プログラム長メッセージ

プログラム長

友澤 和夫
(地理学)

文学部で学ぶことの幸福

  科学技術の発展は日進月歩であり、大学にはそれを推進する使命があるのは論を俟ちません。その一方で、時代の波に流されず、人間の本質を追究する役割も大学は担っており、文学部の立ち位置はまさにそこにあります。

  文学部に入ろうとする人には、高校時代、国語や地理・歴史、倫理、英語といった科目が好き・得意で、そこに自分の純粋な知的関心を見出された方が多いものと思います。文学部は、そうした自分の興味・関心をさらに追究する場です。何かの職に必要となるスキルを身につけるための学習ではなく、自分の知的好奇心に基づく学びを深め、沸き上がってくる疑問を自ら追究し解決しようとする営みが文学部では日々行われています。

  広島大学の文学部は5コース・16専門分野から構成されています。2年次に進学する際に、いずれかの専門分野を選択し、3年次が終わる頃までに、その分野の専門的知識・技能、必要な言語を、講義や演習などを通じて学びます。昨今グローバル化が叫ばれますが、グローバル化の時代は本来的には多文化共生の時代であり、その意味でも世界の思想、文学・言語、歴史、そして地域の多元的なあり方を学べる文学部の役割は非常に重要と考えます。

  また、文学部の学びでは問題意識を持つことが常に求められます。問題意識を持つとは、常識や定説、先行研究に書かれてあること、あるいは人間社会の仕組みやあり方に対して、「なぜそうなのか」という疑問をもち、それに主体的に関わろう、本質に辿り着こうとする姿勢を持つことを指します。そして、その姿勢は4年間の集大成である卒業研究に直結します。卒業研究では問題(テーマ)を自分で設定し、それに対する答えも自分で見出さねばなりません。教員はもちろんサポートはしますが、脇役に徹するので、主役はあくまで皆さんです。この卒業研究の段階では、研究の面白さに気づき主体的に考え行動できる人が、満を持したかのように頭角を現してきます。

  皆さんは、どのような時に幸福を感じますか。良書に出会った時、人から愛された時、目標を達成した時など、様々な答えがあるでしょう。では、文学部での学びにおける幸福とは、どのようなものでしょうか。まずは、好きなこと・興味のあることに邁進・没頭できる喜びがあります。また、外国語や古文書が読めるようになった、解析や調査の技術が身につき応用できるようになったといった、学年が上がるにつれて向上する自分を感じられる幸福があります。さらに研究の段階になると、別次元の喜びを感じる時があります。難解な原著や膨大な史資料と格闘し考え抜いた末に全体の構造が見えてきた時の感覚。フィールドワークの最中に地域の方から語りかけてくるような閃きを得た時の喜び。これらは体験した者にしか分かりませんし、研究の醍醐味と言えます。皆さんには、是非とも文学部で学ぶことの幸福を味わっていただきたいと願います。


up