国境を越えるフィリピンの子供たち

 現在、親に呼び寄せられるなどして学齢期に国際移住する子供、若者が増加しています。たくさんの国際移住者を送り出してきたフィリピンに着目し、フィリピンから異なる国へと移住した子供・若者の多様な移動の経験を、人類学的フィールドワークに基づき明らかにし、比較します。

書誌情報など

Nagasaka, Itaru; Fresnoza-Flot, Asuncion. Mobile childhoods in Filipino transnational families: migrant children with similar roots in different routes. Palgrave Macmillan, 2015, 268p, (Migration, diasporas and citizenship), ISBN 978-1-1375-1513-1.

研究者プロフィール

長坂 格 (ながさか いたる)

准教授・博士(文学)

大学院総合科学研究科 社会文明研究講座

研究分野 人文学 / 文化人類学 / 文化人類学・民俗学

総合人文社会 / 地域研究 / 地域研究

社会科学 / 社会学 / 社会学

 

 私は、1990年代から現在まで、フィリピンのルソン島北部、イタリアのローマ市を主な調査地として、文化人類学的フィールドワークをおこなってきました。大きなテーマは、フィリピンからのイタリアへの移住の拡大と、それに伴う人々の家族関係や出身地地域社会の変化でした。その調査研究の最初の成果としては、2009年に『国境を越えるフィリピン村人の民族誌』(明石書店)という本を出版しています。

 

 

 その後、調査を続けていると、フィリピンからイタリアに移住した人々の子どもたちが、2000年代に入ってイタリアに移住する事例が増えていることがわかりました。私がフィリピンでフィールドワークを始めたときには、まだ村で親族に育てられていた子どもたちが、10代となったときにイタリアに移住し、イタリアに住む親と同居し始め、そしてイタリアの学校で学ぶようになるという変化を目の当たりにして、これらの子どもたちがいかに自分たちの移動を理解し、そしてどのように関係性と自己意識を再構築してきたかという問題に関心を持つようになりました。

 

フィリピンの調査地の風景

 

 そのような関心を持ってフィリピン全体の状況をみると、フィリピンから移住する子どもたちが増加してきたこと、そしてその行き先が多様化してきたことがわかってきました。そこで私は、フィリピン研究を行っている国内外の研究者に声をかけて、学齢期に、フィリピンから異なる国への移動を経験した子供たちの移住経験の多様性を把握することを目的とする国際共同研究を組織しました。この国際共同研究の成果である本書では、フィリピンと移住先国双方でのフィールドワークにもとづき、学齢期にフィリピンからフランス、イタリア、日本、アメリカ、カナダ、オーストラリアへと移住した人々が、それぞれの移住先で異なる課題に直面する中で、いかに家族、コミュニティにおける関係性を育み、自己意識を再構築してきたかを明らかにしました。東南アジアからの国際移住、トランスナショナル家族、子どもの移動、子ども・若者移民の社会統合などの問題に関心を持つ、少しでも多くの人々に、本書を読んでもらうことを期待しています。

 

イタリアの学校でフィリピン出身の生徒が使用する教科書

 

この記事は、学術・社会連携室と広報グループが作成し、2016年に公開したものです。


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