福田 竜也(M1)

先進理工系科学研究科 量子物質科学プログラム-博士課程前期1年(2023年4月時点)

派遣先:グリフィス大学 量子動力学センター
派遣国:オーストラリア
派遣期間:2024.3.7~2024.5.11

1) 派遣国について

 オーストラリアはとても暑く、短パンでサングラスをかけている人が結構います。また、ブリズベン市内はかなり発展していて、大きなビルがいくつも並んでいる都会という印象でした。街を少し歩くだけでもあちこちに電動キックボードが設置されており、道端にはカラスの代わりに見たことないキジのような鳥がいたりなど、日本では見られなかった違いが感じられて面白かったです。
 また、日本文化に対しては割と友好的な印象を受けました。スーパーでSushiが売られていたり、ユニクロに日本コーナーがあって葛飾北斎の富嶽三十六景がプリントされたTシャツが売られていたり、研究室に「抹茶」を持ってきたメンバーがいて、飲み方を教えてくれと言われたときもありました。

 

2)現地での生活や文化について

 食べ物に関しては、研究室メンバーにおすすめされたWoolworthsというスーパーでよく買い物をしていたのですが、初めて訪れた時は日本のスーパーで売っているものと大きさが全然違っていて驚きました。例えば、アイスのほとんどが1kgサイズで売ってあったり、鶏肉も1羽丸ごと売っていたりすることもあります。また、農業国なだけあって野菜や果物はとても安く美味しかったので、研究室からの帰り道でよくマンゴーやぶどうを買って帰っていました。
 ブリズベン市内はビルが多いですが、バスや車で30分ぐらい離れたところに行くと、自然豊かなところが多く、様々な観光名所があります。週末には研究室のメンバーとゴールドコーストのビーチに行って泳いだり、自然保護区でコアラやカンガルーと戯れていました。
 

3) 派遣先について

派遣先の研究メンバーはオーストラリアだけでなく、メキシコ、アメリカ、インド、イタリアのように様々な国籍の人が集まっていて、みんなとてもフレンドリーで優しく接してくれました。また、人によって英語の発音に母国語の訛りがあったり、お昼に持ってきた弁当にそれぞれの国の個性が現れていて面白いと思いました。見たことがない食べ物については、よく味見させてもらっていて各国の本場の味や食文化の違いを実際に体験できたと思います。

派遣先の研究室ではスカッシュ(壁を使った3次元テニスのようなスポーツ)の経験者がいて、毎週水曜日の夕方はメンバーと一緒にプレイしていました。テニスの経験はあったのですがカッシュは初めてで、日本では見たことすらなかったのでとても貴重な体験だったと思います。最初はボールを狙ったところに打ち返すことすら難しくベテランにボコボコにされていましたが、何回かプレイしているうちにコツを掴んで、たまに勝つことができた時は嬉しかったです。

 研究だけでなく、様々な人との交流を通して各国の文化の違いを感じたり、新しいことにチャレンジできる多くの機会も得ることができたと思います。

4)研修内容について

 量子力学にはエンタングルメントといって、2つの量子(光子や電子など)の間で強い相関を示す現象があります。僕の研修内容は相関を持った光子対を生成するためのセットアップを組み立てることでした。

 派遣されてから1週間ぐらいは論文を読んだり、周りの人に聞いてセットアップを理解し、2週目以降はドクターの学生と協力しながら実験室でソースの立ち上げをしていたという感じです。実験で使う光学素子はある程度取り扱った経験がありましたが、グリフィスの実験室は広島大学の実験室の3倍くらい巨大で、中には初めて取り扱う設備などもありました。特に、超伝導ナノワイヤー単一光子検出機という世界でも有数の超高性能な検出機があるのですが、それを実際に使って実験ができたのはとても貴重な経験になったと思います。

 ソースの立ち上げでは、光学素子や光子対を生成するための結晶に対して真っ直ぐレーザー光を入射することが、光子の生成効率を上げるためにとても重要となるのですが、そのためのレーザー光の角度の調整が一番大変でした。イメージとしては、裁縫する時の針穴に糸を通す作業の100倍ぐらい難しい感じです。1日中やっても光子の検出数が毎秒100個いかない時もあり、心が折れかけた時もありましたが、研究室メンバーやスーパーバイザーのアドバイスもあって、最終的に自力で毎秒8000~10000個生成できるようになった時はとても嬉しく、研究室メンバーと喜びを分かち合いました。
 

5) このインターンで一番得たもの

 多くの人との繋がりを通じて、新しいことにチャレンジしてきた「経験」です。見たことがない場所を訪れてみたり、カンガルーとコアラをどうしても見たかったので自然保護区に行く計画を自分から立ててメンバーを誘ってみたりなど、新しいことに挑戦するには想像以上の勇気が必要ですが、達成できた時に得られた経験は人生の中でかなり大きなものになったと思います。
 また、新しいことを挑戦する上で人との繋がりは重要になったと思います。道に迷ったり実験で上手くいかないことがあっても、1人で抱え込まずに周りと相談し助けてもらうことで、解決の糸口を見つけることに繋がったと思います。

 派遣の最終日には、今までのお礼として研究室メンバーに、オーストラリアで手に入れた真っ白な扇子にペンでそれぞれ日本語を書いてプレゼントしました。扇子には「非局所相関」という強い繋がりを意味する量子力学の専門用語や、実験のプロには「達人」と書いたりしました。特に僕のスーパーバイザーには「師匠」と書いて「これはスターウォーズのマスターの意味と同じだ」と言ったらとても喜んでいたのを覚えています。

 帰る直前で特に仲の良かったメンバーから2ヶ月間の思い出の写真やオーストラリアのお菓子やキーホルダー、あとベジマイトをお土産としてもらい、「偉大な物理学者になれ」と言われた時は嬉しかったです。
 あっという間の2ヶ月でしたが、多くの方と繋がりを通して様々なことに挑戦したことで、充実したオーストラリア生活を送ることができたと思います。
 

6) インターン経験を今後どのように生かしていきたいですか?

 この経験を通したことで、新しいことに積極的にチャレンジしたり、何かトラブルが起きても動揺せずに対処することができるようになったと思います。また、研修で身につけた世界最先端の単一光子生成技術や知識を生かして、今後の自身の研究をより改善することに繋げていきたいです。

 僕は今、ドクターに進学することを考えているため、今後は国際学会に参加し発表するという機会が出てくると思います。1人で見知らぬ土地を訪れ、海外の研究者と交流するような状況でも、今回得た経験や知識があることで、どんなトラブルがあろうが落ち着いて乗り越えていけるのではないかと感じています。
 

 

7) 後輩へのメッセージ

 海外に行くと予期せぬトラブルが何度も起こります。実際、バスを乗り間違えたことで道に迷うということが何回かありました。そんな時、勇気を出して周りの人に聞いたり、研究室メンバーに電話して助けてもらうことで何とか生きて帰れました。
 
 困った時は、拙い英語でも勇気を出して聞いてみる、そうすることで今後の人生でどんなトラブルが起きても乗り越えることでき、様々なことにチャレンジできるのではないかと思います。


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