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【研究成果】なぜ運動すると持久力が高まるか、筋肉の仕組みを解明 -持久力UPは筋肉中でエネルギーを生み保持する分子にあった-

ポイント

  • 骨格筋で働く分子CaMKIIγ/δを欠いたマウスでは、4週間の持久力トレーニング後も走行能力が十分に高まらず、この分子が持久力向上に重要と分かりました。
  • CaMKIIγ/δが欠損すると、筋肉のエネルギーを作り出すことに関わる遺伝子の働きや、ミトコンドリアの構造・酸素消費が低下し、代謝機能が損なわれました。
  • 運動による健康効果を分子レベルで理解する手掛かりとなり、将来、加齢や疾患などによる筋機能低下の予防・治療法の開発につながる可能性があります。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科免疫学の研究グループは、運動時に筋肉で働く分子CaMKIIγ/δ(※1)が、持久力トレーニングによる筋肉の適応を支えることを示しました(図1)。
 骨格筋(※2)だけでCaMKIIγ/δを欠損させたマウスに4週間の持久力トレーニングを実施したところ、正常なマウスに比べて走行能力の向上が十分に起こりませんでした。さらに、エネルギーを生み出すミトコンドリア(※3)の構造、酸素消費、エネルギー産生に関わる遺伝子の働きも低下していました。
 これらから、CaMKIIγ/δが筋肉のエネルギーを継続して作り出し、トレーニング効果を支える重要な分子であることが示されました。将来、加齢や疾患などによる筋機能低下の予防・治療法の研究につながる可能性があります。

図1 CaMKIIγ/δが保たれた筋肉と欠損した筋肉のトレーニング適応の模式図

論文情報

 本研究成果は、2026年7月13日付で国際科学誌「Molecular Metabolism」にオンライン掲載されました。

論文タイトル:CaMKIIγ/δ contributes to mitochondrial metabolic adaptation in skeletal muscle during endurance training.

著者:塚原涼火1,†、北嶋康雄1,†,‡、市橋優花1、岩瀬輝1、大木駿2、外丸祐介3、黒﨑知博4、河野洋平1、保田朋波流1,‡

1 広島大学大学院医系科学研究科免疫学 
2 北九州市立大学環境技術研究所 
3 広島大学自然科学研究支援開発センター 
4 理化学研究所生命医科学研究センター

†共同筆頭著者、‡責任著者 

掲載誌:Molecular Metabolism 
DOI:10.1016/j.molmet.2026.102419

背景

 骨格筋は、運動を繰り返すとエネルギーの作り方を変え、長く動き続けられるように適応します。筋肉が収縮すると細胞内のカルシウム濃度が変化し、その信号を受け取るCaMKIIは運動時に活性化することが知られていました。しかし、CaMKIIが実際の持久力や筋肉のエネルギー代謝にどのように関わるかは十分に分かっていませんでした。
 そこで、骨格筋で多く働くCaMKIIγとCaMKIIδを欠損させたマウスを用い、トレーニングへの適応を調べました。

研究成果の内容

1.研究方法・手順
 骨格筋だけでCaMKIIγ/δを欠損させたマウスを作り、正常なマウスと比較しました。両群に4週間、1日30分・週5日のトレッドミル運動(※4)を行い、前後の最大走行時間を測定しました。さらに、遺伝子の働き、ミトコンドリアの形、培養筋細胞の酸素消費量を調べました。

2.今回分かったこと・従来との違い
 正常なマウスでは、4週間のトレーニングによって平均最大走行時間が約140分から約175分へ延び、約25%向上しました。一方、CaMKIIγ/δを欠損したマウスでは、トレーニング前後とも約140分で、走行能力はほとんど向上しませんでした。両者の向上の程度には統計学的に有意な差が認められ、CaMKIIγ/δが持久力トレーニングの効果を十分に引き出すために重要であることが分かりました(図2)。
 遺伝子解析では、酸素を使ったエネルギー産生や糖の分解に関わる遺伝子群の働きが、CaMKIIγ/δを欠損した筋肉で低下していました。また、電子顕微鏡による観察では内部の膜構造が乱れたミトコンドリアが増え、培養筋細胞では酸素消費量も低下しました。これらの結果から、CaMKIIγ/δはミトコンドリアの構造と働きを保ち、持久力トレーニングに必要なエネルギー代謝の適応を支えていると考えられます。

図2 トレーニングによる走行能力の変化
A:4週間の運動計画。B・C:トレーニング前後の最大走行時間と変化。
色・記号:黒:正常、桃色:CaMKII欠損。
正常マウスではトレーニング後に最大走行時間が延びた一方、CaMKII欠損マウスでは向上が十分に起こりませんでした。

今後の展開

 本研究により、CaMKIIγ/δが、運動による筋肉のエネルギー産生を活発にし、持久力の向上を支える「運動効果のスイッチ」の一つである可能性が示されました。この発見は、運動によって体力が高まる仕組みを理解し、年齢を重ねても元気に動ける体を保つ方法を考えるうえで重要な手掛かりとなります。ただし、今回の成果はマウスと培養細胞を用いた基礎研究であり、今後、同じ仕組みが人の筋肉でも働くかを確かめる必要があります。将来的には、CaMKIIγ/δの働きを利用して運動の効果をより高める方法や、加齢・病気・長期入院などで十分に運動できない人の運動能力を保つ薬やリハビリテーション法の開発につながることが期待されます。

研究助成

 本研究は、JSPS科研費(基盤研究(B)、挑戦的研究等:20H04078、21K19720、23H03271、23K27961、24K22272、26K02787)、文部科学省卓越研究員事業、中冨健康科学振興財団、小柳財団、武田科学振興財団研究助成および住友財団(研究代表者:北嶋康雄)の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、広島大学創発的次世代研究者育成・支援プログラム(HU SPRING)及び日本科学協会笹川科学研究助成(2026-6023)の支援を受けました。

用語解説

※1 CaMKIIγ/δ:筋肉の収縮で生じるカルシウムの信号を受け取り、細胞内に情報を伝えるCaMKIIという蛋白質のうち、骨格筋で多く働く2種類です。

※2 骨格筋:骨につながり、歩く・走るなど体を動かすために使う筋肉です。

※3 ミトコンドリア:細胞の中で、酸素などを使って活動に必要なエネルギーを作る小さな器官です。

※4 トレッドミル運動:ランニングマシンによる歩行や走行運動のことです。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科免疫学 准教授 北嶋 康雄(キタジマ ヤスオ)
Tel:082-257-5178 FAX:082-257-5179
E-mail:kitajima*hiroshima-u.ac.jp
 

(*は半角@に置き換えてください)


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