メールマガジン No.96(2020年3月号)

メールマガジン No.96(2020年3月号)
リテラ友の会 メールマガジン  No.96(2020年3月号) 2020/3/24

□□目次□□
1.「古文書を見る会」レポート
2.内海文化研究施設 第47回季例会・公開講演会レポート
3.2019年度卒業論文優秀者発表会レポート
4.留学生作文コンクール入賞報告
5.文学研究科(文学部)ニュース
6.広報・社会連携委員会より

1.日本史学研究室主催「古文書を見る会」レポート 【日本史学専攻3年 北條まいこ】

 文学研究科の「猪熊文書」のほか、日本史学研究室で購入した様々な古文書を学内外の方に公開する「古文書を見る会」が毎年2月に開催されており、今年度の本会に古文書係として携わらせていただきました。これまでの観る立場としてではなく、運営する立場としてこの催しに参加するのは初めての事でした。

  過去の「古文書を見る会」の運営に関するデータや資料を参照しながら、私を含めた古文書係4人で開催に向けて様々な準備を行いました。普段の講義や演習でも古文書を見る機会はありますが、原文書をガラスケースなしで直接見ることはあまりなく、とても貴重な機会です。今回展示した古文書の中でも、秀吉や家光の文書のほか、今川義元、氏真の判物などの東国の戦国大名の文書は毛利氏など西国の戦国大名の発給文書とはまた違った特徴が見られます。さらに、女房奉書などの女性が書いた文書や室町幕府奉行人の連署奉書や下知状なども展示しておりました。

  今回の見る会でも古文書の大きさや紙の質、墨の濃淡、花押、折り目など、原文書でしかわからない情報を観察することができ、私自身も非常に勉強になったと感じています。しかし同時に、準備の途中で自分の知識不足であると感じた場面もあったため、これからはさらに学習の機会を自分から積極的に作り、多くのことを学んでいきたいと思いました。

  当日には多くの方にお越しいただき、今年度の「古文書を見る会」も無事終えることができました。お力添えやお気遣いいただいた日本史学コースの先生、諸先輩方、古文書係メンバーなど多くの方には感謝の気持ちでいっぱいです。

  「古文書を見る会」は毎年行っておりますので、今回見逃した方も来年ぜひとも足をお運びください。

公開の様子

今川義元判物 天文21年(1552)12月

内海文化研究施設 第47回季例会・公開講演会レポート【日本・中国文学語学講座教授 妹尾好信】

 3月10日の午後、文学部の建物内に時ならぬ雅楽の笛の音が響きわたりました。
 内海文化研究施設が主催する第47回季例会・公開講演会「嚴島神社の舞楽と音楽」において、講師を務められた嚴島神社の禰宜福田道憲さんが、神社に伝わる舞楽の歴史や雅楽の特色などについてお話をして下さった後、同行された3名の神職さんが雅楽器の演奏を披露して下さったのです。

 嚴島神社の神職さんは舞楽の舞人でもあり、雅楽の演奏者でもあります。今回は、竜笛(りゅうてき・横笛)担当の鈴木寿宗(としむね)さん、篳篥(ひちりき・縦笛)担当の永田匡明(まさあき)さん、笙(しょう)担当の須磨啓照(ひろあき)さんが、それぞれご愛用の楽器を持参して下さいました。西洋音楽とは全く違う譜面の一部を配布資料に示されて、唱歌(しょうが)を交えながら、各楽器の奏法と音色を披露して下さったのです。40名ほどの聴衆はみな興味津々で耳を傾けたり、スマホで撮影したりしていました。

 嚴島神社の舞楽や雅楽は、本来神前で神様に向かって演ずるものなので、このような場で一般の人々の前で演奏するのは極めて異例なのだそうです。今回の講演会がいかに貴重な場であったかがわかります。

 演奏の最後は、有名な舞楽「蘭陵王」の曲をフルコーラス合奏して下さいました。古代中国・北斉の王の武勲を讃えた勇壮な舞で、次第にアップテンポになると、会場は大いに盛り上がりました。新型コロナウイルスによる感染症で騒がしい中での開催でしたが、神職さんたちの演奏の力と嚴島大明神の御加護でウイルスは退散しただろうと思います。

 なお、会場には、広島大学の植物遺伝子実験施設で栽培されている「キクタニギク」を材料として、学術・社会連携室の田中圭子さんが調合した薫物「菊花」が薫かれ、かぐわしい香りがただよっていました。これも広島大学の文理融合の研究成果の披露ということになります。ご協力下さった実験施設の中野道治さん、ありがとうございました。

