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【研究成果】稀な免疫不全症、活性化PI3K-delta症候群(APDS)の迅速診断法を開発 ~APDS患者の効果的な治療法の提供に貢献~

本研究成果のポイント

  • 活性化 PI3K-delta 症候群(APDS)は、2013年に報告された新しい免疫の病気で、既にわが国で30人以上の患者の存在がわかっています。
  • フローサイトメトリー(※1)を用いた、APDS(※2)の迅速診断法の確立に成功しました。
  • APDS患者では、血液中のBリンパ球(※3)でAKT(※4)のリン酸化状態が変化していることを発見しました。
  • APDS患者では、分子標的薬(PI3K阻害薬など)が有効な場合があるため、迅速かつ正確な診断のニーズが高まっています。今回開発した迅速診断法が、APDS患者の診断に役立つことが期待されます。

【用語解説】
※1:フローサイトメトリー: 細胞を懸濁させた液体を細胞が一列になるように流れる状態にし、1個1個の細胞にレーザー光を照射して分析することで、細胞の情報を測定する方法。
※2:Activated PI3Kδ syndrome(APDS): 反復呼吸感染、リンパ球減少、抗体産生障害(IgM増加、IgG低下)、EBウイルス・サイトメガロウイルスに対する易感染性を特徴とする先天的な免疫の病気。
※3:Bリンパ球:抗体産生を行い、免疫応答に関わるリンパ球。骨髄で産生される。
※4:AKT:細胞の分化、増殖などに重要な役割を果たすPI3K経路の中心的役割を果たす分子でセリン/スレオニンキナーゼと呼ばれるタンパク質のグループに属する。刺激によりAKTタンパク質にリン酸が付与されることでAKTタンパク質が活性化し、様々なタンパク質との相互作用が導かれ、その結果、細胞の機能が変化する。AKTはPI3K経路の中心的役割を果たすため、その異常は細胞が元来有する機能を変化させる場合がある。

概要

本研究で対象とする活性化PI3K-delta症候群(APDS)は先天的な免疫の病気であり、この病気を持つ患者は、気管支炎や肺炎、副鼻腔炎などの感染症を繰り返します。APDS患者では、体内に侵入した病原体を排除するリンパ球の減少や、細菌やウイルスから体を守る抗体の産生障害(IgG低下、IgM増加)があり、そのため、細菌やウイルスに容易に感染すると考えられています。さらにAPDS患者は稀に、全身のリンパ節の腫れがコントロールできず、生命の危険に脅かされることがあります。近年、分子標的治療薬(PI3K阻害薬など)が有効であることが明らかとなり、臨床に利用できる本疾患の迅速かつ正確な診断の重要性が高まっています。一方でAPDSは、別の先天的な免疫の病気[高IgM症候群(HIGM)、分類不能型免疫不全症(CVID)]と症状が類似していることから、APDSの患者がHIGMやCVIDと診断されている可能性や、あるいは、未だAPDSと診断されずに原因不明とされている場合もあります。そのため、APDSの適切な診断法の確立は、本疾患患者を正確かつ早期に同定し、診断するための有用なツールとなり、さらには、効果的な治療法の提供に結びつきます。

この度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援(難治性疾患実用化研究事業、課題名「原発性免疫不全症の診断困難例に対する新規責任遺伝子の同定と病態解析」)を受け、小林正夫(広島大学大学院医歯薬保健学研究科小児科学教授)、岡田賢(同講師)、浅野孝基(同大学院生)らの研究グループは、東京医科歯科大学、防衛医科大学、岡山大学、長崎大学、金沢大学、かずさDNA研究所との共同研究で、APDS患者の迅速診断法の開発に成功しました。本研究で我々は、APDS患者では血液中のBリンパ球でAKTのリン酸化が変化していることを発見しました。この発見に基づき、フローサイトメトリーという機器を用いてBリンパ球におけるAKTのリン酸化状態を解析することで、APDS患者を迅速に診断する方法を世界で初めて確立しました。

本研究成果は、「Frontiers in immunology」で公開されました。 

フローサイトメトリーを用いたAPDS迅速診断フローチャート

論文情報

  • 掲載雑誌: Frontiers in immunology
  • 論文題目: Enhanced AKT phosphorylation of circulating B cells in patients with activated PI3Kδ syndorome
  • 著者: Takaki Asano, Satoshi Okada, Miyuki Tsumura, Tzu-Wen Yeh, Kanako Mitsui-Sekinaka, Yuki Tsujita, Youjiro Ichinose, Akira Shimada, Kunio Hashimoto, Taizo Wada, Kohsuke Imai, Osamu Ohara, Tomohiro Morio, Shigeaki Nonoyama, Masao Kobayashi
    Corresponding Author (責任著者) 
  • doi: 10.3389/fimmu.2018.00568
【お問い合わせ先】

広島大学大学院医歯薬保健学研究科 医学講座 小児科学研究室
TEL: 082-257-5212
FAX: 082-257-5214
E-mail: sokada*hiroshima-u.ac.jp(*は半角@に置き換えてください) 

<AMED事業に関するお問い合わせ>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 難病研究課
TEL: 03-6870-2223
E-mail: nambyo-info*amed.go.jp(*は半角@に置き換えてください) 


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