メールマガジン No.95(2020年 1月号)

メールマガジン No.95(2020年1月号)
リテラ友の会 メールマガジン No.95(2020年1月号) 2020/1/28

□□目次□□
1.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ
2.広島大学公開講座2019レポート
3.リテラ「21世紀の人文学」講座2019 を終えて
4.第17回「文藝学校」レポート
5.ドイツ語弁論大会入賞報告
6.文学研究科(文学部)ニュース
7.広報・社会連携委員会より

1.文学研究科(文学部)新任教員あいさつ

文学研究科では、昨年9、10月に2人の教員が着任いたしました。おふたりの自己紹介をお届けいたします。

○総合人間学講座比較日本文化学准教授 キツニック ・ラウリ

  令和元年9月に総合人間学講座に着任しましたキツニック ・ラウリと申します。

  私は主に日本映画を研究対象にしてきました。博士論文「シナリオ文化—日本映画における歴史学研究法および観客性の再考—」のなかでは、まず、脚本家の「作家」としての位置を考察した上で、こういった「シナリオ作家」の概念が、しばしば映画監督の貢献と並び日本映画史にいかに影響を与えていたかを検討しました。また、この脚本家の役割への関心が寄せられ続けたのは、シナリオが一般読者に広く入手可能であったからです。同時に、こうした特有のインターメディア・スキルを身につけたシナリオリーダーのために、シナリオを映画文化の一中心に置き、世界でも類を見ない豊かな映画雑誌や全集の大規模な出版活動が見られました。さらに、このように発表され、消費されたシナリオは、銀幕で映画を鑑賞する経験を補完すると同時に、出現しつつある日本映画カノンへの反論の可能性も提示しています。こうした問題範囲は、日本映画、殊にその1950年代のいわゆる第二黄金時代の全体像をより良く掴むためには非常に重要だと思っています。

  今後は、『原爆の子』、『裸の島』、『鬼婆』など日本映画の名作を残した、独立プロダクションの先駆者でもあった、広島生まれの新藤兼人の仕事を中心に研究していきたいと思います。犯罪、貧困、病気、差別などという社会的問題につねに直面した新藤の作品は、20世紀後半に急速な政治的および社会的な変化を経験した日本を特徴づける問題を取り上げる装置としての映画の適性を解明するために優れた事例だと信じていますから。また、その仕事を把握するために、新藤の監督作品のみならず、他の映画監督に提供した多数の脚本及び日本映画史編纂への貢献を検討する必要があります。特に、新藤が発表した映像と著作に豊富に表示されている「仕事」の概念に焦点を当て、その多様な実践的および理論的な応用を検討したいと思っています。この長く温めていた研究計画は、やっと新藤の故郷にあたる広島で実現させられるのは大きな喜びです。今後ともご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします。

○日本・中国文学語学講座日本文学語学分野助教 ダルミ・カタリン

 はじめまして。昨年10月に日本・中国文学語学講座に着任しましたダルミ・カタリンと申します。ハンガリー出身なので、名前は日本人の名前と同じ順番で、姓・名となっています。専門は日本近現代文学研究です。

 日本の文化と文学に高校時代から興味があり、大学では日本語と日本文化(いわゆる「日本学」)を専攻しながら、副専攻としてロシア語とロシア文学を学びました。読書が子供の時から大好きで、文学研究に対して高校生の頃から興味を持っていたので、卒業論文のテーマとしては、当時ハンガリーで流行し始めていた村上春樹の小説を選びました。そして、その物語世界にすっかり魅了されてしまい、ハンガリーで修士課程を修了後、広島大学に留学し、博士課程に進学することを決意しました。

