大学院先進理工系科学研究科 XING WENJING さん

取材日:2022年12月9日

先進理工系科学研究科のXING WENJINGさんにお話を伺いました。
XINGさんは、広島大学女性科学技術フェローシップ制度の支援を受け、令和4年9月末に博士課程後期を2年半で早期修了されました。現在は、広島大学先進理工系科学研究科のポスドク研究員として勤務されています。
今回は、XINGさんに、博士課程後期で実施した研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。
(記載の情報は取材時点のものです。)

博士課程後期の研究テーマについて 

XINGさんの研究内容について教えてください!

私は火力発電用ガスタービン燃焼器における液体燃料の微粒化に関する研究を行っています。液体燃料の微粒化というのは液体燃料を細かい液滴にすることです。
現在日本のガスタービン火力発電はほとんど天然ガスを燃料としていますが、海外では石油も多く用いられています。その実機ガスタービンでは液体燃料を液柱状にして燃焼室に噴射しています。そして、その液柱状の燃料は、横風の作用で分裂して、リガメント(細長く紐状になっているもの)と液滴になっています。しかし、こうしたリガメントと粗い液滴は燃焼によくありません。
そこで、液体燃料を噴射して燃やす際に、空気を一緒に混ぜて噴射することで、燃料液滴を細かく噴出する、シンプルな構造の二流体噴射弁を提案して、一連の研究を行ってきました。燃料液滴を細かくすることで、燃焼を安定化させることができます。

燃料が霧吹きの霧のような状態になることをイメージすればよいのでしょうか?

はい、そのような細かな霧のようになるのが理想です。

この技術を使うと、CO2の排出も減らすこともできるのでしょうか?

はい、燃料効率がよくなりますので、結果的に割合としては大きくはないのですが、CO2の排出を減らすことができます。また、大気環境を汚す物質である、すすやCO、NOxを減らすこともできます。ただ、具体的に何割程度減らせるのかはこれからの課題です。

この技術はどのような用途に応用可能なんでしょうか?

ガスタービンは主に火力発電所や航空機などに使われています。自動車やバイクなどには、構造上応用することはなかなか難しいです。自家用発電機や船などには応用可能ではないかと思います。一方、私の研究している二流体微粒化技術はボイラーなどにも使われていますが、ボイラーで使われる燃料は粘度が高いため、燃料噴射弁は構造が複雑になるものと考えられます。

どうして液体微粒化というテーマを選択されたのですか?

直接のきっかけは、私が博士課程前期に入学した時、研究室に来訪された企業の方がガスタービンにおける液体微粒化の課題を話され、指導教官からそのテーマを勧められたことです。
実機のガスタービン燃焼器では、軽質油が使われていますが、私の実験機器では軽質油の代わりに水を使って実験しています。実験を開始した当初、水が膨らんでバルーンのようになり、それらが周期的に発生し連なる現象を見つけました。私達が毎日使っている水にそんな面白い現象が起こるとは、全く考えもしませんでした。そして、次々と面白い現象が見つかり、私は「これが私の研究テーマになる」と確信しました。

水を使って実験をしているとのことですが、燃料油と水では性質がかなり変わってきませんか?

はい。変わってきます。ただ、基本的な現象に関しては水であっても大体は同じであることや、大量に燃料油を使うことは設備的に厳しいので、まずは水を使って実験しています。燃料油の種類によっても変わってくると思うので研究を行う必要があります。

二流体噴射弁は、他の大学等の研究機関においても積極的に研究されている分野なのでしょうか?

はい。三菱重工業の方がこちらに研究をされに来たこともありますし、神戸大学でも二流体噴射弁の研究が行われています。ただ、神戸大学のものと私が研究していたものとはその仕組みなどに違いがあります。海外では、韓国や米国などでも研究されています。

液体のみの噴射と二流体噴射の噴流の挙動の違い

実験を行うXINGさん

博士課程後期への進学について

XINGさんが広島大学の博士課程後期に進学するまでの経緯を教えていただけますか?

私の故郷は中国の内モンゴルです。地元の高校を卒業し、内モンゴル工業大学に進学しました。この頃から、私は日本に強い関心を抱き始め、どうしても日本に行きたくなり、「卒業後に日本に行こう」と決心しました。来日してすぐは、まず本格的に日本語を学ぶため、東京の日本語学校に通いました。もちろんアルバイトをしながらです。日本語を修得した後の進路はなかなか決まらず、先が見えないことで不安に過ごした時期もありましたが、試行錯誤している時、幸運にも広島大学の大学院に進む、という道が開けました。

なぜ、日本の数ある大学の中でも広島大学を選ばれたのですか?

やはり広島大学は有名な大学であることが大きいです。また、実家の近所に住んでいた友人が先に広島大学に進学していたため、心強かったことも大きいです。

実際に日本に来てみて、来日前にイメージしていたとおりの印象でしたか?

先に日本に留学していた周りの人たちから、日本人の生活は忙しいと聞いていました。実際に来日してみると、やはり授業が終わったらすぐバイトに行かなければならないなど、とても忙しかったです。内モンゴルではみんなゆったりした生活を送っていて、学校でもお昼寝の時間があったのですが、日本に来てからは全然昼寝ができていないです。

日本の学校に進学するとき、家族や友人達から反対されたりしませんでしたか?

