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【研究成果】量子回路ブラックホールレーザー理論の構築に成功~指名手配“ホーキング輻射”を捕まえろ!~電気回路の中の宇宙

本研究成果のポイント

  • 電気回路を用いたブラックホールレーザーの理論を構築することに成功しました。
  • このレーザーを用いれば、ホーキング輻射(注1)の存在を明らかにすることができます。
  • また、このレーザーは非古典的な性質を持っていることから、次世代の革新的量子情報処理技術(量子コンピュータ(注2)や量子ニューラルネットワーク(注3))に対して新しい光源を提供します。

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の片山春菜・大学院生は、電気回路において擬似的なブラックホールを創生し、それを用いたレーザー理論を構築することに成功しました。このレーザーを用いると、未解決課題であるブラックホールからの輻射(ホーキング輻射)の存在を明らかにすることができます。また、このレーザーは通常のレーザーと異なり、ホーキング輻射の素過程に由来するスクイーズド状態(注4)と呼ばれる非古典的性質を持つレーザーとなり、新しい光源として量子情報技術などでの応用が期待されます。本研究の成果は、英国科学誌Scientific Reports(Nature Publishing)に9月27日午前10時(英国時間)に掲載されました。また、第82回応用物理学会秋季学術講演会(令和3年9月開催)の注目講演として発表いたしました。
(https://confit。atlas。jp/guide/event/jsap2021a/subject/12p-N403-6/advanced)

ブラックホールの滝登りモデル

用語解説

(注1)ホーキング輻射
ホーキング輻射は、光でさえ脱出できないブラックホールの事象の地平線付近で、量子力学的に対生成された仮想粒子(注5)が実粒子として輻射される現象です(図1参照)。 図1の点線で囲まれた二つの丸印が対生成を表し、黄色の丸が粒子を紫色の丸が反粒子を表します。

(注2)量子コンピュータ
量子力学を利用した計算機を量子コンピュータと言います。従来のコンピュータでは、回路の電圧を制御して、電圧が低い時は「0」、高い時は「1」のように、0と1を作り出し、それらを使って計算を行っています。それに対して、量子コンピュータは、量子の特徴である「状態の重ね合わせ」を利用して、「0」「1」の重ね合わせ状態を作ります。これにより、同時に何通りもの計算(超並列計算)を実現し、宇宙の年齢ほどかかる計算をあっという間に計算することが可能になります。

(注3)量子ニューラルネットワーク
近年、さまざまなネットワークが複雑化・大規模化し、これらの最適化・効率化が重要な課題となっています。そこで、生物の神経系を模倣した人工ニューラルネットワークが誕生しました。それに量子力学を取り入れものが量子ニューラルネットワークで、さらなる躍進が期待されています。

(注4)スクイーズド状態
光のふるまいは、古典的には波を特徴付ける振幅と位相によって一意に決まります。位相が揃った状態がレーザーです。量子力学によれば不確定性原理に基づく不可避なゆらぎが存在するため、位相は必ずゆらぎを持ちます。この量子のゆらぎが圧搾された状態のことをスクイーズド状態と言います。

(注5)仮想粒子
量子力学の基本原理の一つであるエネルギーと時間に関する不確定性原理によれば、エネルギーと時間は、確定しているわけではなく、それぞれ揺らいでいます。しかもそれらの間には、時間のゆらぎが小さくなれば、エネルギーのゆらぎが大きくなるという性質があります。もし短時間であれば、エネルギーのゆらぎは大きくなるので、真空にこのエネルギーが働きかけ、粒子と反粒子が対で生まれることができます。このようにして、短時間の間だけ、仮想的に生まれた粒子のことを仮想粒子と言います。

論文情報

  • 掲載誌: Scientific Reports
  • 論文タイトル: Quantum-circuit black hole lasers
  • 著者名: Haruna Katayama
  • DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-98456-0
【お問い合わせ先】

大学院先進理工系科学研究科
教授 畠中 憲之
Tel:082-424-6547
FAX:082-424-6547
E-mail:noriyuki*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)


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