  博士論文では、欧米と日本/アジアにおける村上春樹文学の受容にみられる差を出発点とし、村上春樹文学と「魔術的リアリズム」の関係について研究しました。もともとラテンアメリカ文学の研究領域で知られている「魔術的リアリズム」は、欧米ではより広い意味で用いられており、村上春樹文学について語る際にもよく目にする表現です。一方で、日本では村上春樹の文学を「魔術的リアリズム」と関連づけて語ることは非常に少なく、「魔術的リアリズム」という用語自体が、日本文学研究においてはあまり知られていません。さて、このような視点の差は何に由来するのでしょうか。「魔術的リアリズム」、また、「村上春樹文学における魔術的リアリズム」とは何でしょうか。これまでの研究においては主に、これらの問いへの回答を探ってきました。

 今後は村上春樹文学と「魔術的リアリズム」の研究を続けるとともに、ハンガリーにおける日本文学の受容のほか、女性作家を中心に、日本現代文学における子供に対する虐待表象の研究など、さらに視野を広げていきたいと思います。そして、日本文学研究の楽しさを、学生さんにも伝えることができたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

2.広島大学公開講座2019レポート【欧米文学語学・言語学講座教授 宮川朗子】

  去る11月30日、12月7日、12月14日の3日間にわたって、広島大学公開講座2019「ヨーロッパ文学の世界を味わおう」が、サテライトキャンパスひろしま(広島県民文化センター)にて開催されました。この講座は、欧米文学語学・言語学講座のスタッフが担当し、44名の市民の方々が受講されました。

  まず、初日はドイツ文学の世界について、古川昌文先生が「エンデの『モモ』と経済グローバリズム」について、次いで小林英起子先生が「18世紀ドイツ演劇における道化と召使」について講義しました。

  二日目は、イギリス文学の世界で、大野英志先生が「ジェフリー・チョーサーの文学作品とその言語」について、次に、吉中孝志先生が「お墓とイギリス文学」について講義しました。

  三日目は、フランス文学の世界で、マリ=ノエル・ボーヴィウ先生が「俳句と短歌から生まれた20世紀のフランスの詩」について、最後に筆者が「ゾラ『ボヌール・デ・ダム百貨店』の現代性」について講義しました。

 受講者の方々は、60代以上が7割以上と、比較的ご年配の方が多かったせいか、どの講座も穏やかに終えることができました。また、講座に対するアンケートで、講師の説明については、「とてもわかりやすかった」が35.3%、「どちらかと言えばわかりやすかった」が58.8%、講座の内容は期待通りで参考になったかという質問には、「強くそう思う」が20.6%、「そう思う」が70.6%と、概ね好評をいただきました。

 ヨーロッパ文学の世界は、文化の違う私たちの日常生活に密接に結びついているとは言いがたいかもしれませんが、休日にもかかわらず熱心に受講してくださる市民の方々がいらっしゃることは、筆者にとっては、専門の研究や教育を続けてゆく上での、大きな励みになりました。

古川昌文助教
「エンデの『モモ』と経済グローバリズム」

小林英起子教授
「18世紀ドイツ演劇における道化と召使」

大野英志准教授
「ジェフリー・チョーサーの文学作品とその言語」

吉中孝志教授
「お墓とイギリス文学」

マリ=ノエル・ボーヴィウ准教授
「俳句と短歌から生まれた20世紀のフランスの詩」

宮川朗子教授
「ゾラ『ボヌール・デ・ダム百貨店』の現代性」

3.リテラ「21世紀の人文学」講座2019 を終えて【歴史文化学講座教授 中山富廣】

 令和元年度の「21世紀の人文学」は12月7日(土)の午後、ウェンディひと・まちプラザ(まちづくり市民交流プラザ)で開催されました。受講料750円にもかかわらず100名以上の市民の方々が聴講してくださいました。これは浅野氏入城400年記念事業の一環として設定されたものでした。

 ここでこのイベントに言及するのはお門違いですが、まあ、何とも盛り上がりに欠けた記念事業であったか。広島市の各部局がてんでバラバラに展示会やら講演会などを実施した感はまぬがれず、夕方の各局のワイドショーなどで宣伝されたのでしょうか(この時間帯ほとんどテレビを見ないのでわかりませんが)。時代行列や入城行列などもあったそうですが、中国新聞を購読していないので、まったく知りませんでした。これでは浅野の殿様もイベントのあり方にはご不満でしょうと忖度せざるをえません。じゃあ、お前はイベントにふさわしい話をしたのかと問われると、「すみません」のひと言でしょう。なにせ「上は暗君、下はすべて利欲者どもばかり」という調子でしたから(でも私は天明期~化政期の藩政を評価しています)。