初めての海外ですので、家族は心配しましたが、「行きたいと思っているなら行ってみなさい」と応援してくれました。友人からは、他にも日本に留学していた人が多くいましたので、特に反対されるようなことはありませんでした。周りには、日本の企業に就職した人もたくさんいますよ。

研究においては、日本語と英語のうち、どちらを使う機会が多いのでしょうか?

両方使います。研究室でのゼミ発表では、英語ができる人は英語で、日本語が得意な人は日本語で発表しています。私は日本語で発表するようにしています。

研究室の雰囲気はいかがですか?

みんなでよくご飯に行ったりします。みんな優しいです。

広島大学に進学してよかったと思うことはありますか?

広島大学は、他大学に比べて留学生の人数が多く、サポート体制も整っているため、留学しやすい大学だと思います。初めて広島大学に来たときには、1人では何をすればよいのか分かりませんでしたが、研究室の先輩学生が留学生サポーターとして支援してくれたため、とても安心できました。私自身ものちに3人ほどの留学生を、留学生サポーターとして支援しました。

逆に、もっとサポートがあればいいのにと感じた点はありますか?

留学生が気軽に日本語を学べる授業や教室を学内に増やしてほしいと思います。私自身は日本語学校に通ってから広島大学に来ましたが、周りの他の留学生は日本語が分からないまま入学する人も多いです。日本語ができないと、市役所での手続きや買い物等で困ることがあるかもしれません。日本語でのコミュニケーションが取れるようになると、生活がしやすくなると思います。

将来のキャリアパスについて

XINGさんは博士課程後期を早期修了されたのですね。

はい、私の場合は、博士課程前期から博士課程後期まで一貫して同一テーマでしたので、2年半の期間で早期修了することができました。ちょうど予備審査の頃に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で、広島大学のポスドク研究員のポストがあることを知り、応募したところ採用いただけたので、現在は先進理工系科学研究科の研究員として勤務しています。

現在はどのような研究を行なっていますか?

NEDO事業の一環で、舶用水素エンジンの研究に携っています。博士論文のテーマとは違うのですが、私にとっては新鮮で面白いです。自身の研究者の幅を広げることができればと思い、積極的に取り組んでいます。

将来的にはどのようなキャリアパスを目指していますか?

アカデミックの世界で生きていくこと、具体的には大学の教員になることを目指しており、現在その準備をしています。自分の研究室を持って、学生達と一緒にユニークな研究成果を出せるよう、一生懸命頑張りたいです。留学生についてもたくさん受け入れ指導をしたいですね。また、私の所属する機械工学の分野は他分野に比べて女性が少ないため、女性の博士人材をたくさん育てたいという想いもあります。

日本では理工系に進学する女性が少ないですが、どうすれば女性が理工系に進学しやすくなると思いますか?

知り合いや周りにそのような女性がいることが一番だと思います。私自身、知り合いが広島大学の理工系に進学していたため、自分も目指してみようと思えたのです。
また、女性の理工系教員の数を増やすことも大切だと思います。女性の教員がいることで、女性学生も「自分も理工系の研究者になれるかも」と思いやすいと思います。加えて、理工系を卒業した女性の進路について情報発信することも必要だと思います。広島大学の理工系を卒業した女性が社会で活躍しているモデルを示せればいいと思います。

博士課程後期を目指す学生へのメッセージ

最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!

私は博士課程前期から現在の研究を始めましたが、当時は、研究内容についてあまり理解できずに苦労しました。しかし、博士課程後期に進学するという目標・夢があったので、一生懸命に努力しました。そして、博士課程に進学後1年ほど経過したとき、自分が非常に成長したことを実感できるようになり、自信もついてきました。
この経験を通じて学んだことが2つあります。

1.どんなことでも少しずつ工夫しながら何回も繰り返してやればだんだんと理解が深くなり、上手にできるようになること。

2.簡単に諦めないこと。例えば、実験がどうしてもうまくいかない時は多くありますが、そんなときには、しっかりと休んで頭を切り替えることが大事です。しっかりと休んだ後に、また試してみると、意外と成功することも多かったです。

将来の進路を模索する時期は不安や辛いこともあると思いますが、一生懸命に努力することで道は拓けると思うので、ぜひ頑張っていただければと思います。
私自身、この先の将来については正直心配な事もありますが、「自分が選んだ道は正しい。結果的に正解になるはずだ」と信じて努力を続けたいと思っています。

取材者感想

「内モンゴルからいらっしゃったのに日本語が堪能で、博士課程後期も早期修了されたと伺い、非常に優秀な方だという印象を受けました。このような方が日本で活躍し、日本の研究力を底上げしていただけることを願っています。また、研究のことについても文系で素人の私にも丁寧に詳しく説明していただき、非常に助かりました。」(法学部法学科3年・岩橋明さん)

「XINGさんは研究職や女性などに対するご自身の考えをしっかりとお持ちでした。また取材をさせていただく中で、ご自身の将来のビジョンを持ちながらも新しいことにもチャレンジするという前向きな姿勢が素敵だと感じました。『どんなことでも少しずつ、諦めずに工夫し続ければできるようになる』というお言葉が印象的で、非常に勇気づけられました。」(総合科学部総合科学科4年・近藤妃奈乃さん)

XINGさんの研究室にて(左から、近藤さん、XINGさん、岩橋さん)


up