複数の太古の地殻成分が沈み込み帯で再循環して生じた 東アジアのLOMU型アルカリ玄武岩

本研究成果のポイント

〇西南日本の北松浦および東松浦の玄武岩質マグマの地球化学的特徴は、ハワイ諸島を代表とする海洋島のものに類似する。

〇これらのマグマの地球化学的特徴は、沈み込んだ海洋地殻と炭酸塩を含む堆積物が大陸下のマントルに取り込まれたことを示す。

〇鉛同位体比を用いた解析から、約22億年前と約18億年前に沈み込んだU/Pb比の低い地殻成分が、大陸下のマントルに取り込まれたことが示唆された。

概  要

 地球のマントルの地球化学的特徴は、マントルが融解して生じるマグマを用いて解明されてきた。その結果、海洋下のマントルの化学的特徴は良く理解されているのに対し、大陸下のマントルについては未だ詳らかではない。これは大陸下では、マグマが、地表へと移動中に大陸地殻の成分を取り込み、地球化学的特徴を変化させるからである。本研究では、西南日本の新生代玄武岩類の岩石学的・地球化学的データを解析した。

 その結果、西南日本直下のマントルに、炭酸塩を含む堆積物と沈み込んだ海洋地殻成分が取り込まれたことが分かった。さらに鉛同位体組成の解析から、マントルへのU/Pb比の低い地殻物質の取り込みが、約22億年前と約18億年前の古原生代に少なくとも2回起こったことが示唆された。一方、これらの試料の地球化学的特徴は、中国大陸や日本海溝付近の太平洋プレート上のプチスポットと呼ばれる場で活動した玄武岩と類似している。このことは、U/Pb比の低い地殻成分を含むマントルが、ユーラシアプレート下だけでなくその近傍の太平洋プレート下にも普遍的に存在することを示唆する。 

 この研究によって、十億年以上前に大陸下のマントルに沈み込んで取り込まれた地殻成分が、マントル対流によって完全に均質化されることなく、マントル中で独立した化学的特徴を保持できることを明らかにした。

図1. 西南日本地域のテクトニックセッティング。調査試料はユーラシアプレート上の新生代プレート内玄武岩である。この地域の下にはフィリピン海プレートと太平洋プレートが沈み込んでいる(Dey et al., 2024を改変)。

図2. 東アジア地域における海洋地殻と堆積物の沈み込みリサイクルの模式図。(i)と(ii)は古原生代における海洋地殻の沈み込みとマントル中の地殻片の残骸を示し,(iii)はマントル遷移層からの含水マントル・プルームが上昇し,マントルと残存する地殻成分がともに融解して,東アジアのプレート内火山で玄武岩質マグマが生成される様子を示す(Dey et al., 2024を改変)。 

【論文情報】

Dey, B., Shibata, T. & Yoshikawa, M. (2024). LOMU Type Alkali Basalts in East Asia Sourced from Subduction Recycling of Multiple Ancient Crustal Components. Journal of Petrology 65, 104. 
DOI: 10.1093/petrology/egae104


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