2005年に財団法人日本サッカー協会が掲げた「JFA2005年宣言」には、2050年までにワールドカップを再び日本で開催し、その大会で日本代表チームが優勝することを目標の1つにしています。その目標を後押しするため、運動学、生理学、栄養学といった自然科学的手法を用いた研究は盛んに行われています。しかし、本研究はサッカーのゲーム構造を哲学的に究明して、より客観的にサッカーゲームをとらえることで、目標に近づくことが出来るとしています。
研究者プロフィール
木庭 康樹(きにわ こうき)
准教授
大学院総合科学研究科 行動科学講座
研究分野 複合領域 / 健康・スポーツ科学 / スポーツ科学
サッカー関係者が、日々精力を注ぎ、最も興味を抱いている対象は、サッカーの試合すなわちゲームではないでしょうか。
過去や現在にみられるゲーム現象をより客観的に理解し、それらに対する評価や反省を、現在や未来のゲームへと役立てていくためには、サッカーゲームの本質についての明確な理解と、個々のゲーム現象を分析するための思考の枠組みがあらかじめ用意されていなければならないはずです。
本研究は、サッカーのゲーム分析のために、スポーツゲームの構造を哲学的に探究して明らかにすることを試みました。まず、木庭先生の研究チームは、スポーツの起源である古代ギリシアの「ギュムノス・アゴーン (gymnos agōn)」(身体運動競技)という言葉に着目し、とりわけ、その語の意味の根幹である「アゴーン (agōn)」(競技)について考察を行いました。
20世紀の現代思想である構造主義によると、人間が営むすべての文化的・社会的な事象には、無意識的な深層構造として独自の法則があると言われています。「競技」の構造に着目すると、この構造の機能を、以下のような比較関数によって定式化することができます。
AG = cf (a, b) = a>b, a=b, a<b | r
AG:アゴーン(競技)、 cf:比較関数、 a:競技者、 b:対戦相手、 r:ルール
>:勝ち、 =:引き分け、 <:負け
これによって、「競技」を一つのシステムとして把握することが可能になりました。さらに、この関数に技術や戦術、フィジカルやメンタル、パフォーマンスの美しさや競技者のパーソナリティなどといった競技者と対戦相手のすべての力量を数式へと変換する様々な関数を、入れ子状態に組み込むことができるのです。
このようにサッカーのゲーム〈構造〉を哲学的に究明することによって、サッカーゲームが明確な対象性を確保し、サッカーゲームをより客観的な研究対象としてとらえることができます。その結果、現在、サッカーゲームの部分や構成要素をバラバラに扱っている、スポーツ社会学やスポーツ史、スポーツ経営学、スポーツ教育学、スポーツ心理学などの人文社会科学、さらには、バイオメカニクスや運動学、スポーツ生理学、スポーツ栄養学などの自然科学の観点を統合し、サッカーゲームを総合科学的に分析することも可能となってくるでしょう。
この記事は、学術・社会連携室と広報グループが作成し、2017年に公開したものです。