文学部への招待
文学部長
安嶋 紀昭
(文化財学)
文学部ならではの学問へのいざない
人と人との触れ合いが文化を育むのだとすれば、文学部における諸分野はその触れ合いそのもの、いわば「人間」を分析する学問と言えるでしょう。0と1だけでは尽くせない世の中にあって、言葉を基とする文学・語学・思想・歴史はもちろん、環境や遺物等も含めた有形・無形の人の営みについて、文献やフィールドワークを通して資料を集め、その行間をも読み解き、意義を考える。皆さんの生涯にわたって糧となる、その力を醸成するのが文学部です。
皆さんが広島大学に入学なさったら、私たちは皆さんを単なる学生としてではなく、一緒に文学部の学問を志す仲間としても大切にしたいと思っています。皆さんに対する教育の内容は、学界の誰かが言っていることの受け売りではなく、教員各自が自ら調べ、自ら考えるという日々の研鑽を集積した結晶です。そして、文学部の教員の学問に対する旺盛な情熱と、謙虚かつ真摯な態度もまた、皆さんに対する熱いメッセージに他なりません。大学という最高学府での学問とはいかなるものか、皆さんには私たちの背中を見てこそ知ってもらいたいのです。
さて、文学部は6コース16専門分野から構成されています。中には高校時代にめぐり逢うことのできなかった分野も含まれていますから、1年次に開講される入門科目をいくつも受講して、興味の輪を拡げてみましょう。新しい発想は、多様な知識の量と好奇心の大きさから生まれる、といっても過言ではありません。そうして、原則として2年次に進級する際にいずれかの専門分野を選択し、3年次が終わる頃までに、その分野の専門的知識や技能を、講義・演習・実習といった授業を介して着実に涵養していきます。
授業には、皆さんが主体的に関わる要素がたくさん含まれています。講義科目でも質問は大歓迎ですし、演習は皆さんが調べたことを発表したり、熱い討論を交わしたりする場です。実習には、現地でのフィールドワークを取り入れている分野もあります。学問の過程で皆さんは、「それは本当か」という疑問の壁に何度も突き当たることでしょう。大学は学び習うところではなく、問うことを学ぶ場所です。自分で情報を収集し、自分の頭脳で考える。皆さんの研鑽を荒れ狂う大海原での航海にたとえるならば、私たち文学部の教員は、最良の羅針盤となることを宣言します。そして、舵を操るのは、あなたです。
皆さんは4年次で、文学部での学問の集大成として、卒業論文執筆に取り組むことになります。時には書けない苛立ちに苦しみつつも、しかし皆さんの先輩たちがそうであったように、ついにはあなた独自の論説を立ち上げるのです。その間、就職活動や公務員試験の準備など、しなければならない事柄にも迫られますが、自分で選んだ論文のテーマはいつも頭の隅を占めていますから、書き上げた時の震えるような感動もまた皆さんのものです。それをさらに深く探究し、もっと高みに達したくて、大学院に進学する先輩たちもたくさんいます。研究テーマは、尽きることがありません。皆さん、広島大学文学部で、私たちとともに、あなた自身の才能を磨き上げようではありませんか。私たちは、皆さんの熱い問いかけを待っているのです。