表面準弾性光散乱法と全反射XAFS法による界面活性剤―飽和アルカン混合吸着膜の相転移の研究

本研究成果のポイント

〇気液界面や液液界面は、固体表面に比べて分光測定の適用難度が高く、その基礎物性には明らかでない点が数多く残されている。

〇この論文では、気液界面に形成した界面活性剤と飽和アルカンの混合吸着膜を対象に、表面準弾性光散乱法と全反射XAFS法を駆使して、吸着膜の相転移現象にともなう界面の物性変化を計測した。 

〇吸着膜の正確な物性評価は、泡やエマルションの安定性の理解とも密接に関連し、洗浄や化粧品などの関連産業の発展にも貢献できる。

概  要

 界面活性剤は炭化水素鎖のような水に親和性の低い(油に親和性の高い)疎水基と水に親和性の高い親水基をあわせもった構造をしており、空気‐水、油-水界面に吸着して単分子膜を形成する。

 洗浄や乳化に用いられる界面活性剤の多くは、十分な親水性を担保するために親水基にイオン性(解離性)の親水基を有し、吸着分子が横方向に反発するため吸着密度に限界があるのが普通であるが、この研究では界面活性剤イオンの間の空間を飽和アルカン分子が充填することで極めて炭化水素鎖密度の高い膜構造が形成できることを報告している。 

 この吸着膜の相転移現象(単分子膜の液体‐固体転移)は、表面準弾性光散乱法による吸着膜の粘弾性の不連続変化によって確認され、また、界面活性剤イオンの対イオンである臭化物イオンの水和環境を液面全反射条件で測定したX線吸収微細構造法(XAFS)では、吸着膜相転移によって面内での流動性が低下した界面活性剤への対イオン吸着が促進されることも明らかとなった。

  吸着膜相転移にともなう界面物性の大きな変化は、泡やエマルションの安定性を温度でスイッチングするような新規な構造-物性相関の創出につながる可能性が高く、コロイド化学専門誌 Langmuirのサイドカバーに選出された。

"Reprinted with permission from Langmuir 2023, 39, 22, 7759–7765. Copyright 2023 American Chemical Society."

【論文情報】
 Matsubara, S., Funatsu, T., Tanida, H., Aratono, M., Imai, Y., & Matsubara, H. (2023). Effect of Surface Freezing of a Cationic Surfactant and n-Alkane Mixed Adsorbed Film on Counterion Distribution and Surface Dilational Viscoelasticity Studied by Total Reflection XAFS and Surface Quasi-Elastic Light Scattering. Langmuir, 39(22), 7759-7765. https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.3c00591

 

【お問合せ先】

松原 弘樹
大学院先進理工系科学研究科 化学プログラム 分析化学研究室
E-mail: hmtbr_at_hiroshima-u.ac.jp (注: _at_は半角@に置き換えてください)


up