食品廃棄物が家禽用のサプリメントに!~炭素循環シナリオが完成~

●健康維持に有用なDHAやEPAを生産する微生物(スラウストキトリッド)に、餌として食品廃棄物を与え、得られた培養産物を水産物や家禽用のサプリメントとして利用する研究を企業と共同で実施。 

●その結果、DHAやEPAを多く含むサプリメントを作成することに成功。さらに、このサプリメントを産卵鶏の餌に加えた場合、卵黄中のDHA含有量、EPA含有量をいずれも増加させられることと、鶏肉中のDHA含有量も高められることを明らかにした。

【概要および背景】

 ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの多価不飽和脂肪酸はヒトの健康維持に有用な物質であり、魚油を原料としたDHAやEPAを含む機能性表示食品の需要が増加しています。また、海産魚の成育にはDHAやEPAが必要であり、養殖魚の飼料には魚油が加えられてきました。機能性表示食品と養殖魚のニーズは今後もさらに高まる一方で、天然魚の漁獲に依存する魚油の利用拡大は持続的ではありません。 そこで、広島大学大学院先進理工系科学研究科の中井智司教授は、DHAやEPAを生産する微生物スラウストキトリッドに着目しました。この微生物は、有機物を分解して増殖します。そこで、食品廃棄物を基質(餌)としてスラウストキトリッドを培養し、得られた培養産物をそのまま水産物や家禽用のサプリメントとして利用する“炭素循環シナリオ”(図1)の研究に着手しました。

 中井智司教授は、(株)山豊、オタフクソース(株)の協力のもと、広島菜の古漬や米糖化液圧搾粕を用いてスラウストキトリッドを培養した結果、DHAやEPAを最大で68 mg/g、2.2 mg/gにて含むサプリメントを作成することに成功しました。さらに、広島大学大学院統合生命科学研究科の新居隆浩助教との共同実験として行われた産卵鶏への給餌試験により、サプリメントを餌に10%加えることで、卵黄中のDHA含有量を約2倍の602–905 mg/100 g、EPA含有量を約1.5倍の8.38–13.6 mg /100 gまで増加させられること、さらに鶏肉中のDHA含有量も高められることを明らかにしました(図2)。DHAやEPA含有量を強化した鶏卵は機能性表示食品として販売されており、この研究成果は食品廃棄物を利用して家禽製品の高価値化を図るサプリメントを生産できることを実証しました。 また、本研究成果はJournal of Material Cycles and Waste Managementに8月6日に掲載されました。

図2 卵黄中のDHA(左)およびEPA(右)含有量の変化(Control、市販のみ給餌;RVR市販の餌に⽶糖化液圧搾粕を10%添加;HOP、市販の餌に広島菜古漬けを添加;Biomass mixture、市販の餌にサプリメントを10%添加)、 *は有意差があった系列 (P < 0.05).

【今後の展開】

 この手法では他の食品廃棄物も基質として利用できることが期待され、広島菜古漬のように広島県の特産のものを基質として利用することで、高価値化した家禽製品のブランド化も図ることも可能と考えられます。今後は、適用可能な食品廃棄物をさらに検索すると共に、家禽産業での社会実装のため、サプリメントのハンドリング性の向上を図っていきます。

【論文情報】

タイトル:Application of an eco-feed produced by culturing Aurantiochytrium sp. strain L3W using solid food waste to produce poultry products enriched with ω-3 fatty acids  
著者:Wataru Asao, Satoshi Nakai, Takahiro Nii, Wataru Nishijima, Takehiko Gotoh & Nurlaili Humaidah  
掲載誌:Journal of Material Cycles and Waste Management  
DOI:https://doi.org/10.1007/s10163-023-01757-x 

【その他】

 本研究は、科学研究費補助金(19K12398)、科学技術振興機構 国際共同研究プログラム(JPMJSC21E8)、ならびに広島循環型社会推進機構の支援を受けて実施されました。

【お問い合わせ先】

大学院先進理工系科学研究科 教授 中井 智司
Tel:082-424-7621
E-mail:sn4247621*hiroshima-u.ac.jp(*は半角@に置き換えてください)


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