派遣先:グリフィス大学 量子動力学センター
派遣国:オーストラリア
派遣期間:2023.9.20~2023.11.25
先進理工系科学研究科 量子物質科学プログラム-博士課程前期1年(2023年4月時点)

1) 派遣国について
ブリスベンはオーストラリア第三の都市で都市と自然がうまく調和した街です。中心地は高層ビルやショッピングモールが立ち並んでいるのに対し、少し中心地から離れると住宅街があり、ビーチに行くこともできます。大学のキャンパスでは野生のコアラを見かけたことがあったし、観光で行ったノースストラドブロク島では野生のカンガルーを見ることもできました。主な交通手段は車かバスか電車で、人口も230万人程度なので、街の規模感で言うとちょうど広島県と同じぐらいだと思います。
治安は比較的よく、財布や物を盗まれるなどの事件に巻き込まれることはありませんでした。しかし、宿泊施設がブリスベンの中心地にあったので、パトカーの音は頻繁に聞いていたし、土日にはデモが行われることもあり大使館から注意のメールが届くことがありました。
街中や宿泊施設ではアジア人を見かけることが多く、現地の人に日本人であると伝えると漫画や日本の観光地について話が盛り上がることが多かったので、日本に親しみを感じる人が多いように感じました。僕よりも日本のアニメに詳しい人や、毎週ワンピースの最新話を読んでいる人もいて、日本の文化が世界に広がっていることを実感できました。

2)現地での生活や文化について
派遣期間の9月~11月は春~初夏にあたり、気温は20℃~30℃程度でした。オーストラリアは日差しが強い分日焼けには注意が必要ですが、日本ほど湿度が高くないので気温が高い日でも日陰に入ると涼しくとても過ごしやすいです。
オーストラリアでは様々な国の文化が共存していて、いろいろな国からの人や文化に触れる機会が多くありました。宿泊先のルームメイトはアジア圏5か国からの留学生がいたし、研究機関にもイタリア、インド、メキシコ、コロンビアなど世界各国から研究者が集まっていました。何人かで会話する場面では、それぞれが自分の母国語の訛りの英語で話しており、僕の発音や文法について何か指摘されるというようなことは一度もありませんでした。日本人の英語はよくサムライイングリッシュと呼ばれますが、それはむしろアイデンティティで、ネイティブのように話そうとは思わないで堂々と喋ってみるということが大切だと分かりました。
オーストラリアでは様々な国の料理が楽しめたので、現地で行ったレストランの料理を紹介します。世界中から集まった本格的・伝統的なお店ばかりで、日本ではあまり食べたことのなかった国の料理にも挑戦し、食を通じて様々な文化に触れることができました。
研究室のメンバーに休日誘われて出かけることも多く、一番の思い出は中心部から電車とフェリーで一時間半程度かけて行ったノースストラドブロク島です。野生のカンガルーや、木々の影響で水が赤くなっているブラウンレイク、美しいビーチなど日本にはないオーストラリアの大自然を感じることができました。

