松本助教(第2期)(広島大学大学院医系科学研究科)がサンガレンシンポジウム(開催地: スイス・サンガレン大学)に参加しました

松本助教が、スイスのサンガレン大学で開催された、サンガレンシンポジウムに参加しました。

サンガレンシンポジウムは、1970年から続くスイスで最も古い歴史ある国際シンポジウムであり、スピーカーとして、IMF専務理事や世界銀行総裁、ノーベル賞受賞者、国家や世界的企業のトップなどが参加しています。
「Leaders of Tomorrow」と呼ばれる30歳以下の参加者は、エッセイ応募者と推薦から選出されます。
松本助教は、今年度5月5日 - 5月6日に開催された第51回シンポジウムに、「Leaders of Tomorrow」として推薦枠より選出され、参加しました。

シンポジウム参加レポート

 5/5-6に行われた51st St. Gallen Symposiumに参加した。このシンポジウムでは、現在社会において活躍している経営者や政治家、研究者といった様々な分野の専門家が参加し、一つのテーマに関して議論を行う。私は30歳以下のLeaders of Tomorrow(以下LoT)としてこのシンポジウムに参加させていただいた。このLoTは世界中から200名の学生や会社員、起業家、研究者が参加していた。私のように推薦をしていただき、招待していただいた100名と、テーマに関するエッセイを書き、選抜された100名からなる。LoTのメンバーは5/3-4において特別なワークショッププログラムが用意され、議論を交した。この体験記では、LoTプログラムも含めた4日間のSt. Gallenでの体験を共有したい。

 一日目(5/3)はSt. GallenからBaselへとマイクロバスで移動し、製薬企業であるNovartisを見学した。Novartisのキャンパスを案内してもらい、その広さとキャンパス内で国境を越えるという体験に驚いた。また、従業員の方からの創薬とAIの活用に関する講義と質疑応答を行った。データをいかに取得し、バイアスなく応用できるプログラムを組めるかという部分が課題になりそうだと感じた。Novartisの見学の後は2時間ほどBaselの観光時間があり、市役所などを見て回った。

 二日目(5/4)はSt. Gallen大学においてワークショップを行った。スポンサーであるABB, accenture, Swiss Reの3社から、企業説明と課題が与えられ、その課題に対する解決策を5-6人のグループで議論した。私たちのグループはABB社における「ロボットの利用をいかに社会に浸透させていくか」という課題に取り組んだ。異なる国籍、学術的背景を持つ学生さんとの議論は非常に学びが多く、ドラえもんのようなアニメの影響でロボットに対して好意的な印象を持つ日本と海外のロボットの印象の違いなど興味深いことも多かった。午後には100名のエッセイによる選抜者の中から更に選抜された9名のエッセイに関してグループを分け、そのエッセイのテーマについての議論を行った。私はインドにおける教育カリキュラムの改善についてのアイデアが書かれたエッセイのグループに割り振られた。インドでの教育カリキュラムにおける老朽化とそれをどのように刷新していくかという点について、よく練られたエッセイであり、日本における今日の教育問題と同じ課題を感じた。ジェネラリストとスペシャリストのバランスをどのように取るのか、そしてスペシャリストとしての才能をどのように見つけていくのか、大学教員として今後の日本の教育について考えるきっかけとなった。

Leaders of Tomorrow参加者
(左: 宇宙開発技術に関する機械工学を専門とするNathalie(メキシコ)、
中央: 松本、右: グリーン輸送に関するデータサイエンスを専門とするManiza(アメリカ))とDrei Weierenにて

Leaders of Tomorrow Dayでのオープニング前の会場の様子

 三日目(5/5)はシンポジウムの初日であり、前日までのLoT 200名に加えてヨーロッパを中心とした企業や大学教員、行政などで活躍する800名が加わった。朝には盛大なオープニングセレモニーが催され、セレモニーの中では、カナダのトルドー大統領による祝辞もあり、このシンポジウムにおける世界各国の期待度の高さが窺えた。51回目となるシンポジウムのテーマは”Collaborative Advantage”であり、昨今のウクライナとロシアにおける関係やアメリカと中国の関係など、様々な国の間における関係性、ビジネスやアカデミアといったあらゆる分野における関係性においてのCollaborative Advantageが議論された。私の中で特に印象に残っているのが、宇宙における競争と協力のバランスをどのように取るかという議論であった。昨今では、NASAやJAXAといった機関に加えて、Space Xやブルーオリジンといった民間企業も宇宙開発に乗り出している。また、ノーベル平和賞を受賞したMaria Ressa氏のセッションにおいて、協力的な社会を実現するためのジャーナリズムやメディアの在り方について考えるきっかけとなった。