 そして何より、嚴島神社からいらして下さった福田さんをはじめとする4人の神職の皆様、快く派遣を許して下さった嚴島神社の宮司様に厚く御礼申し上げます。

嚴島神社 禰宜・福田道憲さん

会場の様子

竜笛担当の鈴木寿宗さん

篳篥(ひちりき)担当の永田匡明さん

笙(しょう)担当の須磨啓照さん

雅楽器の演奏

3.2019年度卒業論文優秀者発表会レポート

   2月14日(金)「2019年度卒業論文優秀者による発表会」が開催されました。発表者の中から2人の卒業論文の要旨を紹介いたします。また、指導教員からのコメントも併せて紹介いたします。

「荒木田麗女『桃の園生』論」
日本・中国文学語学コース(日本文学語学専攻) 中尾 祥子
 卒業論文では、荒木田(あらきだ)麗女(れいじょ)(1732年~1806年)による『桃(もも)の園生(そのう)』という作品を扱い、中心人物である頭中将と左中弁の和歌がそれぞれに与えられた歌風によって詠み分けられているかどうかを考察しました。

 この作品は、頭中将と左中弁という対照的な二人の男性が、いくつかの困難を乗り越えて出世する話で、和歌が多く詠み込まれていることや、二人に「今様」と「古体」の歌風が割り当てられていることなどから、和歌が作品における重要な位置を占めています。

 和歌の詠み分けは、頭中将と左中弁の和歌三十四首の各句の用例を、『新編国歌大観』と『近世和歌撰集集成』に収められている歌集のうち、作品が成立した一七七四年より前に成立した歌集と、『類題和歌集』(1703年成立)から収集し、用例を多く含む歌集の成立年代に偏りがあるかどうかで判断しました。その結果、用例を百以上含む歌集が、頭中将の場合、『類題和歌集』と『題林愚抄』、『夫木和歌抄』、『歌枕名寄』の四つに、左中弁の場合、頭中将の結果に『万葉集』と『古今和歌六帖』が加わった六つになり、左中弁の方が、用例を百以上含む歌集の成立年代が古く、和歌が詠み分けられていることが分かりました。

 また、用例を四百以上含む『万葉集』や『類題和歌集』を始めとして、麗女が所有していたか、少なくとも参照した可能性がある歌集も特定できました。

 大学院では、作品成立時の伊勢歌壇の状況を調べることで、麗女の意図を探るとともに、麗女の他作品や他作家との比較を行いたいと考えています。

【指導教員コメント 久保田啓一教授】
 中尾祥子さんの卒業論文「荒木田麗女『桃の園生』論」は、近世中期の伊勢で活動した荒木田麗女の擬古物語『桃の園生』を、人物論・表現論・典拠論を援用しつつ分析したものです。辛うじて翻刻が提供されているに過ぎない作品をきちんと注釈しつつ読み込み、そこから論を展開するのは容易なことではないのですが、中尾さんはそれを見事やってのけました。

  特に優れているのは、二人の主要人物の和歌の典拠を調査して、麗女が二人の和歌の読みわけを意識しつつ言葉を探った過程を、依拠した歌集の特定という形で実証した点です。

  私は学問の基礎に実証を置く立場を堅持していますが、中尾さんの仕事は十分な説得力を持つ実証性に裏打ちされています。ここで得られた基本的な方法は、今後の研究においても有効であろうと思います。中尾さんは4月から大学院人間社会科学研究科博士課程前期の第1期生の一人となります。学問がどのような形で結実するかを是非見てみたいと私は念じています。

「アミ語の能動態マーカーに関する考察ー接頭辞mi-の機能を中心にー」
欧米文学語学・言語学コース(言語学専攻) 郭 逸軒

  アミ語とは、東台湾を主な居住地とする原住民族アミ族が使用する、オーストロネシア語族に属する言語です。消滅の危機にあるアミ語の研究は台湾文化の保存には必要不可欠だと考え、この研究を着手することを決めました。

  オーストロネシア語族における態(ヴォイス)とは、接辞によって主語の意味役割(行為者や被動者など)が示される現象と言われ、アミ語の態(能動態と受動態)は基本的に語根に付加する接辞(ヴォイスマーカー)によって標示されます。本論文は、アミ語において主にヴォイスを標示する機能が重視されてきた能動態マーカーmi-の本質に疑問を投げかけ、他の機能をもつ可能性を調査するという新たな試みです。
 
  この研究では幾つかの先行研究の観点を総合的に考え、接頭辞mi-が[+他動性]と[+意志性]の二つの意味素性をもつことを前提とし、更に大きく「屈折的機能」(ヴォイスの標示)と「派生的機能」(語根の動詞化)という2つの枝に分かれるという仮説を立てました。更に呉明義による『阿美族語辭典』(2013)を調査対象とし、抽出データを「mi-+動詞語根」と「mi-+名詞語根」の二つのパターンに分けて考察し、仮説の検証を行いました。

