有機結晶による選択的分子吸着に関する研究

本研究成果のポイント

〇平面分子が結晶状態で分子間に形状の一義的に定義された空孔をつくり、その空孔の形状に適合する特定の分子のみを選択的に取り込むことを発見

〇トランス体が大過剰に存在するシスおよびトランスデカリン混合物から、シスデカリンのみを選択的に取り込むことを実証

〇平面分子が分子間に有する「潜在的な空孔を用いた分離法」という仕組みを示し、様々な分子混合物の効率的な分離、濃縮、貯蔵に繋がる基盤分子としての可能性を提示

概  要

 トリス (フェニルイソオキサゾリル) ベンゼン誘導体 (TPIB) と呼ばれる平面型の有機分子が結晶化すると、外見上は空孔が存在しないように見えるにもかかわらず、小分子を取り込む分子間の空孔が形成されることが明らかになった。この空孔は、環状構造に見られるような明確な空孔とは異なり、結晶中における分子の並び方によって生じるものである。今回合成されたTPIBは、結晶中で柱状に積層した配列構造を優先的にとることで、柱状積層体間に形状が一義的に定まった空孔を与えた。また、TPIBの “潜在的な空孔” を利用して、形の似た異なる分子 (異性体) を分けることができるかどうかを検討した。その結果、シスデカリンとトランスデカリンという二つの異性体混合物から、シスデカリンのみを選択的に吸着することが実証された。

 従来このような分子選択性は、環状分子がつくる「環構造によって形状が一義的に定まった空孔」を基盤として研究が行われてきた。環状分子は結晶化の際に明確な分子内空孔を提供し、その大きさや形状によく適合する小分子を選択的に取り込む。一方本研究では、環状構造をもたない単純な平面分子であっても、分子間に包接空孔を形成し、選択的な分子吸着が可能であることを示した。この現象は「porosity-without-pore」と呼ばれ、見かけ上は空孔が存在しないにもかかわらず、外部から特定の分子が近づくと隠れた空孔が顕在化して分子を取り込むという仕組みに基づいている。

 今回の成果は、分子分離のための材料設計に新たな方向性を与えるものであり、従来の有機結晶材料の枠を超えて、平面分子を基盤とした軽量かつ金属を含まない新しい分離材料の可能性を拓いたといえる。

【論文情報】
Y. Ono, T. Hirao, N. Kawata, T. Haino, “Latent porosity of planar tris(phenylisoxazolyl)benzene” Nature Commun., 2024, Article No. 8314. DOI: 10.1038/s41467-024-52526-9


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