ワークショップ開催報告(2013年11月)

集合写真

Workshop on Environmental Issues of Ships and Related Technologies の報告

海上輸送システム研究室 安川宏紀
 

平成25年11月29,30日の2日間,広島大学大学院工学研究科(工学部)A2-231会議室で“Workshop on Environmental Issues of Ships and Related Technologies”(船の環境問題とそれに関連した技術に関するワークショップ)を開催しました。本ワークショップは,日本船舶海洋工学会西部支部性能研究会(会長: 岩下英嗣先生)の主催として,実施されたものです。ワークショップのプログラムを次に示します。

Program

29 November, 2013​

14:00~15:00
Prof. Volker Bertram (GL), A Method for Hull Performance Monitoring

​15:00~16:00
​Prof. Naoji Toki (Ehime Univ.), Promotion of Quasi-Steady Speed Trial Concept

16:15~17:00
​Mr. Makoto Kawabuchi (MHI), Air Lubrication Technology for GHG Reduction

17:00~17:30
​Mr. Kohei Tokunaga (Hiroshima Univ.), Design and Manufacturing of a Human-Powered Aircraft ― An Educational Activity in Hiroshima Univ. ―

30 November, 2013

09:30~10:00
​Prof. Volker Bertram (GL), Zero-Emission Design for a Scandlines Ferry

10:00~10:40
​Mr. Yuma Ito (Hiroshima Univ.), A Study on the Free-Surface Interaction Effect of 3-D Wings Flying in the Ground Effect

10:40~11:20
​Mr. Takahiro Miyasaka (Hiroshima Univ.), Prediction and Improvement of Propulsive Performance of Wing Sails Considering Their Aerodynamic Interaction

今回は,Germanischer Lloydの子会社であるFuture Shipという会社のSenior Project Managerを務めるProf. Volker Bertram,愛媛大学の土岐直二教授,三菱重工業長崎研究所の川淵信さまの3人を,講師としてお招きしました。それ以外の講師は,広島大学の大学院生であり,現在行っている最新の研究成果を英語で発表してもらいました。出席者は,約30名程でしたが,和気藹々とした中,討論も活発であり,手前味噌ではありますが,知的に楽しいワークショップになったように思います。

次に,もう少し詳しい状況を写真を交えて以下に示します。

岩下先生による開会の挨拶のあと(図1参照),Bertram教授により,船の性能に関するモニタリングについて話がありました(図2参照)。今後,実船の性能をきちんと把握するモニタリング技術は大事になるものと予想されます。実海域を航行する船の長期にわたるモニタリングは,現時点でもいろいろ問題はあるものの,それを乗り越えれば,標準装備が進むように思われました。

岩下教授の挨拶

図1: 岩下教授の挨拶
 

Bertram教授の御講演の様子

図2: Bertram教授の御講演の様子
 

続いて,土岐教授による新しい試運転解析法について話がありました(図3参照)。船の試運転は,船の性能を確認する大事な試験ですが,そこには波,風,潮流といった外乱が存在し,その影響がどのくらいあるのか,さらにはそれらの影響が無い場合の性能はどのようになるのか,を知る必要があります。それを理論的に求める知る新しいアイデアについての講演でした。今後広く使われる可能性を秘めた有望な方法であると考えられます。

川淵さんによる講演は,船底から空気を吹き出し,それによって船の抵抗を大幅に下げるという「空気吹き出し法による抵抗低減技術」に関するものでした(図4参照)。三菱重工業では,すでに装置の開発が済んでおり,現在実船への搭載が進んでいます。省エネ効果は,最大で約10%とのことでした。世界中の多くの船に,これが搭載されることになるかもしれません。

土岐教授の御講演の様子

図3: 土岐教授の御講演の様子
 

川淵さんの御講演の様子

図4: 川淵さんの御講演の様子
 

初日最後は,岩下先生から「懇親会前の前菜として聞いて欲しい」と紹介された修士1年の徳永君による講演でした(図5参照)。広島大学で取り組んでいる「鳥人間コンテスト」での人力飛行機製作の歴史,成績,苦労に関するもので,純粋に楽しめるものでした。「鳥人間コンテスト」での人力飛行機製作の指導は教官にとってもロードのかかるものですが,工学における苦労と物作りの喜びを学生に知らしめる上で大変貴重な機会であると捉えています。「鳥人間コンテスト」での優勝を目指し,引き続きトライして行きたいと考えています。

徳永君の発表の様子

図5: 徳永君の発表の様子
 

二日目は,Bertram教授によるCO2排出量ゼロ,水素を用いた燃料電池による両頭型フェリ-の話でした。実際の運行までを考えた,真実味のある話でしたが,船価は相当に高そうであり,近々実際に建造されるのは難しいような気がします。ただ,環境先進地域の北ヨーロッパでは,このような船が具体的に議論されていることに驚きました。

次の講演は,広島大学修士2年の伊藤君によるWIG(地面効果翼機)の流体力特性に関する話でした(図6参照)。WIG(Wing In Ground)とは,水面上を比較的近接して飛ぶ航空機のことであり,将来の輸送機器として,期待されています。主に,理論計算法を用いて,波と船体の干渉について議論しました。専門家からの厳しい議論にも,上手に英語で応答していました。

最後の講演は,広島大学修士2年の宮坂君による帆をたくさん備えた商船の推進性能に関する話でした(図7参照)。船の省エネを進めるべく,商船にもヨットのような帆を載せて運行するというアイデアが提案されています。それに対して,どのような帆の形状が良いのか,複数本並んだ帆の迎角はどのようにすべきなのか,といった点に対する理論的な検討結果について,報告がなされました。実務のプロの目から見た厳しい意見も聞かれましたが,逆に良い経験になったものと思います。英語でのやりとりもよく頑張りました。

伊藤君の発表の様子

図6: 伊藤君の発表の様子
 

宮坂君の発表の様子

図7: 宮坂君の発表の様子
 

ということで,二日間のワークショップは無事終了しました。次回(来年度に予定)は,もう少し規模を大きくして,このようなワークショップを開催したいと思っています。そのときには,ぜひ御参加下さい。
 


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