准教授中村平先生のレポートで後援会の模様をお伝えします。

呉叡人さん講演会「帝国のはざまに:台湾における国家形成と民主主義」

 文学研究科の修士課程は4月上旬に行われる「総合人間学」講義に始まりますが、今年度もその一環として、外国人研究者による特別講義が4月24日に行われました。7回目を数える今回は、台湾の中央研究院台湾史研究所の呉叡人さんをお招きし、標記のタイトルでお話しいただきました。

 諸帝国の断片としてコロニアルな歴史をくぐり抜けてきた台湾におけるナショナリズムと国家形成、民主主義の発展という大きなテーマについて、呉さんは1時間程度の時間に濃縮してお話されました。19世紀中葉以降、出身地別に持たれていた漢民族のアイデンティティーが台湾大のものに収斂(しゅうれん)していったこと、日本統治下における台湾ナショナリズムの台頭、国民党統治とその後に外省人の土着化と台湾社会への融合が見られたことなどが、歴史的経緯についての柱でした。

 こうした移民や入植者の土着化と、詳しくは省略しますが社会の統合と国家制度の累積という、三つの歴史的プロセスが、1990年代以降の民主化と本土化の流れに合流し深化し、現代台湾という国家形態を作り上げたという趣旨だったかと思います。

 講義の後半は参加者との質疑と議論でしたが、日本の参加者からは日本の民主化やSEALDsを含めた学生運動、日本ナショナリズムの問題、中国からの留学生からは中国のそれについての質問も出ました。呉さんも前半の講演のトーンから情熱的に若い参加者に語りかけるモードになって、会場は次第に熱気を帯びていきました。参加者には中国からの多くの留学生もおり、コーディネーターとして私は、彼ら彼女らからの緊張感も耳にしていました。しかし、呉さんのお話と討議に対する積極的な姿勢は、そうした参加者にも日本の聴衆にも、何らかの痕跡を残したのではないかと思えるような力を持ったものだったと感じました。
今回の講演会にとどまらず、台湾については引き続き様々に議論を継続していきたいと思っております。

【呉叡人さんの講紹介】
台湾中央研究院台湾史研究所 副研究員
シカゴ大学博士(政治学)
研究領域:比較政治(比較民族主義、帝国主義、植民主義と族群政治)、政治理論(民主理論、民族主義、ポストコロニアリズム、西洋政治思想史)、アジアにおける民族主義研究、台湾政治史、台湾政治思想史、日本近現代政治史、日本近現代政治思想史。
博士論文:Wu, Rwei-ren. 2003, “The Formosan Ideology: Oriental Colonialism and the Rise of Taiwanese Nationalism, 1895-1945,” University of Chicago.
・「黒潮論 : 台湾ナショナリズムとヒマワリ運動の歴史的・政治経済的分析」駒込 武 [訳]『思想』(1110), 2016年
・『受困的思想:臺灣重返世界』台北:衛城、2016年

呉叡人さん講演会

講演する呉叡人さん

3.文学部オリエンテーションキャンプレポート

○就学相談室 大野英志(欧米文学語学・言語学講座准教授)

 今年度の「新入生オリエンテーションキャンプ(オリキャン)」はゴールデンウィーク最後の5月5日・6日の2日間に「国立山口徳地青少年自然の家」で行われました。参加者は、新入生128人、新入生歓迎行事実行委員会スタッフ学生159名(2年次生115人、3年次生41人、4年次生3人)、そして教職員8名でした。私は、就学相談室員として、学生時代以来30年ぶりに参加しました。

 初日の企画「スタンツ」では各班が出し物をしました。300人近くを前に演技をする新入生の度胸もさることながら、聴衆の異常なまでの盛り上がりぶりには圧倒されました。

 さて、30年前と比べてみますと、オリキャンの意味は大きく変わっているようです。一班5,6人に学生リーダー1人で、夜は宮島のキャンプ場に張ったテントの前でキャンドルを囲み、班員の前で一人一人が自分の専攻(当時は入学時に専攻は確定していました)に来た経緯や将来の夢を語り、気持ちを新たにしたことを記憶しています。

 昨今のオリキャンでは上述のように、新入生を上回る数のスタッフ学生が半年前から準備を重ね、精一杯後輩を歓迎します。その強い気持ちが、彼らのキビキビとした動きやキャンプファイヤーでの演舞によく表れていました。こうして横と同時に縦の繋がりを築くことで、専攻が決まるまでの1年次生の不安は大きく軽減されることでしょう。また、これを支えに、この学部でやりたい学問の準備を着々と進めてほしいと思います。

