本研究成果のポイント
- 長波長吸収材料を少量添加するだけで、塗布型有機薄膜太陽電池(OPV)の発電効率が1.5倍向上
- 結晶性の高い半導体ポリマーを用いて半導体層を厚膜化し、かつ強い光干渉効果を利用したことで、長波長吸収材料の光吸収が2倍以上に増幅
概要
広島大学の尾坂格教授、斎藤慎彦助教、山形大学の横山大輔准教授、京都大学の大北英生教授、千葉大学の吉田弘幸教授らの共同研究チームは、半導体ポリマー(※1)とフラーレン誘導体(※2)を用いた塗布型有機薄膜太陽電池(OPV)(※3)に、少量の長波長吸収材料を加えるだけで、大幅に発電効率が向上することを発見しました。
OPVは半導体ポリマーをプラスチック基板に塗って作製できるため、コストや環境負荷を抑えることができ、大面積化が容易です。また、軽量で柔軟、透明であり、室内光下で変換効率が高いという特長を持つことから、IoTセンサー、モバイル・ウェアラブル電源や窓、ビニールハウス向け電源など、現在普及している無機太陽電池では実現が難しい新たな応用を切り開く次世代太陽電池として注目されています。OPVの実用化には発電効率の向上が最重要課題ですが、そのためには、OPVができるだけ多くの太陽光を吸収できるようにすることが不可欠です。
今回、共同研究チームは、広島大学の研究グループが以前に開発した結晶性の高い半導体ポリマーとフラーレン誘導体の混合膜に、長波長吸収帯をもつ化合物を重量比で6%だけ少量添加すると、OPVの発電効率が1.5倍も向上することを見いだしました。山形大学の研究グループが分光エリプソメトリー(※4)解析の結果を基にOPVの光学シミュレーションをしたところ、光干渉効果によって少量添加した化合物の光吸収強度が大きく増幅されたことが分かりました。さらに、京都大学の研究グループが過渡吸収分光法(※5)を用いて電荷生成メカニズムを解析した結果、少量添加した化合物は、半導体ポリマーとフラーレン誘導体の界面に偏在しており、これにより効果的に電荷が生成することが明らかになりました。共同研究チームは、このような光増感作用と緻密に制御された材料のミクロな集合構造が、今回のOPVにおける発電効率向上の鍵であるとしています。今後、半導体層に用いる材料を改良することで、さらに飛躍的な発電効率の向上が期待できます。
本研究成果は、アメリカ化学会の科学誌「Macromolecules」にオンライン掲載されました。
分光エリプソメトリー解析の結果を基にシミュレートした、増感型三元系OPV断面の光吸収の分布。
(a)半導体層が約100 nmと薄いとき。(b) 半導体層が約400 nmと厚いとき。ITICの吸収帯において、吸収率が高い部分(矢印の青いスポット)は、半導体層が薄いときは一つだが、半導体層が厚いときは三つ現れており、強い光干渉効果があることが分かる。
用語解説
(※1) 半導体ポリマー
半導体の性質を持つポリマー(高分子の有機化合物)材料。可視光を吸収し、有機溶剤に溶けるため、塗ることができる半導体として、有機薄膜太陽電池をはじめとした有機デバイスに応用されている。
(※2) フラーレン誘導体
フラーレン(C60)に可溶性置換基が結合した化合物で、n型半導体特性を示す。
(※3) 有機薄膜太陽電池(OPV)
有機半導体を発電層として用いた薄膜太陽電池の総称。特に有機半導体の溶液を塗布して作製する有機薄膜太陽電池を塗布型OPVと呼ぶ。有機半導体としては、通常、p型半導体(正の電荷(=正孔、ホール)を輸送する半導体)である半導体ポリマーとn型半導体(負の電荷(=電子)を輸送する半導体)であるフラーレン誘導体が用いられる。塗布プロセスによる大量生産が適用できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから次世代の太陽電池として注目を集めている。OPVは、Organic PhotoVoltaicsの略。
(※4) 分光エリプソメトリー
偏光した光を薄膜サンプルに入射させ、薄膜での光反射による偏光状態の変化から膜の厚みや屈折率・消衰係数(光の吸収しやすさを表す)などを評価する方法。
(※5) 過渡吸収分光法
パルスレーザー光照射によって瞬間的に生じる光励起状態や反応中間状態等の生成・消滅過程を光吸収スペクトルの変化として追跡する測定手法。材料やデバイス中で起こる過渡的な過程を観測し、その反応機構や動作機構を解明することができる。
論文情報
- 掲載誌:Macromolecules
- 論文タイトル: Significantly Sensitized Ternary Blend Polymer Solar Cells with Very Small Content of the Narrow-Bandgap Third Component That Utilizes Optical Interference
- 著者名: Masahiko Saito, Yasunari Tamai, Hiroyuki Ichikawa, Hiroyuki Yoshida, Daisuke Yokoyama, Hideo Ohkita, Itaru Osaka
- DOI: 10.1021/acs.macromol.0c01787
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