 すみません。前置きが長くなってしまいました。本題に戻ります。当日のテーマは「広島藩の文化水準 私論」で、前半に私が「浅野家家中考」、後半に久保田先生が「浅野家の文芸と儒者の関わりー寺田臨川から頼家一族へー」という題目で講演しました。久保田先生は、18世紀前半の藩主浅野吉長の侍読寺田臨川(1678~1744)がいかに素晴らしい仕事をしたかをわかりやすく話してくれました。しかしなぜ後世に評価されなかったのか、ここではその理由は書きませんが、聴衆の皆さん、ウンウンと納得していました。久保田先生曰く、「今でもいるでしょう、自己アピールに長けた学者たちが。江戸時代にもいたのです。」と。それは荻生徂徠や本居宣長‥‥。思わずひっくり返りそうになりましたが、納得です。実は頼家一族の仕事は、一通り臨川によって原型となるようなことががおこなわれていたのです。自己の売り出しに長けた頼一族によって、臨川は忘れ去られたのではないか(あ、書いてしまった)。その他にも興味深いエピソードが紹介されましたが、字数も尽きたので割愛させていただきます。

 最後に、時間もなかったので、質問タイムは設けませんでしたが、終わってから個別に質問が殺到し、プラザを出たのは5時をかなり過ぎてからでした。文学研究科支援室の方々には最後までお手伝いいただき御礼申し上げます。

久保田啓一教授
「浅野家の文芸と儒者の関わりー寺田臨川から頼家一族へー」

中山富廣教授
「浅野家家中考」

4.第17回「文藝学校」レポート【歴史文化学講座教授 前野弘志】

 令和元年の「文藝学校」は、例年の夏とは異なり、冬の12月7日(土)に開催されました。今年のテーマは「人文学は、暖かい。」で、場所は変わらず、米子市「本の学校」今井ブックセンター2階・研修室でした。参加者数は約15人で、進学相談に来られた方は、残念ながら0人でした。受験生にとっては追い込みの時期なので、致し方ないことでしょう。

 講演は4本で、 順番に、①今林修(欧米文学語学・言語学講座、教授)(10:40~11:40)「クリスマスには『クリスマス・キャロル』を読もう」、②前野弘志(歴史文化学講座、教授)(11:50~12:50)「レバノン南部の都市ティール郊外の壁画地下墓T.01とその碑文」、昼休みを挟んで、③妹尾好信(日本・中国文学語学講座、教授)(13:40~14:40)「『伊勢物語』第23段「筒井筒」を読む」、④河西英通(広島大学名誉教授・森戸国際高等教育学院、特任教授)(14:50~15:50)「『ライ麦畑でつかまえて』の後景―翻訳者野崎孝の青春―」でした。

  私以外のみなさんは、馴染み深い書物を取り上げられ、それぞれの作者や翻訳者の生き様や時代背景に踏み込み、それぞれの書物をより深く読み解くための切り口を披露されましたが、私はといえば、実は去年に続いて2回目の参加なのですが、ちなみに去年の講演題目は「古代地中海世界における呪詛文化」でして、今年も続いて「文藝学校」の名にふさわしくない内容となり、なんとも恐縮です。しかし文学部には、いわゆる「文学」だけを研究している人ばかりではなく、こんな変な奴もいるんだ、ということが分かっていただけたなら、それはそれでいいかなと思います。