  その結果、接頭辞mi-の屈折的機能は全ての能動態マーカーに共通していますが、派生的機能に関しては、mi-は付加可能なあらゆる語根(動詞語根と名詞語根)に対して二つの意味素性[+他動性]と[+意志性]を付与し、そして「行為者が意識的に行い、かつ句の深層構造において1つ以上の対象(被動者や場所)を要求する動作」という意味を与える機能をもつと分かりました。

  本論文はアミ語のヴォイスシステムを解明するための第一歩を踏み出すことができましたが、今後はmi-以外のヴォイスマーカーに注目した記述的研究も必要だと考えられます。

【指導教員コメント 上野貴史准教授】
 台湾からの留学生である郭逸軒さんは、日本人と間違うくらい流暢に日本語を話すことからも、高い言語的能力を持っている学生と言えます。

 今回の卒業論文においては、オーストロネシア語族に属する台湾のネイティブ言語であるアミ語を取り上げました。オーストロネシア語族の言語は、語基に接辞を付加することにより動詞化したり、ヴォイスを標示したりするという特徴を持ちます。今回の卒業論文では、アミ語における動作主態マーカーであるmi-の素性に関して、これまでの学説をしっかりと検証した上で、大量のデータを緻密に分析することにより、独自の仮説を形態統語論の枠内で見事に立証しました。科学的学問である言語学においてお手本とも言える論考であったと思います。
  これからもその感性と能力を生かし、元気にご活躍されることを期待しております。

中尾祥子さん

郭 逸軒さん

4.留学生作文コンクール入賞報告【日本・中国文学語学コース(中国語学専攻 池田詩貴)】

  私は3年次、中国の北京師範大学漢語文化学院に一年間留学していました。留学中に書いた作文が中国教育部の外国人留学生作文大会で三等賞をいただき、昨年12月20日金曜日、中国北京で行われた表彰式に参加してきました。優秀な作文を集めた本も出版され、新書公開式も同時に行われました。多くのメディアが集まり、中国語や英語で記事にされました。

  この大会は中国国家レベルのもので、中国全土80余りの学校から670篇以上の作文の投稿がありました。特に今回は中国建国70周年と重なったこともあり、大会が盛大に行われました。

  私は、中国留学中に参加していた現地大学の剣道部の練習の時に感じた仲間への感謝の気持ちを込めて作文を書きました。この作文を書くにあたってたくさんの方の支えがありました。中国人の友人や先生に何度も作文を手直ししていただき、自分の考えを正確に表現できる文章を作ることができました。

  表彰式には自国の民族衣装での参加が求められたので、私は着物で参加しました。たくさんの人に作文や着物を褒めていただき、母国である日本のこともより誇りに思えました。

  日本は私が生まれた故郷で、中国は私を成長させてくれた第二の故郷だと考えています。これからも周囲の人や環境への感謝を忘れず中国語を学び続け、中国と関わっていきたいです。そしてそれが日中友好の架け橋の一端となれれば、この上なく嬉しい限りです。

表彰式での池田詩貴さん

外国人留学生作文大会三等賞の賞状

5.文学研究科(文学部)ニュース

○文学研究科は2020年4月から再編のため、名称が変わります。
大学院人間社会科学研究科 人文社会科学専攻 人文学プログラムになります。

詳しくはこちらのHPをご覧ください。

6.広報・社会連携委員会より【広報・社会連携委員会委員長 宮川朗子】

  今年度最後のメルマガをお届けします。
  現在、世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、戸惑うことばかりの毎日ですが、皆様はご無事でお過ごしでしょうか?この一連の騒動の中、フランスのノーベル賞作家アルベール・カミュが1947年に発表した『ペスト』が再び話題となっているようです。この小説で描かれた、ペストに対峙するさまざまな人間の行動や、ペストがもたらした社会の変化などには、非常に考えさせられるところが多いと思います。家にいる時間が長い時期でもあるので、『ペスト』を読んでみてはいかがでしょうか。

  さて今回は、新型コロナウイルスの問題が顕著になる前後の時期でしたが、予定されていた行事が遂行され、かつ、参加された方々の貴重な機会になったことは、嬉しいニュースでした。学内外に示された学生さんたちの優秀な成績は頼もしい限りですし、古文書を見る会や内海文化研究会の報告からは、広島大学文学研究科でなければできない活動を知ることができると思います。今後も、このような独自の活動がますます盛んになり、世に発信されて行くことを願ってやみません。

  最後になりましたが、2年間、広報・社会連携委員長としてこのメルマガの編集長も務めさせていただきました。甚だ頼りない編集長で、同僚の委員や支援室の方々には助けてもらうばかりでした。この場を借りてお礼申し上げます。4月からは、もっと頼れる委員長に交代いたしますので、メルマガもこれまで以上に充実したものとなると思います。どうぞご期待ください。


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