早川 和彦. 高次元時系列データ分析の最近の展開. 日本統計学会誌. シリーズJ. 2014, Vol.43, No.2, p.275-292, 03895602.
いわゆるビッグデータと呼ばれる大量のデータが、社会の至るところで収集・蓄積され、高度に分析されるようになっています。この論文の研究主題は、景気やインフレといったマクロ経済の予測に活用するビッグデータ分析です。最近では、数十から数百種類の時系列データを分析することで、より精度の高い景気予測が可能となってきています。同論文では、こういった大量で多種類のデータを扱うための計量分析手法を紹介します。
早川 和彦(はやかわ かずひこ)
教授
広島大学大学院社会科学研究科 経済分析講座
研究分野 社会科学/経済学/経済統計
情報通信技術の発展・普及により、今日、様々な場面で多くのデータが自動的に収集・蓄積されるようになって来ています。実際のビジネスの現場でも、そのデータ(ビッグデータ)を用いて有益な情報を得ようとしています。このような大量のデータを有効に使おうという傾向は、経済学でも当てはまります。例えば、スーパーのPOSデータを用いて新しい物価指数を作成したり、ファイナンスの分野ではティックデータと呼ばれる秒単位・分単位の株式や為替レートのデータを用いた研究も行われています。
これまでのさまざまな研究成果をまとめた、このサーベイ論文では、その中でも特に多種類のマクロ時系列データを用いた研究を紹介しています。マクロ経済学の1つのテーマとして、景気の計測という問題があります。この問題に対し、これまでは、分析者が代表的な経済データを数個(例えば、鉱工業生産指数や有効求人倍率など3, 4個)選んで、それを統計学・計量経済学の手法を用いて分析する、というのが基本的なアプローチでした。しかしながら、どの変数を選ぶかは、分析者の主観に基づいており、選ぶ変数によっては結果が異なるという問題が生じてしまいます。この問題の背景として、伝統的な統計手法は、高々数個の変数を分析することを前提にしているという点があり、多種類の変数を用いて分析することが困難でした。しかし、近年、多種類の変数を分析するための統計手法が開発され、それを使うことで、例えば数十から数百種類の高次元マクロ時系列データを用いて景気を計測することが可能になりました。実際、ヨーロッパでは、Centre for Economic Policy Research(CEPR)という研究機関が、EuroCOINと呼ばれる高次元マクロ時系列データを用いて作成された景気指標を公表しています。
このような高次元データを用いた計量分析は、現在、計量経済学の中心的なテーマになっており、様々な研究が行われています。例えば、インフレ率を予測する際には、伝統的な手法に基づいたものより、高次元データを用いて予測した方が、予測の精度が高くなるという研究や、高次元データを扱うための計量分析手法自体も中心的な研究テーマとなっています。
この記事は、学術・社会連携室と広報グループが作成し、2017年に公開したものです。