「文藝学校」には常連さんが来られます。私の話にも、ウンウンとうなずきながら聞いていただいたのが何より嬉しかったです。また普段は拝聴することのない同僚の先生方の講演の内容やスタイルを知ることができ、大いに勉強になりました。さらに講演後のブックセンターの方々との懇親会、その後の反省会(!?)も、「文藝学校」に参加することの楽しみの一つです。人文学を通して年の瀬に暖かい一日が過ごせたことに感謝です。

今林 修教授
「クリスマスには『クリスマス・キャロル』を読もう」

前野弘志教授
「レバノン南部の都市ティール郊外の壁画地下墓T.01とその碑文」

妹尾好信教授
『伊勢物語』第23段「筒井筒」を読む」

河西英通特任教授
(広島大学名誉教授・森戸国際高等教育学院)
「『ライ麦畑でつかまえて』の後景―翻訳者野崎孝の青春―」

5.ドイツ語弁論大会入賞報告【文学部2年 廣石 卓】

  12月7日土曜日、京都外国語大学で行われたドイツ語弁論大会に出場し、6位入賞をさせていただいた文学部欧米文学語学・言語学コースドイツ文学語学分野2年の廣石卓です。広島の原爆ドームのこと、世界平和をテーマにスピーチをさせていただきました。

  大会出場にあたってたくさんの方に支えていただきました。先生方に何度もスピーチ原稿の手直しをいただき、自分の意見を正確に伝えられる文章をつくることができました。そのおかげで自信をもって大会に臨めました。お世話になった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
元々、人前で話すことが好きなタイプでしたので本番では緊張せずに話すことができました。審査員の方、そして同じ出場者の顔をみて、しっかりと自分の言いたいこと、伝えたいことを、心を込めてスピーチできました。質疑応答の場面でも動揺することなく、落ち着いて答えることができたと思います。

  また、大会後の懇親会ではたくさんの大会出場者、関係者とお話をする機会があり、私のこれからのドイツ語を学ぶ意欲が大会前より格段に増えました。皆同じ環境でドイツ語に親しんでいるわけではなく、人それぞれの形があることが分かり、私にとってとても良い刺激になりました。

  来年度も、もし機会があればもっと上の順位に向かって挑戦したいと思います。そのために、ドイツ語能力ももちろんですが社会問題に関心を向けることも大切だと分かりました。

受賞式の様子

6.文学研究科(文学部)ニュース

○「古文書を見る会」を開催します
【 日 時 】2020年2月6日(木) 13時30分~16時30分
【 会 場 】文学部棟1階 大会議室(東広島キャンパス)

          ※ 詳細は文学研究科HPをご覧ください。

○令和元年度広島大学学位記授与式(卒業式)を開催します
【日時】2020年3月23日(月) 11時開式 (12時頃終了予定)
【場所】東広島運動公園体育館

          ※ 詳細は広島大学HPをご覧ください。

○令和元年度広島大学入学式を開催します
【日時】2020年4月3日(金) 11時開式 (12時頃終了予定)
【場所】東広島運動公園体育館

          ※ 詳細は広島大学HPをご覧ください。

7.広報・社会連携委員会より【広報・社会連携委員会委員 根本裕史】

 メールマガジン95号をお届けいたします。
 今回は、新たに着任されたキツニック ・ラウリ先生、ダルミ・カタリン先生のご紹介に加え、ヨーロッパ文学の世界を題材とする公開講座、広島藩浅野家を題材とするリテラ「21世紀の人文学」講座、「人文学は、暖かい。」と題する文藝学校の報告、ドイツ語弁論大会入賞の報告、と盛り沢山の内容となりました。
 2020年は作曲家ベートーヴェン生誕250周年の年です。かつてヴィルヘルム・バックハウスは「神々しい作曲家」としてベートーヴェンの名を挙げました。私たちが日常生活の中で「神々しい」という感覚を抱くことがどれだけあるでしょうか。ベートーヴェンの音楽を聴きながら、神々しい古典の言葉に向き合い、充実した一年を過ごすことができればと思います。
 では、次号もご期待下さい。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  久保田 啓一
編集長:広報・社会連携委員長  宮川 朗子
発行:広報・社会連携委員会

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