マインドフルネスから得る休息

 最近「マインドフルネス」という言葉をよく耳にしませんか? 近年、マインドフルネスに基づいてGoogleで能力開発メソッドに使われるなど、医療、教育、職業といった現場における健康と安心を促進する方法として、マインドフルネス瞑想が注目を浴びてきています。瞑想の専門家(修行僧)だけではなく、誰もが得ることが可能な作用について考えます。

書誌情報など

(1) 田中圭介, 杉浦義典, 竹林由武. 注意の定位機能とマインドフルネス傾向の関連—注意の喚起機能による調整効果. パーソナリティ研究. 2013, vol.22, no.2, p.146-155.
(2) 高田圭二, 田中圭介, 竹林由武, 杉浦義典. マインドフルネスとwell-beingと注意の制御の関連. パーソナリティ研究. 2016, vol.25, no.1, p.35-49.

研究者プロフィール

杉浦 義典 (すぎうら よしのり)
准教授・博士(教育学)
大学院総合科学研究科 行動科学講座
研究分野 社会科学 / 心理学 / 臨床心理学

 

 マインドフルネス瞑想とは、自己の今、または、ここにある経験のすべて(例えば、感覚、感情、体の状態、思考)を穏やかに、評価や判断を伴わない姿勢で観察する技法です。この10年間で、心理的不調を治療したり、さまざまな場面(例えば、医療、教育、職業)での健康と安心(well-being)を促進したりするための方法として、マインドフルネス瞑想に対する関心が高まりを見せてきました。しかしながら、マインドフルネス瞑想がどのように、そして、なぜ、作用するのかに関して、研究が不足していました。明らかに、マインドフルネス瞑想は自発的な注意の制御、すなわち、現在の経験に集中することに関連します。したがって、我々はマインドフルネスの有益な効果とは何かを特定するために、注意に関する具体的な側面に焦点を当てました。

 

マインドフルネス瞑想の実践

 

 田中博士(上越教育大学大学院学校教育研究科・講師)と共同で行った最初の研究では、2つの注意機能が連携して、経験のマインドフルな気づきが促進されることが明らかになりました。すなわち、経験への集中が警戒を促す時間的手がかりの影響を受けない時、ならびに環境における特定の側面に集中することが可能な時には、経験についてマインドフルな気づきを得ることができます。したがって、瞑想の実践においては注意の中の複数の側面を育成することが必要です。例えば、まずは自分自身の呼吸に集中し、注意が逸れた場合には呼吸に戻る、というようなことから始めることです。続いて、次の段階へと進み、起きている経験のすべての側面に気づき、集中することができます。さまざまな事象が往来しており、それに対して特定の事象に留まるのではなく、1つ1つに気付いてゆけば良いのです。

 

マインドフルネスの効果を測定する実験の様子

 

 2つ目の研究も田中博士と共同で行いました。この研究では、注意の制御が上手にできるようになると、経験の観察がwell-beingの促進に寄与することが指摘されました。我々の経験には肯定的なもの、否定的なもの、ニュートラルなものが含まれます。注意が否定的な経験に固執されてしまうと、苦しみが伴う傾向があります。例えば、経験が肯定的なものであっても、それは束の間のものに過ぎないという性質に気を取られてしまうと、やはり苦しみが伴うことになります。それに対して、現在に集中し、次の瞬間にはそれを解放することができれば、苦しい思いをすることはありません。集中をうまく制御できれば、このようにして、現在の一瞬一瞬に焦点を合わせることが可能になります。瞑想過程でこのような注意の制御力を高めるためには、現在に集中することが必要です。そして、意識がさまよい、特定の事象についての思考を始めると、意識が彷徨っている事実に穏やかに気付き、注意を現在に戻せば良いのです。同時に、例えば、聞こえるもの、目に見えるもの、匂いを感じるもの、どのように動くか、どのように感じるかなど、経験の幅広い側面に意識を向けるのも良いでしょう。

 留意すべきことは、上述の結果が一般的な普通の大学生から得られたものであり、瞑想の専門家(修道僧)によるものではないということです。つまり、マインドフルネスの有益な効果(well-beingの促進など)は誰しもが得ることができることが示唆されます。

 

 

この記事は、学術・社会連携室と広報グループが作成し、2016年に公開したものです。


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