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【研究成果】骨髄から抽出した細胞の一種が、間質性肺炎の治療に有効であることを発見 ~男性より女性の細胞の方が効果が高い?!~

本研究成果のポイント

  • 幹細胞の一種であるALDHbr 細胞は、いくつかのマウスの病気に有効ですが間質性肺炎に有効かどうかは研究されてきませんでした。
  • 本研究では間質性肺炎モデルマウス*1 に骨髄から抽出したALDHbr 細胞を投与することで、間質性肺炎が改善することを初めて確認しました。ALDHbr 細胞には、間質性肺炎を悪化させる“酸化ストレス*2”を減らす作用があり、この作用が間質性肺炎を改善させたものと考えられました。
  • 特筆すべきは、女性(メス)マウス骨髄から抽出したALDHbr 細胞が顕著な治療効果を示した一方で、男性(オス)マウス骨髄から抽出した細胞では同様の効果が確認されなかった点です。これは、女性の細胞が男性と比べて体内で長く生存しやすく、治療効果を発揮するための時間が確保されるためであると考えられました。本研究の成果によって、女性の骨髄ALDHbr 細胞が間質性肺炎の新たな治療につながることが期待されます。

概要

 広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学の稲田 修吾大学院生、中島 拓講師、服部 登教授らのグループは、「女性由来ALDHbr 細胞治療が間質性肺炎による線維化を抑制すること」を発見し、そのメカニズムについて新たな知見を蓄積しました。この研究成果は間質性肺炎に対する治療の発展に大きく貢献すると期待されます。
 本研究成果は、2024年9月15日に国際学術雑誌である『Stem Cell Research & Therapy』オンライン版に掲載されました。

発表論文

  • 論文名:Sex-related differences in efficacy of bone marrow-derived high aldehyde dehydrogenase activity cells against pulmonary fibrosis
  • 著者名:Shugo Inada1, Taku Nakashima1*, Takeshi Masuda1, Kiyofumi Shimoji1, Shinjiro Sakamoto1, Kakuhiro Yamaguchi1, Yasushi Horimasu1, Hiroshi Iwamoto1, Kazunori Fujitaka1, Hironobu Hamada2, Noboru Hattori1
    1:広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学
    2:広島大学大学院医系科学研究科 生体機能解析制御科学
    *:責任著者
  • 掲載雑誌名:Stem Cell Research & Therapy(Q1)
  • DOI:10.1186/s13287-024-03933-8.
    https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-024-03933-8

背景

 間質性肺炎は、たばこやアレルギーなどさまざまな原因(また、原因不明のものも少なくありません)によって肺の間質*3 に炎症が起こり、肺が線維化*4 をおこす難病です。線維化をおこして硬くなった肺は大きく拡がることができなくなり、息苦しさや血液中酸素の欠乏につながります。一般的には聞きなれない病名かもしれませんが、美空ひばりさんや星新一さん、近年では八代亜紀さんが間質性肺炎でお亡くなりになるなど、日本においても急激に死亡者数が増えてきており、その数は年間2 万人を越えてしまいました。現在は、抗線維化薬という薬を使い治療を行うことができるようになりましたが、硬くなってしまった肺を元に戻すことは難しく、新しい治療法の開発が望まれています。
 我々の身体の中では“酸化ストレス”という、身体が悪いバランスに傾いた状態になることがあります。“酸化ストレス”の影響によって体内で作られる物質の一つに「アルデヒド」という有害な物質がありますが、これを無害な物質「カルボン酸」に変換する「アルデヒド脱水素酵素高活性細胞(ALDHbr 細胞)」という細胞が骨髄の中にあり、この細胞を用いることで、“酸化ストレス”を原因とする様々な病気を治療することができることがわかってきました。しかし、間質性肺炎も“酸化ストレス”によって悪化する病気の一つですが、実際にALDHbr 細胞が間質性肺炎の治療に効果的かどうかは、まだ誰も証明していませんでした。
 そこで研究チームは、ALDHbr 細胞治療が間質性肺炎に効くかどうか検証し、ALDHbr 細胞がなぜ治療効果があるのか、また、どういう時に治療効果を発揮するか、治療に最適な条件を検討しました。

