翻案から見えてくる三島由紀夫の新たな世界

 繰り返し映画や演劇に二次創作されてきた三島由紀夫の文学。宝塚歌劇の「春の雪」、宮本亜門演出の「金閣寺」の二つの優れた舞台をもとに、現代の視点から捉え直された三島文学の“性”のありようを考えます。

書誌情報など

有元伸子. "アダプテーションは何を物語るか -三島由紀夫作品とジェンダー / セクシュアリティ". 21世紀の三島由紀夫. 有元伸子, 久保田裕子編. 翰林書房, 2015, p.200-211.

研究者プロフィール

有元 伸子 (ありもと のぶこ)
教授・博士(文学)
文学研究科 日本・中国文学語学講座(日本文学語学分野)
研究分野 人文学 / 文学 / 日本文学

 

 三島由紀夫(1925-1970)は、戦後の日本文学を代表する小説家・劇作家です。没後45年が過ぎ、割腹自殺という衝撃的な死にすべてを還元する読みから三島文学を解放し、現在の多様な研究的視点によって再解釈を試みるべき時期にきています。

 

 

 この論文では、三島の代表的な小説「春の雪」「金閣寺」を原作とする二つの演劇作品をもとに、三島文学に底流するジェンダーとセクシュアリティについて検討しました。三島由紀夫の小説は、作者の生前から多く映画化・舞台化されてきましたが、研究や批評の分野でこれらが焦点化されることは多くありませんでした。しかし、時代・空間・ジャンルを越えて翻案(adaptation)することにより、原作に伏流していた問題が浮上し、現代的な再解釈が可能になります。

 

 

 宝塚歌劇団は、日本で100年の伝統を誇る人気の劇団で、未婚の女性だけで構成され、男性登場人物も「男役」と呼ばれる女優が演じることを特色とします。2012年に宝塚歌劇団によって上演された「春の雪」は、優れた脚本と主演女優の熱演によって評価が高いです。幾重にも性を転倒させた舞台によって、三島の小説の男性主人公の非現実的な特質が示されます。 2011年~14年に上演された宮本亜門演出の「金閣寺」は、先行アダプテーションとしての映画「炎上」(1958年)のイメージをも摂取しつつ、主人公の疎外感と世界への参与の様相を舞台上に表現しています。原作に沈潜していた男性同士の親密性をすくい取りながら緊密に再構成されており、三島作品の二次創作におけるひとつの達成だと評価できます。

 

 

 このように、二つの舞台は、女性演者による異性愛表現と、男性同士の親密な関係によって、三島の原作が秘めている性をめぐる問題系をあぶりだしています。三島文学の資産を翻案することで演劇に大きな力が与えられるとともに、当代の演劇に翻案されることによって三島文学の方も繰返し活性化し、新たな意味を付与されて再生・更新されていくのです。

 

 

この記事は、学術・社会連携室と広報グループが作成し、2016年に公開したものです。


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