3) 派遣先について
派遣先のグリフィス大学、量子動力学センターでは、量子力学の基礎的な研究から量子情報などの応用的な研究まで、量子力学に関する理論的・実験的な研究が幅広く行われています。今回お世話になった量子光学・量子情報研究室では、光を使った光学実験を通して量子力学の基礎を明らかにするための研究を行っていて、僕が所属する広島大学の研究室も同じような手法で研究を行っています。
研究グループのメンバーは10名ほどで、施設全体にも日本人のメンバーはいませんでしたが、様々な国から研究者が集まり活発な議論が行われていました。毎週水曜日のお昼にはメンバー全員で大学のレストランにご飯を食べに行ったり、昼食の後には必ずコーヒーを飲んで雑談したりするなど、日本の研究室との文化の違いを感じました。
4)研修内容について
派遣先では、平日は大体9時~17時の8時間は研究に取り組む決まりがあったので、毎日30分バスで通学しながら研究室でのメンバーとの議論や実験に打ち込みました。具体的な研修内容としては、「空間光変調器と回折格子を用いたパルスレーザーのスペクトル整形」です。派遣先の研究室が始めようとしていた大きなプロジェクトの最初の技術的な部分が今回の研究テーマにあたり、実験に必要な空間光変調器という機器が段ボールで届いたところからのスタートでした。
光学機器の取り扱いに関する経験はある程度ありましたが、空間光変調器を使用するのは今回が初めてです。かなり精密で高性能な実験機器ということもあり、立ち上げや動作原理の理解には苦労しました。さらに、実験機器の制御のためにプログラムのコードを書く必要があったので、こちらも全くの未経験でしたが、メンバーに助言をもらいながらなんとかプログラムを完成させました。そして、最終的には目的のスペクトル整形をするための実験セットアップを完成させ、狙った波長のビームを取り出す波長フィルターとしての性能を評価することができました。
研修中は初めての実験機器を取り扱ったり、未経験のプログラミングを学んだり、予備実験のため何度も実験セットアップを組み直したりと大変なことがたくさんありましたが、何度もメンバーに相談をして目標を達成することができました。とても充実した研究生活を送れたと思います。
帰国の数日前、毎週水曜日に行われているグループミーティングで研修中に行った内容と成果を研究室のメンバーに向けて発表する機会を頂きました。特に緊張することもなく落ち着いて話せたので、何のために何をして、どのような結果を得たのかということをしっかり伝えることができたと思います。
発表の後、特に仲の良かったメンバー2人がサプライズでインターン中の思い出を振り返るスライドを準備してくれていて、本当に素敵な人達に出会うことができました。

5) このインターンで一番得たもの
決められた期間、慣れない環境の中、初めて取り組む課題でもなんとかして成し遂げるという経験が一番大きかったと思います。
インターンシップに行く前は英語や日々の生活、人間関係など不安なことが多く、現地でどんな風に過ごしているか想像もつきませんでした。そんな状況からのスタートでしたが、2か月という限られた期間でしっかりと研究成果を出すという大きな目標は常に見失わないようにしていました。
おかげでそのために必要な英語や現地での生活の慣れなど、多少の壁を乗り越えるとことができたと同時に、初めて扱う実験機器やプログラミングに対しても、周りの力を大いに借りながら習得することができました。
最終的には研究の目標を達成し、プライベートも充実させることができたので、内容としては100点だったと思います。

6) インターン経験を今後どのように生かしていきたいですか?
このインターン経験を通して、慣れない初めての状況でも目標を見失わずにやり遂げるという僕自身の強みを得ることができました。これは今後僕が人生で何か新しいことにチャレンジする時、大きな自信になり助けてくれると確信しています。
また、今回初めて海外で生活してみて、人生でもう一度海外で生活してみたい、グローバルに活躍したいという思いが強まったので、今後の人生における選択に影響を与えてくれると思います。

7) 未来の派遣学生に向けて、事前準備や注意点などあれば
2か月間という短い期間で研究をやり切るために、研究内容やわからない事は何でも派遣先としっかり話し合って準備しておくといいと思います。僕自身、現地に行ってから実験機器の勉強をしたり論文を読んだりということで少し時間をとられてしまったので、事前に日本でできる準備はやっておくべきだと思いました。
G.eboプログラムは広島大学のインターンシッププログラムの1つではありますが、生活の準備や派遣先とのやり取り、研修内容の決定まで、ほぼすべてが派遣学生に委ねられているので、研修が充実したものになるかどうかは全て自分次第だという意識が大切です。
8) 後輩へのメッセージ
事前の英語や研修内容の準備は大切ですが、いざ現地に行ってみると大変なことや困難には必ず遭遇します。そんな時、思い悩むよりも、なんとかなるだろうと楽観的でいられると案外乗り越えていけると思います。