研究成果の内容

 この研究では、間質性肺炎をおこしたマウスに、ALDHbr 細胞を投与する実験を行いました。その結果、女性(メス)マウスの骨髄から抽出したALDHbr 細胞を投与したマウスでは、間質性肺炎が大幅に改善しました。一方、男性(オス)マウスから抽出したALDHbr 細胞を投与しても間質性肺炎は改善せず、治療効果には細胞の性別による違いがあることが初めて明らかとなりました。
 性別により治療効果に差が出た理由を探るため、研究チームはRNA シーケンス*4という技術を使い、解析を行いました。その結果、メスマウスの骨髄ALDHbr 細胞ではオスマウスの細胞に比べて、“酸化ストレス”を抑制するための遺伝子経路に活性化がおきていることを突き止めました。また、“酸化ストレス”を加えた環境下でも、メスマウスの細胞はオスマウスの細胞よりも多く生き残ることが実験で確認されました。さらに、ALDHbr 細胞は、肺の“酸化ストレス”を抑えることで間質性肺炎を改善していることが明らかとなりました。つまり、女性骨髄ALDHbr 細胞は男性の細胞よりも体の中で生き残りやすく、多く生き残ったALDHbr 細胞が“酸化ストレス”を軽減することで間質性肺炎を改善したものと考えられました。

今後の展開

 この研究は、世界で初めて骨髄ALDHbr 細胞を用いた細胞治療が間質性肺炎に有効であること、そして女性の細胞のほうが男性の細胞より効くことを明らかにしました。現在はまだマウス実験における研究成果ではありますが、今後はこの結果がヒトの間質性肺炎治療に応用されることや、さらには他の病気に対してもALDHbr 細胞の性別の違いに注目した新しい細胞治療の開発へと発展してゆくことが期待されます。

【参考資料】本研究の要旨

(左側)
女性(メス)マウスの骨髄ALDHbr 細胞は、“酸化ストレス”に強く、高い“酸化ストレス”環境において男性(オス)細胞よりも体の中で生き残りやすい。
(右側)
間質性肺炎では“酸化ストレス”が肺の線維化を悪化させる。多く生き残った女性ALDHbr 細胞は、肺にとどまり“酸化ストレス”を軽減することで間質性肺炎を改善した。

用語解説

*1 間質性肺炎モデルマウス:抗がん剤の一種であるブレオマイシンをマウスの肺に投与することで肺の間質に炎症を起こして作成される。

*2 酸化ストレス:生物の体内で酸素が使われるときに「活性酸素(ROS)」という酸素の仲間が作られる。活性酸素は細菌と戦う、細胞を調整する、などの良い作用もあるが、増えすぎると細胞を傷つけて病気を引き起こすなど体に悪い作用もある。この「活性酸素が増えすぎた状態」を“酸化ストレス”と呼ぶ。野菜や果物を食べる、運動をする、などが“酸化ストレス”を減らすことがわかっており、このような“酸化ストレス”を減らす作用は“抗酸化作用”と呼ばれる。

*3 間質:空気が入る肺の部屋である「肺胞」を取り囲む壁の部分のこと。

*4 線維化:臓器にコラーゲンが増えて硬くなること。肺が線維化をおこすと、肺は硬くなりふくらまなくなる。

*5 RNA シーケンス:次世代シーケンサーを用いてメッセンジャーRNA(mRNA)等の配列情報を網羅的に読み取り、遺伝子の発現量を解析する手法のこと。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学 中島 拓
Tel:082-257-5196 FAX:082-255-7360
E-mail:tnaka@hiroshima-u.ac.jp


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