○オリエンテーション実行委員会 四方佑京(日本・中国文学語学コース/日本文学分野3年)

 文学部では毎年、年度始めに新入生歓迎行事として「オリエンテーションキャンプ(通称「オリキャン」)」を行っています。今年は5月5・6日に新入生と2・3年生、文学部の教職員を含めた約300名で「国立山口徳地青少年自然の家」へ行き、親睦を深めるための様々なイベントを学生が主体となって行いました。

 オリキャンは新入生による班ごとの出し物から始まり、その明るく元気な姿もあって、笑顔溢れる素敵な時間となりました。夜は外で学生全員でキャンプファイヤーを囲ってダンスを踊り、楽しい時間を過ごしました。1日目の最後に行う各班の班長からの一言では、約半年にわたる準備期間を経て本番を迎えた班長たちの熱い言葉に会場中が感動に包まれました。

 2日目は徳地の自然を感じながらポイントを回るオリエンテーリングの予定でしたが、あいにくの天候で、室内での班対抗のゲーム大会となりました。しかし、学年問わず参加できる様々なゲームを行い、徳地での最後のイベントを全員で楽しむことができました。新入生にとっても2・3年生にとっても、学部を共にする多くの仲間との有意義な時間になったことと思います。

 新入生にとってオリキャンは、大学で初めての仲間と出会う大きな機会となります。またそれだけでなく、新入生が前向きな気持ちで楽しく大学生活を始められるように、オリキャンでは先輩による専攻紹介や履修登録のサポート、班ごとでの宮島・尾道への遠足など様々なイベントを企画しています。

 もちろん、オリキャンが大学生活の全てではありませんが、オリキャンを通じた仲間や先輩との出会いをこれから先も大切にし、充実した大学生活を送ってほしいと思います。

 最後になりますが、私たちが今回のキャンプを最後までやり遂げることができたのは多くの方々の助けや協力があってこそでした。オリキャンを影で支えてくださった教職員の方々をはじめ、参加してくれた新入生、運営に携わってくれた学生スタッフなどオリキャンに関わる全ての方々に感謝申し上げます。
 多くの学生に、学年を超えた仲間との出会いの場と今しかできない経験の場を与えてくれるオリキャンのますますの発展を、オリキャン実行委員一同心より願っています。

文学部オリエンテーションキャンプ
文学部オリエンテーションキャンプ

5.文学研究科(文学部)ニュース

○文学研究科の長内綾乃さんが「言の葉大賞」優秀賞(大学生部門)を受賞しました。
詳しくは、文学研究科HPをご覧ください。

○文学研究科ロビーの展示替えをしました。
今回の展示テーマは「欧米文学語学・言語学研究と辞書」
詳しくは、文学研究科HPをご覧ください。

6.広報・社会連携委員会より【広報・社会連携委員会委員長 宮川朗子】

 2018年度初めての「リテラ友の会・メールマガジン」をお届けします。
 今年度より、広報・社会連携委員会委員長を拝命し、このメールマガジンを担当させていただくことになりました宮川です。
文学研究科には、素晴らしい研究業績を挙げられる先生方や学業や研究の成果が世に認められる学生さんが、多々いらっしゃいます。そういった文学研究科の「宝」をこのメールマガジンや研究科のHPを通して、発信してゆけたらと思っております。
次号も、4月より着任された先生方のご紹介や、「ニュース」の欄で「言の葉大賞」優秀賞受賞のお知らせをした長内綾乃さんの受賞記など、盛りだくさんの話題をお届けしますので、どうぞお楽しみに。

////////////////////////////

リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  久保田 啓一
編集長:広報・社会連携委員長  宮川 朗子
発行:広報・社会連携委員会

広島大学大学院文学研究科・文学部に関するご意見・ご要望、
メールマガジンへのご意見、配信中止・配信先変更についてのご連絡は
下記にお願いいたします。
広島大学大学院文学研究科 情報企画室
電話 (082)424-4395
FAX (082)424-0315
電子メール bunkoho@hiroshima-u.ac.jp

バック・ナンバーはこちらでご覧いただくことができます。

////////////////////////////


up