 四日目(5/6)はシンポジウム最終日であり、早朝からLoTのみのトークイベントが催された。私はSchwarzman Scholarsのセッションに割り当てられ、リーダーに必要な素質は何なのかというトピックについて議論した。また、健康と健全な長寿社会の実現に向けた今後の技術や社会のあり方に関するワークショップへも参加した。このワークショップにおいて、データドリブンな医療に向けた高齢者からのデータの提供への協力をどのように推進できるかという議題のグループに割り当てられた。若者に比べると高齢者の方の方がデータを共有するということに対し、プライバシー等の観点からネガティブな印象を持つ人が多いという現状に対しての解決策を議論した。他にも、高騰する医療費をどのようにカバーしていくべきか、人工臓器の交換による長寿化を推進していくにはどのような仕組みが必要かといった、近い未来ではなく、10年、20年といった長いスパンでの起こりうる社会変化に対する議題について討論した

 この4日間は様々な分野の、そして様々な国の人達と会話をすることができ、自分の教養や知識の浅さを実感できた、非常に学びのある4日間であった。世界のトップクラスの学生さんとの会話の中で、未来に対する期待が非常に持てた一方で、日本に対する危機感も同時に感じる一週間であった。日本から参加したLoTは9名であり、そのうち女性は1人のみであった。この女性の比率の少なさは日本が顕著であり、まだまだ女性リーダーの育成に対する環境が整っていないように感じた。また、帰国時には多大な時間を要する検疫検査があり、多くの人達の時間が浪費されていた。このような経験を海外の渡航者にさせている以上、SNSを介した情報拡散により海外からの日本入国に対する印象は良くならないと考えられる。その結果、入国者はあまり見込めず、現在進行している円安などの問題に対しても海外からのインバウンドを見越した経済回復は期待できない。

1日目のバーゼル観光でのバーゼル市役所前にて

スイスを含めた他の国々のほとんどが日常に戻っており、経済的な活動も回復しつつあった。日本の変化に対する適応力の低さや自国の高齢者を守ろうとしすぎるあまり、「今」しか目に入っておらず、「未来を見据えた今」という視点をあまり感じられなかった。今後人口が減少し続ける日本において、鎖国的な考えでは経済成長が減少し続ける。そのため、海外の方を多く受け入れるか、社会を機械化していくかの選択を迫られることになるであろう。そのような中で、よりオープンに世界を捉えていくことが日本人には重要であると感じた。シンポジウムで会話した人々からの日本に対する印象は非常に良かった。しかし、それは戦後数十年の日本人の方々の努力の上に成り立つ信頼である。数十年後の日本の世界における信頼を維持していくためには、より多くの日本人が世界に出て、活躍し、日本という国をアップデートしていく必要があると感じた。今回のLoTとしての参加をきっかけに、広島大学の学生(特に女子学生)が、今後このシンポジウムに次々と参加できるよう、個人としても尽力していきたい。

 最後になるが、本シンポジウムに関わった全ての方々の多大なる尽力について述べたい。本シンポジウムは全て学生によって運営されていた。彼らの多大なる貢献のおかげで私は素晴らしい体験、経験をすることができた。さらに、多くのスポンサー企業のおかげで旅費などにおいて多大な支援をしていただいた。この体験記の場を借りて感謝の意を表したい。この中に日本企業の名前がほとんどなったのも、今後の日本の課題であるかもしれない。日本という国は高齢者への配慮が大きすぎるが故に、若者への投資の機会が少ない。サンガレン大学の学生達は、このシンポジウムの運営を通して多くのトップ企業の方々と触れ合うことで、さらに個々人の成長へのモチベーションにつなげていく。そして、成長した学生達が社会に出てから活躍し、またこのシンポジウムで次世代にその経験を伝えていく。このような流れは国の発展において非常に良いサイクルであると感じた。スイスは小国ではあるが、その中でもしっかりと若者に投資し、国の経済・社会活動発展を志そうとする姿勢は日本も見習うべきであると感じた。日本という島国において鎖国的になりがちな昨今の状況ではあるが、より多くの国籍、社会的背景を持つ人との対話が日本にも重要である。自身の今回の経験を活かし、自身の講義や研究室における教育などを工夫することによって、より世界的な視点で、大きな社会問題を解決していけるような若者の教育に携わっていきたいと強く感じた。

(広島大学 大学院医系科学研究科 助教 松本 大亮)


up