本研究成果のポイント
〇非負値テンソル分解をエントロピーモデルと整合するように拡張し、交通理論と整合的な解釈が可能な機械学習モデルを開発。ミクロ経済学的基礎付けを持つ機械学習手法の開発に成功。
〇提案モデルの目的関数は非凸となることから、モデルのパラメータ推定のための交互最適化アルゴリズムを提案。
〇広島都市圏において使用されている公共交通ICカードデータ「PASPY」を用いた提案モデルの挙動検証。わずかなパラメータの増加(1.47%の増加)で精度を大幅に向上(22.5%の向上)させることに成功。
概 要
近年、都市や交通の問題解決のために新たなモデリング技術が注目されている。特に、機械学習手法が広く使用されるようになっているが、これを交通問題に適用する際にはいくつかの課題があった。具体的には、従来の手法と異なり、新しい技術を用いても交通理論との整合性を保つのが難しい点が課題であった。
この問題に対処するため、我々は機械学習手法の一つである「非負値テンソル分解(Tucker分解)」を交通分野のエントロピーモデル/離散選択モデルと整合するように拡張し、交通理論との整合性を保つ新たなモデルを開発した。提案モデルはミクロ経済学的基礎付けを持ち、非負値テンソル分解により次元縮減された基底の組み合わせ(潜在クラス)毎に時間価値などの交通計画上重要となるパラメータを推計することができる。
提案モデルの振る舞いを検証するために、広島都市圏で使われている公共交通ICカードデータ(PASPY)を用いた実証分析を実施した。その結果、既存の非負値テンソル分解では捉えることができなかった朝夕のピークタイムの移動や、出発地、目的地、時間帯、曜日による移動の特徴を捉えることが可能となった。さらに、提案モデルはわずかなパラメータの増加(1.47%の増加)で精度を大幅に向上(22.5%の向上)させることが可能であり、交通理論と機械学習手法の組み合わせが理論整合性のみならず精度向上にも寄与することが確認された。
【論文情報】
Ishii, Y., Hayakawa, K., Koide, S., Chikaraishi, M. (2022) Entropy Tucker model: Mining latent mobility patterns with simultaneous estimation of travel impedance parameters, Transportation Research Part C, 137, 103559.