ジャパニーズ・イングリッシュではダメですか?!

 世界がグローバル化し、英語は言語や文化を異にする人々の間で共通語(リンガ・フランカ)として使われています。そこではネイティブ英語とは異なる独自のユニークな英語を堂々と話す人もいます。しかし、日本人はジャパニーズ・イングリッシュをネガティブに捉え、英語コミュニケーションに消極的であることが指摘されています。そこで、最近の英語学習やリンガ・フランカ英語の理論や研究を踏まえて、日本人の言語態度を考察し、文化間コミュニケーション能力を向上させるための取り組みを提案します。

書誌情報など

(1) 柴田美紀, 横田秀樹. 英語教育の素朴な疑問:教えるときの「思い込み」から考える. くろしお出版, 2014, 235p, ISBN978-4-87424-616-0.

(2) 柴田美紀. 英語教育における言語態度への取組み:学習英語とリンガ・フランカ 英語. アジア英語研究. 2015, vol.17, p.30-50.

研究者プロフィール

柴田 美紀 (しばた みき)
准教授・博士(第二言語習得と語学教育)
大学院総合科学研究科 人間文化研究講座
研究分野 人文学 / 言語学 / 外国語教育

 

 母語を習得した後に学習する言語を第二言語と呼ぶことがあります。日本人の多くは日本語が母語で、小学校あるいは中学校で外国語として学習を始める英語が第二言語となります。母語習得と外国語(第二言語)学習の大きな違いは、母語は知らないうちに身についており、特別な事情が無い限り誰もがネイティブになる一方、外国語は思うように上達せず個人差があることです。

 

 

 外国語の上達が難しい原因のひとつとして、母語と第二言語の言語的な違いが考えられます。例えば、英語の授業で、英語の語順が日本語と違うことや英語には冠詞があることなどを学習します。日本語と違う、あるいは日本語にない文法規則は理解するのが難しかったり、英語で話すときに間違えたりします。また、同じ日本人でも英語の上達に個人差が生まれる原因として言語態度(例:「ネイティブの英語が正しい」)や学習動機(例:「将来、留学したい」)等があります。

 

 

 こうした外国語学習も含め第二言語習得に関わる「なぜ?」を研究するのが第二言語習得研究(Second Language Acquisition: SLA)の分野です。SLAの研究結果は外国語教育に貴重な示唆を与えてくれます。例えば、授業で英語のゲームをする理由として、「生徒が楽しそうだから」というのは科学的根拠がありませんが、第二言語習得の研究や理論に基づいた目的を持って行えば、学習の促進につながります。英語の授業で行っている練習やアクティビティの目的や効果を、第二言語習得研究とその理論から具体的に見直すことをねらいとした本が (1) です。

 

 

 世界がグローバル化する中で英語はリンガ・フランカ(共通語)としての役割を果たしています。それに伴ってネイティブの英語(イギリス英語やアメリカ英語)とは異なる英語が生まれおり、文化間コミュニケーションではそうした英語で十分意思疎通ができています。ところが、日本では未だネイティブの英語が絶対視され、ジャパニーズ・イングリッシュを含め非母語話者の英語に対してネガティブです。 (2) の論文では、こうした日本人英語学習者の言語態度を英語教育でどのように改革していくべきかを提案しています。

 

 

この記事は、学術・社会連携室と広報グループが作成し、2016年に公開したものです。


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