広島大学大学院医科学系研究科・広島大学病院総合診療科
助教(診療講師)
宮森 大輔
Tel:082-257-5461 FAX:082-257-5461
E-mail:morimiya*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
- 新型コロナウイルス感染症流行の初期には、流行前に比べて、月次自殺率の増加がみられました。この増加は流行直前から急激に上昇しました。
- 流行直後に、定期的にかかりつけ医を受診していない人では、自殺率の明らかな増加がみられた一方で、定期的に受診していた人では、ほぼ増加はありませんでした。また、同期間中に、精神科を定期的に受診していない人では、自殺率の明らかな増加がみられた一方で、精神科を受診していた人では、ほぼ増加はありませんでした。
- 定期的な医療機関受診(かかりつけ医・精神科)は、パンデミック時の自殺リスクを抑える緩衝材の役割を果たしていた可能性が示されました。
概要
広島大学病院の宮森大輔 助教(診療講師)を中心とした研究グループは、神戸市における異状死のデータベースを用いて、新型コロナウイルス感染症流行期間中(2020~2022年)における月次自殺率の変化を分割時系列分析で検討しました。
全体の変化: 新型コロナウイルス感染症流行の初期に、月次自殺率は流行前に比べて有意に増加しました。分割時系列分析によると、全体で月次自殺率(100万人あたり)が+4.14(95% CI: 1.70–6.58)と有意に急激な変化が認められました。
かかりつけ医受診の有無による影響: 流行期間中、定期的にかかりつけ医を受診していない人では、自殺率のレベル変化が+2.83(95% CI: 1.35–4.32)と有意に増加しました。一方、定期的に受診していた人では+0.99(95% CI: -0.78–2.76)と増加はみられませんでした。
精神科受診の有無による影響: 精神科を定期的に受診していない人では、自殺率が+2.85(95% CI: 0.56–5.14)と有意に増加しました。一方、精神科を受診していた人では+0.59(95% CI: -0.98–2.16)と増加はみられませんでした。
解釈: 定期的な医療機関受診(かかりつけ医・精神科)は、パンデミック時の自殺リスクを抑える緩衝材の役割を果たしていた可能性が示されました。特に医療機関受診がない人々におけるレベル変化の顕著な増加は、行動制限や医療アクセスの低下による精神的健康への悪影響を反映している可能性があります。
この研究結果は、2025年1月24日に学術誌「BMC Primary Care」に掲載されました。
研究成果の内容
- 解析手法: 分割時系列解析を実施し、流行期間中の月次自殺率のレベル変化(即時的な影響)とトレンド変化(長期的な影響)を評価しました。
- 主要な発見:
全体で自殺率の有意な急激な変化が認められましたが、傾向の変化は見られませんでした(+0.02, 95% CI: -0.10–0.13)。

o 定期的な医療機関受診がある場合、流行期間中も自殺率の有意な変化は認められませんでした。
o 一方、受診がない場合では顕著なレベル変化が観察され、医療アクセスが自殺リスク抑制における重要な要因であることが示されました。
今後の展開
本研究は、パンデミック下における精神的健康維持のための以下の提言を行います。
- 医療アクセスの改善: かかりつけ医・精神科への定期的な受診を啓発し、受診の敷居を下げる対策が必要です。
- 予防的介入の強化: 精神的健康を支えるため、訪問機会の減少を補完するオンライン診療や地域連携の推進。
- 医療政策の構築: パンデミック時における医療機関への接触機会を確保するための持続可能なポリシーの策定。
用語の解説:分割時系列分析
論文情報
- 掲載誌: BMC Primary Care
- 著者: Daisuke Miyamori, Yasushi Nagasaki, Shuhei Yoshida, Wataru Omori, Kei Itagaki, Masanori Ito
- タイトル: Role of regular medical visits in mitigating increased suicide risk during the early COVID-19 pandemic in Kobe, Japan
- DOI: 10.1186/s12875-025-02707-2